砂の落ちるとき
@littleleaflilac
砂の落ちるとき
サラサラサラサラ
砂の落ちる音がする。私にしか聞こえない、かすかな音。私には他の人にはない、ある特殊能力がある。
————人の寿命が見えるのだ。
正確には人の頭の上に寿命を刻む砂時計が見える。"あと何年"のように正確な寿命の年数はわからない。ただ砂が落ち、寿命が削られていく音だけが聞こえている。
クラスの人気者のあの人も、眼鏡をかけた学級委員長も、ファッションリーダーのあの人も、クラスの端で静かに本を読む私も、頭の上では砂がだんだんと下に落ちていっている。
ふと手元の本から顔をあげ、前を見ると、
「……あれ?」
私は自分の目を疑った。前の席に座る幼なじみの時計の砂が、残り少なくなっているのだ。
居ても立っても居られず、ガタンと立ち上がり、幼なじみの手を引く。
「
「おぉっ、何だよ」
急いで、人気のない屋上まで駆け上がると、はぁっと息をつく。
「はぁっ、どうしたんだよ、
廉が、怪訝そうな顔をして私を見る。
「廉、廉、あのね、あのっ」
「おぉ、落ち着け。落ち着いて話せ」
「落ち着いてなんていられないっ、廉の、廉の砂が」
廉がハッとして尋ねる。
「残り、少ないのか?」
コクンと私がうなずくと廉はふぅっと息を吐いた。
廉は私が砂時計が見えることを知っている唯一の人だ。この特殊な能力のせいでなかなか人と仲良くなれない私にとって、能力を信じ、それでいて普通に接してくれる廉は大きな存在である。失うなんて考えられない、考えたくない。確かに昨日までは砂がたくさんあったのに、なんで……
「じゃあ、今日から一緒に帰るか」
急に明るい声が聞こえて、えっ?と顔を上げると、廉がニカっと笑っている。
「高校生で、持病もない俺が死ぬって交通事故とかの可能性が高いと思うんだよ。だから、咲希、一緒に登下校して、危ないって時に声かけてよ。俺、気をつけるから。」
「……わかった。」
そして、一緒に登下校をし始めて、3日目の帰り道。信号に差し掛かった時である。
「廉、砂がもうほとんどない」
「あぁ、この信号か?……いやっ、違う、咲希!!」
右から急に引っ張られ、思いっきり突き飛ばされる。
ザッと地面に打ちつけられ、顔を上げると、
「……廉!?」
大型のトラックが勢いよく歩道へと突っこんできていた。
ガツンと体に強い衝撃が走る。うっすらと目を開けると咲希が必死な顔で駆け寄ってくる。俺は咲希の……頭上の砂時計が逆さまになり、また新たな寿命を刻んでいるのを見てほっとする。
「咲希が……無事で……良かった。」
「廉っ、もうすぐ、救急車来るからね、頑張って」
今にも泣きそうな顔で必死に声をかける咲希の顔を見る限り、俺の砂時計は逆さまになってはいないのだろう。自分の砂時計は砂の落ちる音だけが聞こえ、見ることはできない。だから、咲希が俺に屋上で砂の残りが少ないことを話した時、咲希は自分の砂も少なくなっていることを知らなかった。だから、俺は、咲希と一緒に過ごして、咲希だけでも助ける、そう決めたんだ。
「廉、ごめん、私をかばったせいで廉が」
「泣くな、咲希……咲希の、せいじゃない……俺は、咲希を助けられて……本当に嬉しかった。……咲希、俺の分まで、生きろよ。」
霞んでいく景色の先で、咲希が泣きじゃくっているのが見える。
「咲希、大好きだ。」
遠のく意識の中で言ったこの言葉は、咲希に届いただろうか。
それはもう、わからないままだ。
砂の落ちるとき @littleleaflilac
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