第39話 解決?

 二人のまさかの趣味の一致をまざまざと見せつけられた四人は、馴染みとなりつつある居酒屋に戦略的撤退を余儀なくされていた。

 敗軍の将、ルナを筆頭に、ジャンヌダルク、アマテラス、そして卑弥呼の四人は、揃って意気消沈している。



「そもそもルナの作戦が完全に裏目に出たのがいけないんですよ」


 すっかり目が据わった卑弥呼に問い詰められるルナは、ひたすら小さな体を縮こまらせていた。


「まさか、大枚を叩いて天才子役を起用したのがあだになるなんて……申し訳ありませんでした……」


「謝らなくてもいいんですよ。そもそも卑弥呼が直接戻ってこいと言えば良いだけなのですから。ねえ卑弥呼」


「私がそんな七面倒くさいことするわけないじゃないですか」


何杯目かのビールを空にしてそっぽを向く卑弥呼。


「いい加減素直になれば?」


恋愛経験皆無のジャンヌダルクが口を挟もうものなら――


「お黙りなさい」


冷たい口調で一蹴される。


「ねえ。なんで私には辛辣なの?」


 そんなしょうもない会話をしていると――


「おいーす卑弥呼様」


 なんと、しれっとニートが顔を出した。


「今日からまたよろしくな」


「え……どうして帰ってきたんですか?」


「随分なご挨拶じゃねえかよ。そもそも卑弥呼様の部下だろうが」


「いや……そうではありましたけど。でも、あの女のもとに走ったじゃありませんか。その事にたいして謝罪を要求します!」


「そんなこと言わないで、さっさと許せばいいのにね」


「そう言わないであげてくださいジャンヌダルク。卑弥呼は拗らせすぎの捻くれ者なのは、今に始まったことではないのですから」


「そこ! 五月蝿いですよ! まったくもうったらまったくもうですよ本当に」


「でも、そんな嫌そうじゃないですよ?」


「る、ルナ、何を言ってるんですか! なんで私がこの男を向かい入れるのに喜ばないといけないんですか!」


「そもそもの話なんですが、ダーリンはどうして帰ってきたんですか? 監査部のほうが待遇は遥かに良いというのに」


「ああ、それはな」


『解釈違いだ』


「「「「は?」」」」


「だから、解釈違いが原因なんだって。アスカと今期の新作アニメについて討論してたんだがな、アイツ、よりにもよって俺が推してるカプを全否定しやがったんだ」


 場に白けた空気が流れる。ジャンヌだけは、うんうんと理解を示していたが。


「そこからは十年戦争だよ。ひたすら罵りあい罵倒の嵐。結局ケンカ別れって感じだな」


「なんか……僕達の心配って徒労だったみたいですね……」


 ルナの一言が正鵠を射ていたことは間違いなかった。



 数日後、アフターケア事業部に一通の手紙が届く。

 送り主はアスカ・ラングラー。

 受け取った卑弥呼は、その内容を確認してから小さく微笑んだ。

 そこには、ニートが自分のもとに帰ってきた本当の理由が記されていたから。何て書いてあったか――それは誰にも内緒。


「まったく、お互い素直じゃないんですから」


 ほんの少し、機嫌が良くなっ卑弥呼なのでした。

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