第12話  そして、アンドレ


Side;アンド


Sランクパーティ『アノクタラ山脈の虹』のリーダーである聖剣使いのアンドレは、最近パーティに加えたエルフの女性シーフ、ブルーナに命令した。


「とりあえずラリアット商会を探り、王宮に行くやつがだれなのか確かめろ。そいつが手がかりを持っているはずだ。」


ブルーナは気乗りしない感じで答える。

「そんなことしても、お金にならないでしょう?とっとと依頼を受けて、お金稼ぎましょうよ。それに、王都に引っ越したわけじゃないんだから、まだサンボに荷物だってあるのよ。それ、わかってるんでしょうね?」


アンドレは聞く耳を持たない。

「そんなの、お前が気にすることじゃない イカイ・ワカリを連れてくればいいのだ。もちろん生きたままでな。 大きな金rにはならない。そんなことはわかってる。これは俺の意地だ。Sランクのリーダーに逆らうとどうなるか教えてやるだけだ。」アンドレは言う。


「でもねえ。第三王子がついてるんでしょ?危ない橋はわたらないほうがいいんじゃないの?」ブルーナは反論する。


「うるさい。調べがついたら、イカイ・ワカリのことを聞き出して、それで終わりだ。そのあとは討伐でも受けるか、ダンジョンで稼いでから戻るようにするから。あと数日のことだ。」

アンドレとしても、最後の拘りで調べているだけだ、という言い方をした。


ちなみに、タンクのアブドラは、魔術師のカーミラと準聖女のアーシを連れて、ダンジョンに行った。近接武力が足らない分は、ギルドで臨時のパーティメンバーを募集したようだ。まあ、これはパーティとしての実績にはならないが、暇つぶしであり、かつ宿代稼ぎでもある。


難度のそれほど高くないところであれば、アーシのエリアヒールでモンスターが癒されても問題はないのだ。まあ、Sランクがわざわざ行くようなところではないのだが、『王都の若手の冒険者を鍛える』とかいう大義名分があれば、特に問題はない。Sランクに同行した、というだけでいい経験になるのだ。むしろギルドからも喜ばれている。


また、先日のアンドレの計らいにより、カーミラだけでなく、アーシもアブドラとも関係を結んでいる。アブドラも、抱いた女をむげにはしないのだ。


というわけで、シーフのブルーナが見張りを始めた初日、かなり飾った馬車が、ラリアット商会を出発した。乗り込んだのは巨乳ロりエルフのチグサだ。 あと、ギルドで見かけたCランクの冒険者が護衛についている。


普通の馬車で王都内を移動するなら、商会内のメンバーで済ませるはずだ。わざわざ護衛を付けるということは、重要な荷物か用事があるということだろう。


ブルーナは馬車をしばらく追いかけた。町を移動する馬車の速度は遅く、慣れたブルーナの足なら十分に目立たない尾行が可能なのだ。


馬車が王宮の入り口まで近づいたところで、ブルーナはアンドレに言移しの水晶で連絡した。「背の低いエルフが、王宮に入る。護衛にCランクの冒険者が一人。名前は確かセージって言ったかな。赤い鎧をつけた、ガタイのでかいやつだよ。」」


アンドレは喜んだ。

「おお、でかしたぞ。護衛はあいつだけだな。じゃあ、王宮前の広場で落ち合うぞ。」


アンドレは急いで広場に向かった。ブルーナは気が乗らなかったが、とりあえずアンドレの気が済むのならそれでいい、と思っている。




「アンドレ、あの馬車だよ。」ブルーナがアンドレに伝える。ラリアット商会の豪華な馬車だ。中にはロりエルフがいるはずで、護衛に冒険者のセージがついているであろう。


ターゲットを確認すると、アンドレは、馬車の前に飛び出した。御者が驚いて馬車を止める。

その隙に、アンドレは馬車の飛び乗った。


「よお、セージ。」アンドレは護衛の冒険者に声を掛ける。

「あ、アンドレ。どうしたんだ?」セージは戸惑いを隠せない。


馬車にはあとロりエルフが乗っている。豪華な内装だが、中には荷はほとんどない。ロりエルフのチグサが胸に抱える鞄だけだ。


「おい、ちょっと聞きたいことがあるんだ。答えろ。」アンドレが震えるチグサにいう。

「な、なんでしょう?」震えながら彼女が答える。



「イカイ・ワカリについてだ。お前がイカイ・ワカリに変身するのか?」アンドレは単刀直入に尋ねた。

ロりエルフの顔色が変わった。


鞄に手を突っ込んだまま、じっとしている。


「おい、どうなんだ?」アンドレはいらだちながら言った。


「あなたはだれですか?こんな王宮の前の広場で、突然馬車を止めて、何をしたいのですか?」チグサは気丈に聞いてきた。


「俺は冒険者のアンドレだ。さんざんナゲナゲしてやっただろう? お前がイカイ・ワカリなら早く変身しろ。それを確かめたら帰ってやる。」

アンドレは言った。あまり余裕がないようで、声がちょっと上ずっている。


「私はイカイ・ワカリではありません。誰なのかも知りません。」チグサはそういって首を横に振る。


アンドレは否定されたためか、だんだん興奮してきた。

「お前なんだろう? 早く変身しろ。もしかして鞄の中に、変身するための魔道具が入っているのか?見せてみろ。」


アンドレはそういって鞄に手を伸ばしてきた。チグサはしっかりと胸に鞄を抱える。豊満な胸と鞄が押し付けあう。


ここまで大切にしている、ってことは中に大切なものが入っているのだろう。イカイ・ワカリの秘密が手に入る!アンドレはそう確信していた。


「さあ、先っぽだけだから。あとは何にもしないから。」何を言いたいのかよくわからない。



その時だった。馬車に、衛兵がなだれ込んできた。いや、ただの衛兵ではない。金色の鎧に赤いワンポイントが入っている。これは近衛騎士団だ。


「ちょ、お前らなんだ?」アンドレは動揺する。 兵士たちの集団は、そのままアンドレにとびかかり、馬車の床に押さえ込む。


「私たちは第三王子直属の近衛騎士団だ。王子の賓客に狼藉とは許されない。このままで済むと思うな。」


そういって、近衛騎士団の連中はアンドレを羽交い締めにして連行していった。


(俺は、どこで何を間違えたんだろう?)アンドレは連行されながらぼんやりと思った。


ちなみに、ブルーナは騎士団の突撃を見て、とりあえず逃げた。その場にとどまれば、一緒にお縄になるリスクがあるわけで、まず逃げるのは当然と言える。





突然の喧噪が終わり、静かな時が訪れた。


現場の馬車には、何かあるといけないから、と騎士団メンバーが2人残っている。上司と部下、どちらも若めのイケメンである。


「お怪我はありませんが?」残った騎士の一人が聞いてきた。本当なら、アンドレをとらえた時点で聞くはずなのだが、彼らも興奮していたのだろう。とりあえずアンドレを連行することしか考えていなかったようだ。


「ええ、大丈夫です。」チグサは答える。

「ラリアット商会から、王子に緊急連絡があったので、王子のご命令ですぐに駆けつけました。お怪我がなくて何時よりです。」


残ったうちの上官なのだろう。ちょっとシニアな若手、という感じの、金髪で精悍な騎士がいう。」


「助けていただいて、本当にありがとうございました。本当に怖かったです。皆さまが入ってくるのを見ても、まだ安心できませんでした。」よく見ると、チグサはまだ震えている。


「お嬢さん、もう大丈夫ですからね。」騎士がチグサの両手を握り、まっすぐに目を見る。安心させようとするのだろう。

チグサは真っ赤になって照れている。


震えは止まったようだが、今度はなぜか体をくねらせている。

「あ、あの…その手を…でもまだ…ええやっぱり、きゃー」一人でイミフなことをつぶやいている。騎士のほうも、チグサから目が離せなくなってしまったようで、じっとチグサを見つめている。握った手を見ているようで、実は豊満な胸を見ていたのは内緒だ。


「お嬢さん、お名前をお聞かせください。私は第三騎士団所属のブルーザと申します。ブロディー男爵家の三男です。恥ずかしながら、26歳で独身です.」


騎士は、チグサを見つめながら伝えた。

「チグサです。今は、魔道具職人をやっています。」


チグサは、蚊の鳴くような小さな声で答える。

「年齢については勘弁してくださいませ…独身です。」

なぜか、最後だけはっきりと伝えた。



「おお、王子がほめていた、あのチグサさんんですね。水晶関係の技術を一手に引き受けている天才魔道具職人、と伺っています。すごい仕掛けを作っているので、かなりの経験を積んだ、年齢の高いかただと思っていたのですが、こんなに若くてお美しいかただったとは!これは運命の出会いかもしれませんね。」


騎士団員は一人だけで盛り上がっている。


「そんな、天才だなんて。私はできることをやっているだけです。」手を握られたままのチグサは謙遜する。


「それに、本当は若くもありません。エルフの血が入っているので、それなりに長生きすると思っています。」


「できれば、これからもあなたを守らせていただけませんか?」騎士が、チグサの目を見ながら伝える。


チグサは真っ赤になりながら「ぜひ、お願いします。」と答える。




「俺はいったい、何を見せられているんだろう?なんだかなあ…」口に出しているのは、一緒に残った若手騎士団員のエリックだ。


(騎士団は出会いがないから、こういう機会になんとかしようと思ってているのかな?)



そこへ、スタンがやってきた。

「チグサ、大丈夫か?」大声を上げる。

「スタン…ええ、このブルーザさんが助けてくださったの。」


見ると、二人は手を握り合ったままだ。

「そうか。とりあえず良かった。チグサの機転のおかげで、連絡がすぐ取れたよ。」スタンは告げる。


アンドレが馬車に侵入してすぐ、チグサは鞄の中の言移しの水晶に魔力を込めていた。そして、居場所を実況したのだ。


あのとき、チグサはアンドレにこういった。


「あなたはだれですか?こんな王宮の前の広場で、突然馬車を止めて、何をしたいのですか?」これに、アンドレがきっちり答えている。


これを聞いてすぐ、スタンは第三王子に連絡したのだ。イカイ・ワカリの放送技術者が襲われた、と言えばこれはもう一大事件だ。

チグサがケガをしたりしたら、イカイ・ワカリに会えなくなるのだから。



これも、イカイ・ワカリミッションの限界の一つだった。

もしここで、チグサが結婚でもして産休にでも入ったら、それで放送は終わる。


スタン、チグサの両名のオペレーションについては何とかしなければならないのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る