§3 花火大会の誘い

 夏休みに入り、七海はやる事もなく暇な毎日を過ごしていた。アルバイトは禁止されていて出来ず、部活に行っても亮伍に会う事もかなわず、夏の課題もすべて終わらせていた。

「毎日家でゴロゴロして、よく飽きないわね。少し太ったんじゃないの?」と母親に言われるまでもなく、高校に入ってから8キロは太っている。陸上をやっていた時の引き締まった体に比べ、女らしくなったと言えば体裁は良いが、付くべき所に肉が付いた。胸が大きくなったのは嬉しいが、このままでは体重の増加は免れず、運動しなければと思っていた。

 8月の初めに、七海は友人の真行寺しんぎょうじ花織かおりから、花火大会に行かないかと誘われた。時間を持て余していた七海にとって、久し振りの外出を断る理由がなかった。当日は浴衣を着て、河川敷で行われる花火大会に出掛けた。

花織は私の数少ない友達の一人で、高校で同じクラスになり知り合った。彼女は顔が小さく、目は大きくお人形さんのようで、ツインテールの髪がよく似合っている。クラスの男子の中で人気度は高いが、特別な付き合いをしている男子はまだいないようだった。私の人気度はそれ程でなく、どちらかというと変わった女の子と見られているようだった。


 花火大会の河川敷は縁日のように屋台が出ていて、二人は所在なげに歩いていた。ヨーヨー釣りをしていた時、後ろから男子二人に声を掛けられた。七海は面倒だなと思っていたが、花織はそうでもなさそうだった。

「俺たち北高の1年生だけど、君たちはどこの高校?」と訊いてきたのは、青柳あおやぎ郁也いくやという小柄な男子だった。七海は花織の袖を引っ張って、関わらないようにと合図をしたが、花織は愛想よく返事をしていた。

「わたしたちは東高の1年生、わたしが真行寺花織で、こっちが梅枝七海。」と御親切に名前まで述べていた。私は飽きれて下を向いたままだった。

「えっ!梅枝?もしかして、金山中の3年D組?」と反応したのが、もう一人の白石しらいし冬馬とうまという、がっちりとした体型の男子だった。

「あっ!確か白石君?柔道をやってて、ヤンチャだった白石君か。」

「そうだよ。梅枝はあの頃痩せてたから、分からなかったよ!」と失礼な事を平気で言う彼を、私は上目遣いににらんでいた。

 それから誘われるままに、私たちは4人で歩いて商店街のファミレスに入った。私はもっぱら白石君と中学の思い出話を、花織は青柳君とアニメの話で意気投合していた。

「そうだ、思い出した!わたしが転校してきて、始めて私のスカートをめくったのは白石君だよね。その後で、白だとか言ってたよね!」

「あれ、覚えてたの?確かにあの時、男子のグループで洗礼を施そうという事になって、じゃんけんで負けた俺が仕方なくね!」

「ふざけんなよ!すごくショックだったんだからね。」

 その会話を聞いていた花織が、

「うちの中学では、後ろからブラの紐を引っ張られてたよ。」と口を挟んだ。そんな事をして喜んでいた中学の頃が、懐かしく思われた。

 帰り際に、白石君が私の連絡先をしつこく訊いてきたが、何とかごまかした。しかし、花織は青柳君と仲良くなり、スマホを寄せ合っていた。

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