第8話  対峙

 会場の一角に目的の人物を見つけた。


 その人物はエリザベス・ブラウン。


 「やあ、エリザベス嬢。今日は何故、君がここに来ているのか、私は不思議に思っているんだが」


 エリザベスは、その問いに違和感を覚えた。


 「これは第二王子殿下お久しぶりです。私はモーリア侯爵令息のパートナーとして参加させていただいております」

 「ふーん、だったらなんでアルフレッドに言い寄ったんだ。それにスタンレー侯爵夫人が見ているのを知って態と見せつけたんだろう?」

 「まあ、殿下酷いですわ。私をそんな悪女の様に仰るなんて……」

 「だが、君は達には、エミリー・スタンレー侯爵夫人をそう云う風に言っているのを直接聞いている。【姉の婚約者を奪った妹】だとね」


 一瞬だが、エリザベスの顔色が変わった。


 「だとしても事実でしょう?私と侯爵は婚約者同士だったのに、エミリーに取られたのですから」

 「な…なんて事を言うんだエリザベス嬢、これは亡き祖父の遺言だ。それに今はエミリーを愛しているし、生涯を共にしたい唯一の女性だと思っている」

 「まあ、では私との約束を破るのですか?」

 「アルフレッド、約束とは?」

 「祖父の遺言でもエリザベスを娶ると言ったことがあります。もう昔のことですよ。今更子供の頃の約束を持ち出されても意味がない。だって君は大伯母様が危篤でも僕の祖父が危篤の時も帰っては来なかった」


 そう、いつもエミリーが看病して最後を看取った。その献身的な姿を見ていたからこそ結婚したのに、僕はエミリーを知らず知らずの内に蔑にしてしまっていた。年下の彼女の好意に甘えていたのだ。その甘えがエリザベスに付け込まれる原因なのに…


 アルフレッドは自傷する様に冷めた笑いが思わず出た。


 「エリザベス嬢、君はここにいる資格はない。直ぐに退出してもらう。それに平民の身でありながら貴族であるスタンレー侯爵夫人を貶めた罪は重い。王都からの追放処分にする。これは法務省の決定だ!」

 「私が平民ですって、な…何かの間違いです」


 慌ててエリザベスは言い返した。


 「これは君達二人の戸籍の写しだよ。これによれば君は母親の庶子でスタンレー侯爵夫人は正式な伯爵家の後継者だ。君は母親から貴族の血を受け継いでいるが、父親がわからない以上、平民扱いなんだよ。当時の社交界では酷い醜聞だったようだが…」


 エリザベスには理解しがたい内容だった。


 「私とエミリーの父親が違う?」

 「そうだ!僕が君との結婚を望んだ時に、祖父からその事実を知らされた。君は母親が当時の婚約者を裏切って火遊びで宿した子供だと。そんな君達の母親は伯爵家の遠縁であるエミリーの父親と結婚して、エミリーが生まれたんだ。でも大伯母様は君達二人を分け隔てなく育ててくれただろう。君がもし大伯母様の恩に報いたならきちんと養子縁組をしようとしたのに、君は自分の欲を優先したんだ。僕がそんな君に未練などあるはずがないだろう」


 アルフレッドは冷たく突き放した。


 会場はこの審判の行方を静観している。


 その時、会場にエミリーが現れたのだった。

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