グリーンスクール - 夢で逢えたら

辻澤 あきら

第1話 夢で逢えたら-1


夢で逢えたら


 某月某日―――晴。


 まだ熱気をたたえた空気が校庭から入ってくる。どこかで鳴いているツクツクボウシの声も、汗を誘っているようだ。

 しかし、教室はしんとしている。全員が机に向かい、走らせるシャープペンシルの音だけが小さく響いている。時折、紙をめくる音、イスを正す音、そんな音が教室に響く。それ程までに静まっている。教卓に腰掛けた先生もあまりの静かさに退屈そうにあくびをした。黒板には、『実力テスト』の文字。誰もその文字を見つめる者はなく、ただ黙々と問題をこなしていく。

 夏休みを終えたばかりのテスト。暑さも忘れてしまうかのように、生徒たちはひたすら取り組む。特に、三年生にとっては、この試験の成否が進学に影響してくる。一学期に成績が下がった者は挽回を目指し、上がった者はその実力の真偽が問われてしまう。だからこそ、一層、真剣になってしまう。

 チャイムがなると一斉にため息が漏れる。

「はい、後ろから回答を集めて」

ようやく息を吹き返したように先生が大声で叫ぶ。その声も子供たちの嬌声の中では小さく聞こえてしまう。騒がしくなった教室は、先生が出ていくともはや歯止めはきかなくなってしまった。

―――な、な、どうだった?

―――えー、そうなの。あたし、③にしちゃった。

―――バカ、だなぁ。そんなわけないだろ、バーカ。

際立って高い声だけが聞こえている。

 そんな中で、山口おさむは、さっさと身支度を済ましていた。そんなおさむに声が掛かった。

「おさむ君、どうだった?」

おさむが振り返ると上野賀津美がにこにこして立っていた。

「ん。なに?」

「テスト」

「まぁ、僕は、あんなもんだよ」

「クラブ行くの?」

「うん。早く行かないと」

「あ、あたしも、行く。待って」

そう言って自席に戻る賀津美に、おさむはあっさり言った。

「いいよ、僕急ぐから、先行ってる」

賀津美が、あ、と思う間もなくおさむは出ていった。もう、と思う賀津美だったが、おさむが急いでいる理由もわかっていた。仕方ないなと思い、賀津美も教室を出た。

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