第7話 性なる夜
今年も準備から大忙しじゃ。いくら子供の数が減っているとはいえ、ワシらのような存在も、なり手不足で年々減っておる。
「お前らも足腰きついと思うが、もう少し頑張ってくれ」
長年連れ添った相棒たちの体を撫でてやると、やる気に満ちた鳴き声で応えてくれた。
「さて、そろそろ出掛けるかの――」
「いらっしゃいませ☆」
「ん? ここはどこじゃ?」
「ここは、天下唯一の相談窓口アフターケア事業部です。残念ながらお爺さんは亡くなってしまいました。ですが今なら異世界に転生していただくことができますよ」
「は?」
「あら、お爺さんボケちゃったの? うちはケアといっても介護事業には進出してないんですがね」
「何やってるんだよ卑弥呼様……あれ、その爺さん何処かで見覚えが……白い髭もじゃで全身真っ赤のカズレーザーもどきのぶっとびセンス爺さんといえば……」
「貴方の知り合いなんですか?」
「ああ、あんたは夜な夜な幼い子供達の部屋に忍び込んで、プレゼントと称して卑猥な事を企んでる変質者のサンタクロースじゃねえか」
「ひっ……ド変態さんです」
「ちょっ……その言い方は語弊が。どこぞの妖怪みたいな説明ではないか。確かに子供の部屋に侵入していることは事実じゃが、それはあくまで仕事であって……それに私が好きなのは、幼妻じゃっ!」
「幼妻じゃっ!じゃないですよ。胸張って言うことじゃないですよね、それ。貴方の顔張ってやりましょうか。はっ……もしかして私のこともそんな目で見てないですよね?」
「「 チェンジで」」
「おいっ。クソニートはともかく、なぜ初対面の変態にチェンジ扱いを受けねばならない。断固拒否する! 当店はチェンジ制度など存在しません!」
「卑弥呼様……落ち着いてください。ここはそういうお店ではありません」
「いや、貴女からはそこはかとなく地雷臭が漂っていますので。それに、幼いという割には……ぶふっ」
「おい! サンタクロースってこんな感じなんですか!? だいぶ想像から逸脱した存在なんですが」
「サンタクロースっていってもごまんといるしな。確か本物はフィンランドかどっかの協会に属してるんだっけか。まあ詳しいことは知らんが、変態が一人や二人いてもおかしくはないだろ」
「あの……つい盛り上がってしまったんじゃが、ワシ死んだのか?」
「ええ。貴方はお亡くなりになりました。死因はジェット機と衝突して空中四散です。航空法違反でしたね。ご愁傷さまです」
「クリスマス前に何やってんだよ爺さん。ぶっとぶのはセンスだけにしてくれよ。ホワイトクリスマスに血が降り注ぐとか勘弁してやれ」
「そんな……これからが忙しくなる時期だというのに……これでは――」
「そうですよね。子供達にプレゼンドを運ぶのが使命ですもんね。さぞ悔しいことかと思いますが――
「――幼妻の寝顔が見れないじゃないかっ!」
「そんなことだろうと思いましたよ。こいつはクセェ! プンプン匂いやがるぜ!」
「こんな性犯罪者予備軍が転生なんて許されんのか?」
「地獄に落ちるべきです……」
「ええ。個人的には地獄に蹴落してやりたいのですが、過去の功績がありますので転生が認められます。こんなやつが許される法など認めたくはありませんけどね」
「随分怒り心頭のようだな。そんなに年齢のこと指摘され――
「あ? なんか言ったかテメェ。その下半身のお粗末なイチモツをトナカイのソリでミンチにしてテメエに喰わしてやんぞ」
「ひっ」
「あの……ワシが戻らないと、現世の子供達にプレゼントが渡せないのじゃが」
「あー大丈夫ですよ。よその担当のサンタクロースにシフトの変更をお願いしたんで。貴方が死んだと知ったら、皆さん進んで受けてくださいましたよ。変態を除けば貴方は人望があったようですね。まあ私のような神と比べれば米粒のような存在ですがね」
「ふふ。あいつらがこぞって変わってくれたんですか。なるほどなるほど……」
サンタクロースは卑弥呼の言葉を聞くと、思うところがあったのか下を向いて肩を震わせ泣いているようだった。
俺にはサンタなんて無縁だったが、それでも世界中に夢を与えていたことは間違いない。死んだと理解して、さぞ無念なことだろう。
「それはの……多くプレゼントを運べばそのぶん特別手当てがつくからじゃ! あいつら許さん! 甦らせろ!」
「せっかくの流れが台無しだな」
「ですね」
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