§4 初めての恋愛映画

 新学期が始まり、七海は教室で花織から、花火大会の後日談を聞いた。連絡を交換し合った青柳からは頻繁にメールがあり、夏休みの間に3回会ったと彼女は話していた。七海は飽きれて聞いていたが、自分よりももっと世間知らずの花織が心配だった。

「大丈夫なの?ナンパされた相手だし、北高だよ。」

 北高だよ、の意味は自分でもよく分からなかったが、私は忠告した。

「郁君は優しくて、話していて楽しいよ。今度、家に誘われた。」

「そんなの絶対だめだよ!どう考えても、下心見え見えでしょ!」

 私の言葉がどれだけ通じたかは不明だったが、話はそこまでだった。自分の事を棚に上げて、彼女には偉そうな事を言っていた。


 放課後、七海が文芸部の部室に行くと、赤西が本を読んでいた。

「先輩、お久し振りです!夏期講習、お疲れ様でした。」

「おー、元気だった?今日はナミちゃんに話があって、待ってたんだ。」

 今までそんな事を言われた覚えがなく、私は舞い上がっていた。しかも、呼び方がナミちゃんになっていて、二度びっくりした。

「待ってたなんて、嬉しいです。で、話って何ですか?」

「見たい映画があるんだけど、一緒に行ってくれないかなと思って。勉強の息抜きに、良ければ今度の土曜日だけど、どう?」と誘われて、私は二つ返事で承諾した。その後は、予備校の話や夏休みの事などを語り合って、一緒に学校を出た。彼の横を歩きながら、久々に幸せな気分を味わっていた。


 朝から雨の降っている土曜日、七海は新調したワンピースに身を包み、赤西との待ち合せ場所に出掛けた。映画は恋愛もので、女流作家の小説を映像化したものだった。随所にキスシーンやベッドシーンがあり、七海はドキドキしながらスクリーンを見つめていた。映画が終わってからも、その興奮は冷めやらず、恥ずかしさもあって口数少なくなっていた。 マックの2階で昼食を摂りながら、亮伍に映画の感想を訊かれた。

「原作は読んだ事ないですが、ストーリーとしては面白いなと思いました。ただ、ラブシーンがリアル過ぎて、登場人物の心理描写が今一つかな。」

「僕は原作を読んで、映像に興味があったんだ。確かに小説では、心の動きが繊細に描かれていたけど、映画では表現の仕方が違って来るよね。」

 私は映画をあまり見た事がなく、特に恋愛映画は初めてだったので、表現の仕方と言われても、中々ピンと来なかった。さらに彼は、解説を続けた。

「例えば、好きだという気持ちを言葉で説明するのではなく、ラブシーンで表しているんだよ。君はリアル過ぎると言ったけど、恋する二人の心理が、キスやベッドシーンにうまく描かれていたと思うんだ。」

「恋人同士がキスとか、その…エッチとかするのが当然のように描かれていましたけど、二人の心が通じ合っているだけではダメなんですか?」

 私の素朴な質問に、彼は答えてくれなかった。その代わりに、

「ナミちゃんは、まだ子供だね!その内に分かるようになるよ!」と言い放たれ、その話は打ち切られた。もう少し話をしていたい気分だったが、本屋さんに立ち寄って別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る