§2 友人のお膳立て

 六花は、千宙に対する気持ちが、憧れ以上のものだとは気付いていなかった。彼の事が心配で、脚のけがでやる気を失くしている彼の事が気になるのが、どうしてなのか分からなかった。また、初めてのデートでワクワクしている時に、そこで会った夏目和葉と仲良くしている彼が気に入らなかった。そんな思いを、親友の林雪乃ゆきのに相談した。

「それは、六花が立松さんに恋してるってことだよ。気になるし、心配だし、他の女子と仲良くしてると嫌なんでしょ!」と言われ、私は反論できなかった。好きには違いないが、これが恋なのだろうかと思った。

「わたしは、どうしたら良いの?告白とか、した方が良いの?」

「そんなに力まなくても良いけど、はっきりさせた方が良いよね。」


 六花は雪乃に話をした後、部活に行っても千宙ばかりを目で追っていた。雪乃からのアドバイスは、機会を見つけて誘い出し、自分の気持ちを伝えろという事だった。数日後、その機会を、雪乃が用意してくれた。

 雪乃は父の会社の保養所に、10月の連休に家族で行く事になっていた。大学生の兄は別の用事で行かないと言っており、両親と自分だけで行く事を拒んでいた。そこで計画したのが、幼馴染の彼氏の小金井こがねいひさしと六花たちを連れて行く事だった。そうすれば自分も楽しめるし、六花もチャンスができると思い、両親に提案した。両親はすんなりと認め、友だちを連れて来ても良いという事になった。

 私は千宙さんに雪乃の事情を話し、強引に頼まれたから一緒に行ってほしいとお願いして、何とか説き伏せた。雪乃の配慮は有難かったが、よく考えれば、体よく利用されているようなものだった。


 10月の連休の土日は部活も休みで、4人で電車とバスを乗り継いで奥多摩に出掛けた。雪乃の両親は、夕方に車で来て合流する事になっていた。電車とバスは混んでいて、ゆっくり話をする機会はなかったが、昼前には目的地に着いた。湖畔で昼食を食べる事になって、主な話題は学校や部活の事、お互いの関係などであった。

小金井君は北王子高校の1年生で、卓球部だという事だった。雪乃とは幼馴染で、中2から正式に交際していると言っていた。自分に自信があるようで、自慢気たっぷりに話す態度が鼻に付いた。千宙さんは黙って聞いていたが、私と同じ思いでいるのだろうと申し訳なく思った。

「雪乃は僕以外の男子には関心がなくて、そこが可愛いんですよね。」

「そんな事ないよ。立松さんをかっこいいと思ってるし、クラスの中にも気をひく男子がいるんだから!」

 雪乃と小金井君の会話に、私は飽き飽きしていたが、千宙さんは、

「二人は仲が良いんだね。幼馴染だった二人が、正式に付き合い出したきっかけは何?」と興味を向けていた。

「それは央が告白してきて、二人で会うようになって、お互いの家を行き来するようになったからですかね。親も公認の仲という訳です。」

 雪乃の回答に彼は納得したらしく、それ以上の話には発展しなかった。


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