§3 告白の機会

 保養所はバンガローになっていて、1階には広間とキッチン、浴室があり、2階には3部屋のベッドルームがあった。男子と女子に分かれて部屋を確認し、千宙と六花は散策に出掛けた。

「千宙さん、すみませんでした!雪乃の彼氏が、あんなに自慢ばかりする人だとは知らなくて。夜も寝る部屋が一緒で、ごめんなさい!」

「そんなに気にする事はないよ!小金井君に悪い印象はないよ。」

 千宙さんの横を歩きながら、私は彼の事をもっと知りたくなった。

「お昼の時、どうして雪乃たちの付き合うきっかけを訊いたんですか?」という私の質問に、彼は少し間を置いて答えた。

「小さい頃からの知り合いで、中2で付き合い出して、さらに卒業してからも続いているなんて、何かすごいなと思って。」


 千宙は自分に照らし合わせ、心の奥に仕舞い込んでいた事を思い出していた。中2で知り合って、ほんの1年だけ付き合っただけの七海の事を。そんな心の中を知らない六花は、告白する機会をうかがっていた。

「千宙さんは、好きな子とかいるんですか?」と私は遠回しに攻めた。「いないよ」という彼に、「どんな子が好きなのか」とか「付き合った事があるのか」とか、一方的に訊いていた。

「次から次へと質問攻めだね。実は中学の時に好きな子がいて、付き合っていたけど、彼女が転校してしまってそれ切りだな。」

 私はそれを聞いて、彼の心にはまだその彼女が残っているんだと確信した。しかし、それ以上を聞く勇気はなく、私からの告白も取り止めた。


 バンガローに戻ると、雪乃の両親が来ていて、お互いに紹介をし合った。

「央君は久し振りだね。雪乃と付き合い出したと、最近ママから聞いて驚いたよ。そちらの千宙君と六花さんだっけ、付き合ってるの?」と父親から訊かれ、二人して顔を見合わせていた。

「パパははっきりと言うから、勘弁してね。まあ、ゆっくりと楽しんでいってね!」と母親の配慮でその場は逃れたが、理解のある両親に見えた。

 夕食はバーベキューを皆で食べ、片付けは分担して行った。その後で花火をしたり、カードゲームをしたりして過ごした。入浴を済ませた両親は、お先にと言って早々に部屋に引き上げた。残された4人は、順番に入浴しようという事になって、じゃんけんで勝った雪乃と六花が先に一緒に風呂に入った。

「千宙さんに、例の事話せたの?」という雪乃に、私は「まだだ」とだけ答えた。「この後、二人にさせて上げるから、ためらわずに告白しなさいよ!」と言われ、私は緊張し始めていた。雪乃は髪の毛が長く、時間が掛かるからというので、私は先に部屋に戻った。窓際で千宙さんと小金井君が、真面目な顔をして語り合っていた。私はキッチンに飲み物を取りに行く振りをして、聞き耳を立てていた。

「六花ちゃんは、先輩のことがきっと好きですよ。立松さんは、彼女のことをどう思ってるんですか?付き合いたいとか、思わないんですか?」

「付き合うって、何だろう?今の関係で、俺は満足してるけどね。」

 二人の会話を聞いて、私は今の関係に満足してるのかどうか考えた。

「小金井君と雪乃ちゃんは、どういう交際をしているの?」

「僕たちはプラトニックな交際で、というのは嘘です。高校生になってキスしたし、体にも触れ合って、その後はまだ。今夜がチャンスかなと思っているんですが、難しいですかね?」

 そんな話が聞こえている所に、雪乃が風呂から上がって来た。

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