第9話 姉と妹
「えっ…エミリー」
「お姉様、どうか過ちを認めて下さい。そして大伯母様のお墓に参って下さい。お願いします」
「な、何を言っているの。今更だわ」
「でも、大伯母様はずっとお姉様の帰りを待っていました。いつかは帰って来てくれると……」
「貴女なんかに私の気持ちがわかるものですか。今更、平民なんて言われた私の気持ちが……ワァァァ」
そう言い、エリザベスはエミリーに向かって持っていたシャンパングラスを投げた。その前にアルフレッドがエミリーを隠す様に避けると、シャンパングラスは、アルフレッドの足元で砕けて割れた。それはかつての幼い初恋が粉々に砕け散った瞬間でもあった。会場にはグラスの割れた音が虚しく響いている。
直ぐに衛兵に取り押さえられたエリザベスは、まだ何かを喚きながら引き摺られながら会場から連れ出された。
静まり帰る会場をオーガストが場を収める。
「皆、折角のパーティーが台無しだね。気を取り直して再開しよう」
オーガストの合図で再び音楽が流れ出し、少しずつ会場の雰囲気が和やかになって行った。
「君達も踊ったらどうなんだ?」
オーガストの言葉にアルフレッドが照れた仕種で
「実は妻は懐妊中なので、ダンスは遠慮します」
小さな声で、ボソボソと呟いたのを聞いて
「皆、スタンレー侯爵夫人は懐妊中だそうだ」
面白そうにオーガストが大声で叫んだ。
「ちょ、ちょっと殿下、やめて下さい。そんな大声で…」
アルフレッドとエミリーは恥ずかしそうに俯いていると、周りに自然と人だかりが出来ていた。
「まあ侯爵夫人は身重だったのね。あちらの控え室でお喋りを楽しみましょう」
そう話し掛けてきたのはアマリリス・アンドリュ公爵令嬢だった。彼女はもうすぐオーガストと結婚する。社交なれしていないエミリーへの配慮だった。彼女が話し掛けた事がきっかけで他の令嬢や夫人が同じように次々と声をかけてくる。
またアルフレッドの周りにも
「おめでとう」
「羨ましいよ。私の所はまだだからね」
「子供は、鎹だからね。これからは上手くいくよ」
祝福の言葉を受けながら、エミリーは戸惑っていた。
初めての社交界で自分を受け入れて貰えた事を嬉しく思う反面、姉の境遇に心が痛んだ。そんなエミリーを横目にアルフレッドは正式なプロポーズをする決意を固めるのだった。
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