第3話「デートの練習」

本屋で用事を済ませ。

いざ、帰ろう。

あとはみなとの用事さえ終わってしまえば。

それほど用事もないかなと思っていた時のこと。


みなとは食品フロアに行きたくないのか。

こちらをじーっと見つめていた。


「どうしたの? そんなに見つめて」


「ん-、自分の買い物が終わったら、帰ろうとした」


「何かまずい?」


「まずくはないけど、お姉さんと来てそれだったらまずい」


「え? そうなの?」


「だってそうじゃない、ぼくは買い物終わりました、帰ろうだなんて、付き合ってもらったお姉さんがかわいそう」


「よくわからない、みなとはいつもそれでいい感じじゃん、なんでなのかが理由をつかめない」


そこまで言うと。

みなとは少し考えていた。

僕はその答えが出るまで。


あせらないで、じっくりと待つことにする。


あせっても、答えは出ないからだ。


みなとはしばらく考えた後。

ゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「わたしは、言ってみると、まーくんの家族なわけ、だから怒らない」


「家族? 幼馴染なんじゃないの? よくわかんない」


「おば様に買い物頼まれてるし、そこまで頼まれてないし」


「どうすればいいか分からないよ」


「わたしで、デートの練習とかしてみる?」


その言葉に息をのんだ。


そういえばお姉さんも近い年である。

お姉さんも、確かにそのまま帰る。

なんてなってしまえば。


かなり残念な気分になるかもしれない。

そんな考えが固まり。

僕の中で一つの結論にいたる。


「じゃあ練習してみよう」


そんな気分になりみなとに、こっちおいでと。

手招きする。

みなとはその場を動かない。


ぼくは少し困って。

みなとに疑問な顔を向けてみる。

するとみなとはそうじゃないという顔をして。


言葉を紬ぎだす。


「お姉さんを一人で歩かせるつもり?」


「えと、あっ、手ぇ、つなぐ?」


みなとは少しむすっとしながら。

手を握ってきた。


「ほんと、にぶいんだから、お姉さん怒るかもよ?」


「そんなに? 悪いことをしてるつもりはないんだけどね」


「悪いことです、女の子を一人で歩かせるなんて、お姉さんきっと怒ります」


なんて怒られながら、みなととの。


デートの練習が始まった。


ものすごく先行きが不安だった。


「ねぇ、どこに連れてってくれるの?」


「みなとは何が欲しい?」


「えー、晩御飯」


「それだったら終わっちゃうじゃないか」


「だったら、まーくんがおすすめのところに行くしかないよね」


「えっと、えっと」


「ふふふ、頑張って考えて」


みなとはニヤニヤしながらこちらを見つめている。


確実に。

恋愛経験のないぼくは。

必死に考えた。


でも、お姉さんも学生だって言ってたし。

そんなに高い物買うとも思えない


「ねぇみなと、あそこの駄菓子屋さんいかない」


「あそこね、いいね」


そんな調子でみなとの手を引っ張って。

ショッピングモールの中の駄菓子屋さんを目指していた。


「ねぇまーくん」


「なぁに?」


「はやいよ」


「ん?」


「お姉さんの歩調はみてる? さっきからまーくんのペースでしか歩いてないじゃん」


「え? いつものことじゃん」


「それはわたしだからでしょ、わたしはスニーカー」


「うん」


「うん、じゃなくて、お姉さんハイヒール履いてたら?」


「えと、あの、それは」


困りはてて、返す言葉を悩んでいた。


みなとは少しクスクス笑いながらぼくを見ていた。


「もぉ、だからお姉さんの歩幅見てなきゃだめよ、お姉さんがハイヒールはいてきて、足痛いとかなったら、それは大変」


「だよね、それは気が付かなった」


「よしよし、わたしの歩幅みながら歩くんだよ?」


みなとにそんな風に言われながら。

ちょくちょく歩幅を確認しながらゆっくりと歩く。


ぼくとみなとの身長差は。

だいたい7センチくらい。

みなとの方が、少し下。


普段はみなとは僕の歩幅に合わせていてくれたのがよくわかる。


みなとは少しペースをあげたり。

落としたり。


ぼくのこと意識しながらも。

わざと一定にしない。


「まーくん、まーくん、足ばっか見て、変な人みたいよ?」


「ええ? ああ? えっと」


返す言葉見つからず。

挙動不審みたいになってしまう。


今日がいきなりお姉さんとのデートではなく。


みなととの練習ですごくよかったと心の中で思った。


「なんかお話ないの?」


「え、えと、いい天気ですね」


「はははは、まーくん今日は曇りだよ」


「え、えと、今日は曇りですね」


「くもりですね」


「え、えと、今日は朝にトーストを食べました」


「わたしはジャムをつけるのが好きです」


「みなと、つけたっけ?」


「つけるよー、なんでしらないの?」


「見たことないから」


「あたりまえでしょ、食べ終わってから、まーくん起こすし」


「うん、そっか」


それから少しの沈黙。

みなとがジーっとこちらを見つめている。


「えと、どうしたらいいかな?」


「なんか、ないの? 何ジャムが好きですか? とか」


「え、えと、何ジャムが好きですか?」


「えっとねぇ、イチゴジャムと、マーマレード」


「まって、マーマレードって何?」


「オレンジのやつ、お昼のお弁当でも使ったよ」


「え? ああ、あのほろ苦い感じの」


「まーくん緊張してるの?」


「ごめん」


「まず、落ち着いて」


「う、うん、ありがと」


「よし、ついたよ」


みなとの言葉に我に戻った。


駄菓子屋さんが目の前にあった。

ショッピングモールの中の短い距離だったけど。

すごく考えさせられた時間だった。


そしていろいろ反省すべき点も多かったと思えた。


なんか小さなヨーグルトを見つめながら、そのことを話していた。


それに何となく相槌をしながら。


みなとが今までとは全然違って見えた。


みなとは色々買っている。

ぼくにも。


おばさんからお金をもらってるから。

ほしいのを買えっていうのでとりあえずいつも食べている。


お菓子だけ頼んで。

食品売り場へ買い物に行く。



「まーくんは久しぶりに、このせんべいでよかったの?」


とか


「これによくソースかけてるよね? おいしいの?」


なんて話題を振ってくる。

それに何となく、答えながら。


みなとが持ってほしいとか。


みなとがあれだとか。

これだとか。


いうものをかごに入れていた。

さっきまでの恋愛の基本を教えていたみなとを見ながら。

みなとも女の子なんだなと、すごく感じてしまって。


何かそわそわしていた。


レジで会計をしているのをみながら。

みなとの姿がなんとなくかわいく見えてしまう。


「ほらほら、まーくん持って」


みなとにせがまれて、荷物をもってショッピングモールでバスを待つ。


何気ない言葉を拾えず。

みなとのことを、ぼんやり見つめるしかなかった。


みなとと歩きながら。

いろいろ感じ取ってしまって。

これがもし。お姉さんだったらどうだろう。


そんなことを考えて緊張しかできなかった。


みなととだから。

こうやって過ごせたのだけど。

お姉さんに実際に見られたら。


ダメだったかもしれない。


そんな反省点を感じつつ。


それはますます。

みなとに色々聞くしかないな。


とか思いつつ。

みなとを見つめる。


朝早く起きて、ご飯を作ってくれたから。

すやすや眠っているみなと。


バスが家に近くについたときに。

みなとを起こして。


バスを降りる。

みなとの家まで荷物を運んだ。


また今度ね。

と約束しながら。


今度また、女の子の話教えてね。


という話をしたら。

みなとは快くひきうてくれた。


ありがとうと言いながら。


ぼくは家に向かって歩き始めた

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