第2話
三年前から僕は一人暮らしを始め、東京都心のとある私立大学に通っている。
家庭があまり裕福ではなく、本当は地元の国立大学志望だったのだが、残念な事に実力が及ばず入学は叶わなかった。
どうしても大学には行きたかったのと、僕が落ちた大学と近い偏差値の所に受かって学歴に箔を付けたかったのとで、親に無理を言って都内、しかも都心にある、そこそこのレベルの私立大学を受験させてもらい、見事合格を勝ち取った。
合格したのは良いが、問題はやはり金だ。文系といえども私立大学の学費の高さは、僕の家のような貧困家庭にとっては破壊的な出費を強いる。
それに加えてキャンパスは実家からかなりの遠方に位置しているので、アパートを借りて一人暮らしをしなければならなかった。
そのため借りる部屋の家賃を相当に倹約する事は必須で、さらに奨学金も借りたり、時々アルバイトもしたりして、なるべく親に負担をかけないようにしなければならなかった。
貧しい実家からの、月の仕送り額は非常に限られている。そこに僕がアルバイトで稼ぐ(であろう)金額を足しても、家賃に回せる額は一ヶ月に多くて二万円までだ。
という事で都心の家賃二万円以下で暮らせる部屋を探すという無茶をしなければならなかった。
また考慮するのは家賃だけではない。電車賃を出す余裕も無いので、電車を使わず通学出来る事だって必要だ。
それでもアルバイトや用事やらで、電車を使う事もあるだろうから駅に近い事も重要。また一人暮らしをするなら、今まで以上に生活面も大切にしなければならない。スーパー等の小売店が近くて生活必需品の買い物がしやすい事も必要だ。
キャンパスと駅と小売店が徒歩圏内にあって、尚且つ家賃二万円以下の都心の部屋。そんな物件が都合良く見つかる訳が無いと思っていた。
しかし意外。ある程度の妥協をする事を前提で諦め半分に、スマホでおもむろにググっていたところ、何ともあっさりと見つかってしまった。
即決でそこに住むと決めた。
この時の僕は理想の条件の住居を構えられるという昂揚感に、一生に一度あるか無いかの狂喜乱舞をした。
読者の皆さんはとっくにお気づきだと思うが、冷静に考えれば、いや冷静に考えなくても、都心でそんな優良物件となると必然的に「ワケ有り」だと思うのが普通だ。
それなのに愚かにも僕はこの時、見つかる訳が無いと思っていた理想の物件が見つかった嬉しさで、そんな事は微塵も考えてもいなかった。
正確には、これから僕が住もうとしている部屋には、すでに「先客」がいるなんて事は夢にも思っていなかったのだ。
その部屋は以前に人が死んだ場所だった(これはアパートの大家さんも不親切にもお茶を濁すばかりでよく教えてくれず、その「先客」から直々に教えてもらった事実だ)。
そしてその人の霊が未だに成仏せず部屋に住みついていた。そしてその幽霊は自分と同い年くらいの、大学生くらいの見た目の女の子であり、彼女こそが「先客」だったのだ。
月の家賃二万円。大学のキャンパスと駅まで徒歩十分圏内。ショッピング街へのアクセスも良好。しかも幽霊と一緒に暮らせて話し相手にも困らない。とてつもない優良物件を手に入れてしまったなあ僕は。
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