第40話 自業自得
「勝者! スタローン!!」
「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」
司会進行役が俺の名を読み上げると、三百六十度を取り囲む観衆から、鼓膜をつんざくほどの歓声が闘技場内に轟く。
敗者に大金を賭けた者は頭を抱え、勝者である俺に賭けた者は、次回も俺で稼ぐことに期待をしていた。
目の前には、心臓を一突きにされ息絶えた相手が突っ伏している。
お前にも家族はいたのだろうが、どうか許してくれ。
俺自身も勝つことで大金を得られるが、一戦一戦を生き延びるのは並大抵のことではなかった。
大体の奴が初戦で死ぬ。
運が良くても次で死ぬ。
英雄のような者でもその次で死ぬ。
ようは、俺達がいつ死ぬのかは神のみぞ知る――というわけだ。
「今日もなんとか生き延びることが出来たよ」
戦争捕虜に身をやつし、
それでも妻と娘とは今でも手紙のやり取りをしている。
大きくなった娘には、とうとうボーイフレンドが出来たとか。
「まったく……時が経つのは早いものだな」
闘技場が開催されて以来、俺は家族に再会することを夢見て、ひたすら戦い続けた。
規定では、百連勝すると奴隷の身分から解き放たれるという。
普通なら不可能なその条件を、俺は藁にもすがる思いで掴み、あと一勝すれば解放されるところまで迫っていた。
「父さん……もうすぐ帰るからな」
そして、最後の一戦に見事に勝った私は、奴隷から解放され急いで故郷へと帰国を果たした。
「嘘……だろ」
闘技場で得た金貨を携え、妻と娘の喜ぶ顔を想像していた俺は、あるべきはずの祖国が既に崩壊していたことを知った。
目の前には見渡す限りの草原が広がり、かつて建物だと思われる残骸が、至るところに亡骸のように残されていた。
「じゃあ……俺が何年もやり取りしていたのは……」
きっと、手紙を受け渡していた看守の仕業だ。
仕送りに送っていた金貨も自らの懐にいれ、手紙も捏造して俺に手渡していたのだ。
「ああああああ!!!」
なぜ気がつかなかったのか。
気が触れるほど叫び続け、生きるのに絶望した俺は、腰から下げていた短剣で喉を引き裂いた。
『いらっしゃいませ☆』
――なんだ……ここは。どうして俺は生きている。
「いいですね~その初々しい
「確かに責務を放棄してたような話ばかりだったからな。ここいらで本調子を取り戻しておくのがベストだろ。脇が甘いと刺される前に防刃ベストを着るべきだ」
「あの……粗茶ですが」
ルナが淹れるお茶を困惑顔で受け取った男は、案の定戸惑いを隠せないようで卑弥呼に詰め寄る。
「なあ。見ず知らずの者の茶番に付き合うつもりはないんだが、ここは一体どこなのだ」
「うんうん。この
「……なんだと? やはりあれは夢ではなかったのか……」
「あら、自覚はあるのですね。まあよくある突発的な自殺ですが、詳しい死因はお聞きになりますか?」
「いや……いい。興味はない。それより俺はどうなるんだ? あれだけ人を殺したんだから、地獄落ちか?」
「そうですね……残念ながらそのようです」
「お、おい。このオッサンがなにしたって言うんだよ」
「そうですよ卑弥呼様。優しそうなおじさんじゃないですか」
手元の資料を眺めていた卑弥呼は、深い溜め息を吐くと淡々と告げた。
「このアフターケア事業部は、お亡くなりになった方の転生、わかりやすくいえば次の世界に生まれ変わる為のお手伝いを図る部署なのですが、ランボーさんは転生の要件に合致しないのです」
「世界を救った訳じゃないのか」
「その通りです」
「……わかった。妻も娘もこの世にいないのであれば、地獄に落ちようがどうしようが、もはやどうでもいい。さぁ、好きにしてくれ」
「わかりました。それでは地獄へ逝ってらっしゃいませ。あ、一つ大事なことを伝え忘れてました。ちゃんと事実を知ってもらった上で地獄へ落ちてもらわないと、私が後でどやらせますからね」
「伝えたいこととはなんだ?」
「奥さんと娘さんは、今もご存命ですよ」
「ほ、本当か!良かった……生き延びていたんだな」
「今では新しい旦那さんと連れ子も含めた四人で仲よく暮らしてるみたいですね。すっかりランボーさんのことは過去にされてますよ」
「……へ?」
「まったくよー。卑弥呼様も人が悪いよな。あんなタイミングで言うことじゃないだろ。あれから『地獄に行きたくない!』って暴れるもんだから、こっちは余計な手傷まで負うしよ。あ、ルナ、もう少し優しくして……」
「赤チンは染みるので我慢してください」
「百人殺せば英雄、とも言いますがね。やってたことはただの殺戮ショーですから、奴隷とはいえその片棒を積極的に担いでいた罪は重いのですよ。それにちゃんと現実を教えてあげないと、地獄へ落ちたところで本当の意味で改心するわけでもないですし」
「どういうことだよ」
「あの人、家族に長年DVをしていたんですよ。だから戦争捕虜となったことを残された家族は大いに喜んで、別のお優しい男性と幸せな生活を送っている。そう聴くと、ほら、ランボーさんは地獄に落ちるべきじゃないですか」
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