俳優修行

ジュン

第1話

名優、岩瀬太郎にインタビューした。

「岩瀬さん、役者あるいは俳優にとって、『想像力』は大事なものなのでしょうか?」

「もちろん、大事ですよ」

「そうですか」

「ただ……」

「ただ、なんですか?」

「想像力は大事だ。けれど、『想像力が大事です』と開口一番言う役者は駄目なんです」

「なぜですか?」

「役者修行を30年近くやってるとわかるようになるんですが、『イマジン』だとか『イマジネーション』てものは、単品で育ってはいかないんですよ」

「では、どうやって想像力を発揮できるものなのですか?」

「結局、全部、経験なり体験がものをいうんですよね」

「エクスペリエンスですか?」

「そうです」

「具体的にはどういった経験をすればいいのですか?」

「特別な経験じゃなくていいんです」

「日常経験……?」

「そうです。例えば、歩く、食べるとか」

「それをどのように経験するのですか?」

「『意識して』経験するということ。僕は毎日3時間は歩くようにしています。30年歩く勉強を毎日続けていると、結局、役者のあらゆる動きがほぼ作り上げられるようになってきます。」

「『歩く』動作以外の動きもですか?」

「そうです」

「それから、感覚を研ぎ澄ますことも大事です。『食べる』ということも、しっかりと味わう、吟味する、ということ」

「なるほど」

「それから、芝居となると、『リアリズム』とか、『ナチュラル』とか意識する役者志望が多い。だけど」

「なんでしょう?」

「実は『自然な演技』なんて、それほどのものでもないですね」

「そうなんですか?」

「僕もリアリズム演劇に傾倒した頃がある。オーバーアクションを排して。それが事実に迫るお芝居だと考えていた。でもね」

「違ったんですか?」

「『事実』に迫るもなにもないんです。だって、演技であって、事実じゃないんですから」

「嘘だということ?」

「ええ(笑)。ただ、事実ではないけれど『真実』を創造したいと思っています」

「『真実』とは?」

「芸術の不思議なところなんですが、上手に嘘をつく、つまり事実でない表現が、事実以上の信憑性を帯びてくるんです。それを『真実の表現』と言っています。そうなってくると『現実とは違う』とかそんなの大したことじゃない。『せりふ噛んじゃった』なんてのも(たくさんは良くないが)、そんなに重大な問題でもないです。泣く演技にしたって、『涙が流れる』かどうかも、実は、悲しみの表現で一番大事なことじゃないんですよね」

「そうなんですか」

「ええ。舞台役者志望でも映像俳優志望でも、演技の勉強に限定して言えば、まず、オーバーアクション、とりわけオーバーな感情表現を意識してやってほしいですね。『自然な演技』も、そこを経た後にたどり着けるようになる」

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俳優修行 ジュン @mizukubo

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