2 混乱する世界に差す光

美玖は白血病を患っているらしい。

その白血病というあまりの衝撃に何も話せなくなり。

そして末期であるという言葉にも言葉が発せなくなった。

気が付けば俺は無言になって雑巾を握り締めて雑巾がけをしている。

土を拭いているのだ。


美子さんは俺が早くに帰って来た事を知ってから帰って来てから何があったんだろうと心配していたが.....納得した様だ。

俺は土足で上がってしまっていたのでそれを掃除しながらただただ考えていた。


何故こんな.....話してくれても良かった気がするのだが、と思っている。

そんな美子さんがやって来た。

それから俺を見てくる。

涙目で、だ。


「私が悪かったわ。あの子が話すまで内緒にしておこうと。でも.....ゆうくん。御免なさい。.....傷付いてしまったわね。やはり話せば良かったわ。早めに」


「.....正直、本気で美玖にも美子さんにも怒りが有ります。.....でも人を憎んでも病気がどうなるとか無いです。そして美子さんと美玖の意向もあります。.....だから俺は話してくれなかった事は恨みません。でも.....親父に話した方が良いかと思いますが.....。親父の為、俺の為に話してくれてなかったんだと思いますが」


「.....私の夫も悲しむかと思ってね。.....でも貴方の様子にもう決めたわ。今日話します。.....全てを」


「.....はい。.....その。白血病は.....治らないですか?本当に」


そうね。

あの子の白血病は.....進行しているわ。

かなりね。

だから治らない、とされてしまったわ。


でもね.....私は信じてる。

私は奇跡を信じているから、と美子さんは笑みを見せる。

泣きながら、だ。


「.....本当に御免なさい。今の今まで黙っていて。.....あの子が話すなって言うから。特にお兄ちゃんには秘密にしてほしいと.....言っていたの。御免なさい.....」


「.....理解出来ます。アイツですから」


「.....それで自由にさせていたのよ。御免なさい.....」


「.....はい」


1年で人ってこんなに変わるもんなんだな。

悲しすぎる感じだ。

アイツがエロに走ったのも.....俺の気を引こうとしたんだな。


何でこんな事になったのか、だな。

俺の義妹なんだよ。

何で俺の義妹なんだ病気になるのが。

考えているとスマホに電話が。


プルルルル


「.....弥太郎。.....美子さん。弥太郎にも話して良いですか」


「あの子が良いって言っているなら良いんじゃないかしら。.....うん」


「.....大丈夫です。許可はもらっています」


「.....だったら大丈夫よ」


そして俺は電話に出る。

弥太郎が、オイオイ何やってんだよお前さん、と真剣な顔で言ってくる。

教室のみんなも心配してっぞ、と、だ。

そして教師は切れていたし、とも。

俺は、弥太郎。マジな話をして良いか、と力無く返事する。


『それは良いが.....オイ。どうした?声がか細いんだが』


「.....美玖が病気の癌の白血病らしくてな。末期らしい」


『.....は?.....は。いや。冗談は勘弁して.....』


「いや。マジだ。.....それで力無いんだよ俺」


『裕太郎.....オイ.....マジか.....』


元気があったのにな。

さっきまで馬鹿みたいに、だ。

それが馬鹿みたいに消えた。


俺は.....涙を浮かべる。

弥太郎はその様子に、分かった。今からお前らの見舞いに行くわ、と言った。

何言ってんだコイツは。

会えないのにか?

学校サボる事になるだろ。


『お前もお前の義妹の顔を見たい。俺は。.....学校なんか今の言葉で正直どうでも良くなった。みほみほも呼ぶわ』


「いや。ちょっと待て。そこまでしなくて良いって。学校の授業受けろよ。テスト間近なんだぞ」


『.....裕太郎。人生の中でテストなんてどうでも良いんだ。テストなんざ何十回でも何百回でも受けれるんだよ。俺達の人生ってそんなに短いわけじゃないだろ。だけどお前は独りしか居ないだろ。それに美玖さんの時間は無いかもしれない。.....そして俺達はダチだからな。お前が元気無いなら俺が全力で励ますのは当然だ。という事で行くわ』


「.....お前な.....クソめ」


『みほみほも教室に居て今から呼ぶから。もうちょい待ってな。買い物して行くから。見舞い品とかの。ちょっと時間掛かるから』


何でこんなに良い奴らなんだよ。

チクショーめが。

涙が出るっての.....。


勘弁してくれ、と思いつつ居ると。

じゃあ電話切るからな。また後で。サボりの理由とか考えないと、と切れた。

午前中だってのにコイツらマジに来る気か。

俺は涙を拭いながら美子さんを見る。


「美子さん。アイツら.....俺の友人らが来るそうです。今から」


「.....親御さんが心配しないかしら」


「それなりに言い訳します。大丈夫っす」


「だったら大丈夫かしら。呼んであげてちょうだい。今の美玖ならきっとそれなりに反応してくれると思うわ」


「.....」


正直な話。

まだ気持ちの整理が全然つかない。

今の今までがずっと.....美玖が隠すシナリオだった。

そして演技だった。

それも.....混乱でしかない。


俺達はただ美玖を応援する事か出来ないけど.....でも。

美玖は頑張っている。

だから。


「.....まあでもエロ過ぎるのはちょっとな。そこら辺は自重してほしいもんだ」


そこら辺は苦笑だけど.....。

でも知ってしまった今は何とも言えない。

今出来る事は美玖を精一杯支える事だろう。

考えながら俺は.....雑巾で土を全て拭ってから。


そのまま弥太郎と美穂を待つ事にする。

それから30分後の事だ。

本気で弥太郎と美穂が慌ててインターフォンを鳴らしてやって来た。

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