§4 星空の下で

 夜の10時になろうとする頃、肌寒い空気を感じながら、六花は千宙と輝く星空を眺めていた。雪乃と央は、彼女の部屋に行った切りで、出て来る気配はなかった。

「あの二人、仲が良いですよね。わたしも、あんな彼氏ができると良いな。」

「彼氏がほしいの?六花だったら、すぐにいい人が見つかるよ!」

 彼の言葉を聞いて、私はますます告白しづらくなっていた。そんな時、山の方から犬の遠吠えが聞こえてきて、怖くなった私は無意識に彼の腕にしがみ付いていた。それを彼は受け入れ、優しく声を掛けてきた。

「怖いの?狼かもしれないね。六花は強いかと思っていたけど、可愛いところがあるんだね。新たな発見だ!」

「わたしは、そんなに強くないですよ。千宙さんの腕を抱えていると、心が落ち着きます。こうしていても、良いですか?」

 私は彼の許可を得て、彼の腕に体をすり寄せていた。

「そんなにくっ付くと、胸が当たってて変な気持ちになるよ。」と言われ、私はあわてて腕を離した。

「変な事言って、ごめん!つい正直に言ってしまうのが、俺の悪い癖なんだよな。誤解しないでね、決して俺は狼になったりしないから、安心して!」

「千宙さんが狼なら、わたしは怖くないです。だって、好きだから!」

 私はとうとう「好きだ」と告げた。後になって、心臓が跳ねていた。

「六花は、好きな人とキスしたいと思うことがある?」

彼の唐突な質問に、今度は心臓が跳び出しそうだった。

「そ、それは、うまく言えないけど、何か怖いような気がして、したいかしたくないかで言うと、もっともっと好きになったら。」

 自分でも訳が分からなくて、答えにならない事を口走っていた。彼は、

「そうか、そうだよね。ごめんね、変な事を聞いて。」と言って、その話は終わりになった。「キスしたい」と言っていたら、どうなっていたのか分からないが、私の告白は中途半端に終わった。


 1時間半ぐらいして、雪乃たち二人が部屋から出て来た。12時近くになっており、男子と女子の部屋に分かれて寝る事にした。

 部屋のベッドは綺麗になっていたが、私は雪乃たちが2時間近くも何をしていたのかが気になった。

「ねえ、二人で何してたの?」と訊くと、「別に何もしてないよ。六花もそんなことが気になるんだね。それで、千宙さんとは、どうだったの?」と逆に訊かれてしまった。気に掛けてくれた雪乃に応えるつもりで、事のてん末を語って聞かせた。雪乃は「良かったね」とだけ言って、眠ってしまった。


 翌日、朝食を食べ終わって、千宙と六花はハイキングをしながら帰ると言って保養所を後にした。雪乃の父の車は5人乗りで、全員が乗って帰れないと思い、二人は遠慮した。というよりも、六花が「千宙と二人で帰りたいから」とわがままを言い、雪乃がその気持を理解してくれたからだ。

 私たちは地図を頼りに、湖畔のバス停を目指して山道を進んだ。下り坂とはいえ、かなり歩くのがきつかった私は、思い切って彼に頼んだ。

「千宙さん、もう少しゆっくり歩いて!それから、手をつないでください。」

「そうだね、歩くのが早過ぎたね。」と言って、手をつないでくれた。そのままバス停に着くまで、しっかりと手をつないで歩いた。

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