第2話 夢で逢えたら-2


 賀津美が理科室に入ると、そこには萌と晴がいた。あれ、と思いながら、きょろきょろとして、おさむの荷物を探したが、やはりなかった。

「おさむ君は?」と訊ねると、晴が振り返り、不思議そうな顔をしながら、

「まだ、来てないよ」と答えた。

「あれ…」と呟きながら、「先に出たんだけどな」と言うと、晴は、

「じゃあ、花壇じゃないの」と答えた。それを聞いて、あっそうだ、と思い出した。

 おさむは、賀津美と同じ生物部だったが、もうひとつ園芸部員でもあった。とは言っても、園芸部は現在おさむ一人で、もはや正規の部としては活動していなかった。おさむは生物部の方によく出ていたので、賀津美も忘れていたのだったが、ひとりで花壇の世話をしていた。

「暑いから、お花が心配なのよ」

萌がいつものように高い声で言った。それに、賀津美は頷いた。

 一二年生も集まり、今日の実力テストの話をしていると、おさむがシャツを泥だらけにして現れた。それを見つけた晴が、泥を払っているおさむに訊ねた。

「あ、おさむ君。どうだった、お花?」

「ん。まぁ、大丈夫」

「あたしも手伝おうか?」

萌が言うと、

「んん、いいよ。萌ちゃんは、音楽部もあるんだろ」とにこにこしながら応えた。

「じゃあ、あたし、入ろうか。園芸部」

賀津美は言った。しかし、おさむは、首を振った。

「んん。いいよ。賀津美ちゃん、もう三年じゃない。もう、いいよ」

「でも、手伝うくらいならできるよ」

「受験勉強しないと」

「少しくらいなら大丈夫よ」

「でも…」

「じゃあ、そうね」賀津美は周りを見回しながら言った。「あんたたちで、誰か入んなさいよ」

指名された一二年は、慌てた様子だった。それを見たおさむは賀津美を制するように言った。

「いいよ。賀津美ちゃん。無理やり入れちゃあ、ダメだよ」

「でも、おさむ君が卒業すると、誰もいなくなっちゃうのよ。園芸部が潰れちゃう」

「んん。いいんだ。あの、用務員のおじいさんが、面倒見てくれるって言ってくれてるから、とりあえずは大丈夫なんだ」

「でも…」

「いいよ。そのうち、誰かが入ってくれるよ」

「でもね」萌が言った。「一回、潰れた部って、なかなか再生できないんじゃないの。ほら、部費の予算がつかないから、活動できないわよ。特に、園芸部なんて、お金かかるじゃない肥料とか除草剤とか。潰れちゃったら大変だから、今のうちに人集めしておいた方がいいわよ」

「んー、そんなもんかな?」

「そうよそうよ」

「んー、でも、あてがないから」

「いいじゃない。適当にこのへんの連中の名前使っておいたら」

「でもー」

「いいわよ。ね、あんたたち、ちょっと、協力しなさい」

賀津美の声に下級生たちは素直に頷いた。

「ほら、協力してくれるって」

おさむは少し賀津美を見つめた後、ありがとう、と言った。賀津美は少し照れくさくなって、はにかんでいると、おさむは続けて言った。

「でも、なんだか、賀津美ちゃんって、ヤクザみたいだね」

「は?」

唖然としている賀津美と裏腹に周りでは失笑が漏れていた。賀津美は顔を赤くしながら、その笑い声を聞いていた。おさむは全く悪気がないかのように、屈託のない顔を向けている。それが、一層、自分を恥ずかしく思わせた。が、賀津美は、周りを見回し、

「何がおかしいのよ」と言って黙らせようとした。しかし、漏れた笑いは止むことはなく、ただ、賀津美は赤面したまま立っているしかなかった。


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