第7話 一人何役?

王子から届いた資料については、スタンの魔法を使い、10部複製した。

オリジナルは保存し、コピーがスタッフに配られた。予備もある。


スタッフ全員で、設定資料を読み込む。


「質問を送るとか言ってたけど、かなりの分が先にカバーされちゃったわね。」スタンの姉の商会会頭のマキは言う。


「見る限り、面倒なものが多いけど、不可能な指示は出されていないと思う。そういうところはさすが王族なんだろうな。人手や費用がかかるものもあるぞ。広告とか生産とかな。」スタンは答える。


「私はこれから籠るから、明日の1時に集合ね。それまで各自、王子の資料を読み込んでおいてね。」マキはそういうと、会頭室に消えた。


そして、スタンとチグサ、それからマキの夫のテリーは資料を読み込んでいった。


翌日集まった皆に、マキが宣言する。

「だいたいのスタッフ構成と、スケジュールを引いてみたわ。」


皆で見てみた。


スタッフ

1.総合プロデューサー マキ・ラリアット

2.エグゼクティブプロデューサー^スタン・ラリアット

3.サブ・プロデューサー チグサ

4,エグゼクティブディレクター スタン

5.撮影伝送ディレクター チグサ

6.アクティングディレクター スタン

7.音楽ディレクター スタン

8、映像効果ディレクター チグサ

9.ライティングディレクター マキ

10.キャラクターデザイン・原画担当 ジャガー(王子のメイド)

11.衣装・小道具 マキ

12.脚本 スタン

13.マーケティング マキ スタン   スタ

14.グッズ制作手配 マキ

15.版権担当 ジャガー(王子のメイド)

16.広報・渉外 マキ

17.ファイナンスディレクター&マネージャー マキ、テリー・ラリアット

18.アシスタントディレクター チグサ


W

「うげえ」これがスタンの最初の反応だった。


「俺、いくつ仕事するんだよ?」

「王子の設定資料にあったものを書き出していたら、この倍くらい役割があったのよ。これでも半数に減らしたんだから。」

「プロデューサーとディレクターって何がどう違うんだ?」


「プロデューサーというのは、作品を作るためにいろいろ考えたり手配する人を言うのよ。そして、ディレクターは現場を回す人。そう思ってくれればだいたいあってる。」マキはスタンに答えた。


「でも、あの資料に書いてある指示をいちいち聞いていたらスタッフが何人いても足りないよね。」

チグサが指摘する。


「だからこそ兼任よ。結局、この仕事をだれがやるのか、というのを決めておけばいいんだから。」マキは答える。


「たとえば、王子の指示には、『魂を大事にしろ』って書いてあったけど、これは要するに、歌って踊るモデルの女の子が疲れないように大切にしてね、ってことよ。実際は全部スタンがやるわけだし、スタンは山のように仕事があるから、まあ死ぬ思いかもね。」


「あの、王子のメイドって何ですか?」チグサがおそろおそる尋ねる。


「それはね、まあそろそろかしら?」マキがそう反応した瞬間、ドアがノックされた。

「どうぞ」マキは言う。


入ってきたのは、マキの夫であるテリーに連れられたメイド服の若い女性だった。

髪の毛は茶髪で、頭の上に団子でまとめられている。背はあまり大きくないが、巨乳だ。姿勢はピンとしている。


足については、丈が長めのメイド服と厚い靴下にさえぎられてしまっている。化粧は薄く、細い目で、比較的地味な顔をしている。いわゆる、薄い顔というやつだ。



「はじめまして。ジャガーと言います。王子のメイドをやっていました。絵が得意です。よろしくお願いします。」少女はそういって頭を下げた。おとなしそうなジャガーだ。むしろペルシャ猫とかのほうがいいのかもしれない。


「絵はもうあるじゃないですか。」チグサが言う。

それに反論したのはスタンだった。


「いや、これじゃ全然足らない。いろんなシーンに併せて衣装を替えたりポーズを変更する必要があるんだ。それにグッズを作るならそれ用のパターンもいる。絵柄がぶれないように、できれば最初のうちは原画は一人の絵師に集中したい。まあ、どこかで公式認定のグッズを認めることになるんだけど、その際は駄目出しをする係にもなるな。」スタンは言う。


「まだよくわかりませんけど、王子から全力を尽くすように直々に言われておりますので、頑張ります。」 

巨乳メイドのジャガーは答えた。


「ちなみに、この中で一番大変なのは、もしかするとチグサ、君だ。」スタンは指摘した。ロリエルフのチグサは驚いたような反応をした。


「え?私は仕事が少なそうでよかった、と思ったんですが。」


「甘いわね。」スタンの姉のマキが答える。

「アシスタント・ディレクターっていうのはこの中で一番苛烈な職業だと思っていいのよ。」

マキが悪魔的な笑みを浮かべながら言う。


それを引き取って、スタンが続ける。

「アシスタント・ディレクター、略してADというのは、なんでもやるんだ。単なる雑用係とも言う。会場のドアを開けておくとかから始まって、食事の手配や掃除にゴミ捨て、進行のチェック、衣装の洗濯、そのほかいろいろある。」


チグサは絶望的な顔をした。

マキが慰めるように言う。


「まあ、基本的にはスタンの指示にしたがっていればいい。やることには困らないと思うからね。まあ頑張ってね。」


チグサの顔はひきつったままだった。


「まあ、基本的には姉さんが対外的なことをやり、俺がアカリを動かして、チグサが撮影。テリーさんが金勘定、ジャガーがお絵描き、ってことだな。」スタンがまとめた。


「なんか、お絵描きが楽そうですけど。」チグサがこぼす。


「じゃあ、チグサ、毎回同じ顔を100枚描けるか?右から左からの姿を描けるか?

笑ったり怒ったりしている顔を描けるのか?」スタンが突っ込む。


「…無理ですね。」チグサが答える。


「同じ絵なら、複製の魔法があるけど、違うアングルを作る魔法はないな。」スタンが言う。


「結局、絵を描くんだって簡単じゃないんだよ。みんな大変だから。」

マキが言う。「足らないものもたくさんあるけど、そこは知恵と勇気と開き直りで乗り切りましょう!」


「…開き直ったらよくない気がするんだけど…。」チグサの独り言は騒音にかき消されてしまった。


「ちなみに、こんな予定よ。」マキはそういって、一枚の紙を見なに見せた。」

さすがのスタンも引きつった顔をする。


「姉さん、さすがにこれは…」

「なせばなる、よ! やればできる。これから1か月で、とりあえず20本、できれば30本の動画を作るくらい、できるわよね。」


皆無言になる。


「できるわよね。」マキが続けて言う。それでも皆黙っている。


「できるわよね。」マキは包丁と金槌を取り出して構える。


「…何とか頑張るよ。」スタンはぽつんとつぶやいた。


「撮影に入るまではチグサには時間があるわ。その間に、子供むけ番組の台本を作ってね。」マキが言う。


「子供むけ…ですか?」チグサが戸惑う。

貴族向け、平民向け、冒険者向け、子供向け、といろいろあるのよ。全部をスタンが考えていたら大変でしょう?」マキは平気な顔で告げる。


「あ、ちなみに、王子向け、っていうスペシャル版も月一回ペースであるからね。これの作りこみもよろしくう。」マキはウインクした。


だれが何をやるのか、すでに定かではなくなっている。


「あ、チグサとスタンは、水晶の改良も頼むわ。出来たら私が量産体制を整えるからね。」


(それだけで数か月かかるもんだろ、普通は。)スタンは心の中で突っ込んだ。


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