第41話 戦国乱世
「なあ卑弥呼様よー」
「なんですか? 有給なら取らせませんよ。どんな理由であれ管理者として認めませんから」
「しれっと恐ろしいことをいうな。人権が働いてないぞ」
「働くもなにも、働かないニートに与えられる人権なんてハナから存在しませんからね」
「この極端に偏った思想の駄目神め。ってそうじゃなくて、近頃Vチューバーが流行ってるの知ってるか?」
「ああ、そういえばそんな色物もありましたね。美少女アバターの中身は中年のオッサンだというのに、そのネカマのパンチラに興奮しちゃってる視聴者という亡者を作り出すコンテンツに、私はナンの価値も見出だせませんが」
「やはり偏った思想の持ち主だな。いいか、今やVチューバーの世界は一流企業も注目している戦国時代だと言ってもいい。新しいニューカマーが生まれては消え、生まれては消えていく。まるで三國志のような乱世なのだ!」
「なのだ!じゃねえですよ。偉人の方々もネカマと同一視されたらやりきれないでしょうね。後世に名を遺した甲斐がありませんよ」
「そこで、今日は卑弥呼様にはVチューバーデビューを果たしていただきたいと思います」
「は? 私の話聞いてましたか? そんなゲテモノコンテンツにこの高潔な卑弥呼様が手を出すとでもお思いなんですか」
「そっかぁ……上手くいけば企業とのコラボも出来るし、お金も稼げるんだけどなぁ……チラッ」
「――!」
「卑弥呼様なら上手くやれると思ったんだがなあ……。普段のちょっとした仕草とかも可愛いし……チラッ」
「……そ、そこまで言うのなら、部下のためにこの絶世の美女である卑弥呼様がやってあげるのも
安定のチョロインですね。さすがです。
「絶世の美女とは言ってないし、めっちゃ前向きじゃねぇか。まぁいいや……もうルナは始めてるからよ」
「ルナもやってるんですか? ふふ……あの恥ずかしがり屋なルナでは 戦国覇者になるのは難しくって?」
「やる気に満ち満ちているようでなによりだが、その心配はないぞ」
「?」
「ほら見ろ。これがVチューバー界の
「キャルーーーーン☆今日もみんな元気かにゃぁぁぁ?」
<元気です>
<元気です>
<息子も元気です>
「エヘヘ☆ボクね……みんなに逢えなくてさみしかったにゃぁ……」
<可愛い>
<抱き締めたいこの可愛さ>
<ペロペロしたい>
「……これは、なんですか? 私の知ってるルナはどこに行ったんですか?」
「登録者数二十万」
「へ?」
「始めて一ヶ月でこの数字だ。巷では次世代の僕っ子王と呼ばれてる。卑弥呼様よ……やるからには半端じゃ勝てねえぞ」
「だ、誰に言ってるんですか! この超絶怒濤のギャン可愛い卑弥呼様の手にかかれば、こんな欲求不満の視聴者どもなんか簡単に釣れるに決まってるじゃないですか」
「その言葉……覚えておくんだな」
一ヶ月後――
「だからオッサンじゃねえって言ってるだろうが! あ?『画面越しに加齢臭が漂ってくるwww』だと!? くそが! こっちは女神だぞ!」
《ハイハイw》
《今日も見事な煽り運転ですね》
《鼻毛出てるぞ》
「だから何度言えばわかるんですか!! どうして誰も女神だと信じてくれないんですかぁぁぁ」
「ふ……Vチューバーの
血煙たちこめる世界へようこそ――
ようやく一歩を踏み出した愛弟子をそっと見送ると、男は自分の
「ルナも卑弥呼も……さっさと追い付いてこいよ」
登録者数百万人――
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