第8話 神の依頼 前編

 特に転生するやつが来なく、暇なもんで鼻ほじほじしながら仕事に忙殺されている卑弥呼に会いに行った。


「おーい卑弥呼様ー」


「何ですか? ちょっと年末で仕事に忙殺されてるので手短にお願いします。あっ!

 上書き保存されてない!」


 何をしでかしたのか、やたらめったらキーボードを叩いて卑弥呼は奇声を上げている。規制をかけた方が良さそうな取り乱し方だ。


「卑弥呼様よー。どうやらお客が来てるみたいだぞ」


「あ? そんなの後にしてくださいよ。こっちは仕事が山積みだって言うのに、あっ! これうちの課の担当じゃないじゃないですか。上は適当な仕事しくさってホンマに……えっ、転生者の数が合わへんやんけ! なんでやねん!」


「おーおーだいぶ追い込まれてるなー。仕事もストレスも抱え込みすぎはよくないぞー」


「誰のせいだと思ってるんですか。そもそもあなたが働きアリほどにも役に立たないからでしょう。ちょっと聞いてるんで……すか?」


 やっと来客の存在に気づいたようだが、明らかに表情をなくしている。どうしたんだ?


「久しぶりだなあ、卑弥呼。そのぶんだと元気はあるみたいで良かった良かった。しかし少し見ないうちに老けたか? 合法ロリからロリババアに進化したな」


「げげ! あ、あ、あなあなああ、あなたは!」


「げげ!というやつを初めて見たわ。手持ち無沙汰で歩いてたらよ、このおっさんが卑弥呼様に用があるってんで、案内したんだよ」


「手持ち無沙汰って、こちとら両手じゃ抱えきれない仕事を抱えるというのに貴方って人は、クビにしますよ!」


「まあ落ち着けって、まだ両足が残ってるじゃないか」


「どこのイカレサイコパスだテメエは。卑弥呼よ。この俺様のこと忘れてねえか?」


「あ、失礼しました。なんでこんなところにおいでになられたんですか? イザナギ様」


「イザナギだと?」


「実はよ、折り入って卑弥呼に相談したいことがあるんだ」


(イザナギって、確か死んだイザナミを追いかけて黄泉に行ったわいいが……約束を破った挙げ句、尻尾を巻いて逃げたチキンヤローだよな)

(ええ、そうですよ。あなたに負けず劣らずのチキンヤローです。イザナミ様も可哀想ですね)

(女性の敵ですね)


「おい。好き勝手陰口叩くな。あんなおぞましいナリ見たらおぞましくて逃げるわ。今でも離婚調停が長引いて本当厄介なんだよ……って、今はそんな話しに来たんじゃない。実は俺の娘のアマテラスが部屋に閉じこもっちまって、仕事が溜まって仕方ないんだ」


「嫌です! もうこれ以上イジメないでください!」


「え? いや……ちょっと話だけでも……」


「いやっ! やめて! この獣! 性獣!  

 チキンヤロー!」


「おいおっさん。いくらなんでも部下に手出すのは感心しねえな。これでも俺の上司なんだよ。溜まってるなら黄泉に行って奥さんに相手してもらえよな」


「女性の敵です! あっち行ってください!」


「ちょっ、勘違いするな! アマテラスの仕事を卑弥呼に押し付けるわけでも、迫ってるわけでもねえから。実は娘は大のゲーマーでな。今はイベントだとか言って、仕事そっちのけでゲームに勤しんでるわけよ。それでそこの兄ちゃんなら話がわかるかと思って声かけに来たんだよ」


「あーだからここ最近曇りが続いてるんですね。現代の天岩戸といったところでしょうか。それならいくらでも貸し出しますよ。その代わり仕事を減らしてください。お願いします」


「おい。神が俺を人身御供に差し出すなよ。そんで便宜を図ろうとすな。俺にも選ぶ権利くらいあるだろ」


「アマテラス様の容姿は、目間麗しい幼子のようですよ」


「よし、アマテラスの天岩戸を開きに行こうじゃないか」


「おい。どういう意味だそれは。上手いこと言ったつもりか。娘に手出したらぶち殺すぞ」




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