第12話 オマケⅠ

 王宮の宰相の執務室で


 「アルフレッド、何、溜息をついているんだ?辛気臭からやめろ!」

 「そんな酷いですね」

 「で、原因は婦人か?」

 「まあ、…はいそいうです」

 「まさか浮気でもしたのか?」

 「と、とんでもない。そんな事はしません」

 「なら何だ?」


 オーガストの問いにモジモジしながらアルフレッドは溜息交じりに答える。


 「実はある事に気付いたんです。はあ―」

 「何に?」

 「妻から一度も『愛している』と言われた事が無いんです」

 「えっ、結婚して何年も経つのに一度もか?」

 「はい、一度もです」

 「それは……」

 「妻が僕をどう思っているんでしょうか?公爵夫人から何か聞いておられませんか?」

 「うーん、アマリリスからなぁ」

 「やっぱり、貴族の義務だけの関係でしょうか」

 「確か、先だってお茶会で話をした時に彼女が恋人や夫婦の愛情と家族の愛情の違いが分からないといっていたらしい」


 アルフレッドはこの言葉にハッとした。


 彼女は知らないんだ。ずっと苦労して若い内に結婚したから、恋愛もしてないし、婚約者だっていなかった。僕とは直ぐに結婚したから…


 周りには大人しかいなかったから、同世代の話もしてこなかった。


 いや、正確にはできなかったのだ。そういう環境に置かれていたから…


 思春期の一番楽しい時間を老人介護と領地経営で学校にも行けなかった妻を思い、せめてこれからは家族としてでも愛情を返して貰えれば満足だと。


 自分に言い聞かせるアルフレッドだった。


 それを横目にオーガストは


 少女時代から夫と姉の仲睦まじい様子を見せ続けられていた彼女からすれば、結婚してから愛していると言われても戸惑うだろう。


 まあ、貞淑な彼女が愛人なんか持たないし、こいつの様子から二度と他の女には、目を向けることもないだろう。


 アマリリスからのアドバイスでの意趣返しで言わない様に言われている。なんて事は言わない。俺もアマリリスに愛想を尽かされくはないからな。


 悪いなアルフレッド。精々頑張ってくれ。陰ながら応援する。


 だが、肩は持たない。ご婦人方の機嫌を損ねたくないからな。悪く思うなよ。


 そんな事を上司が思っているとは露程にも思っていないアルフレッドだった。

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