第56話【戒め】

 カイヴの手にはツルが巻かれていた、カイヴが崖へと落ちると、手に巻かれたツルは一緒に引きずりこまれていった。


 そしてそのツルはシムへと続いており、シムもツルに引き込まれた。


「うをお!?」


 もの凄い力で引き込まれるシムを子分は押さえていられず手離した、そしてシムはどんどんと崖の方へと引き込まれていった。


「うわあああ!!!!」


 そしてついにシムも崖下へと落ちていった。


「あのやろう……」


 親玉は苦虫を噛みつぶしたような表情で、崖下へ落ちてった二人を見ていた。



 ――――


「わっぷ! わっぷ!!」


 川の中へと落ちたシムは、最初はもの凄い勢いで流されたが、 身体に巻かれていたツルが崖の上の森と繋がっており、ある程度流されたところでツルは張り、それをしっかりと掴むことで流されることも沈むこともされずにすんでいた。


「わっぷ! ぶはっ! と、父さん!」


 シムの身体に巻き付いたツルはカイヴにも繋がっており、シムはツルをしっかりと掴んでいたが、あまりの川の流れの早さに手繰り寄せることが出来ずにいた。


「うぐぐうぅぅ……」


 シムはなんとか少しずつツルを手繰り寄せては自分の身体に巻き付けていった。


「ぐああっ……」


 身体に巻き付いたツルはシムの身体にめり込み締め付けていった。


「ぐうう…… 父さん……」


 シムがツルを手繰り寄せていくとカイヴの姿が見えてきた。


「父さん!!」


 シムは急いでツルを手繰り寄せ、なんとかカイヴを引き寄せた。


「父さんしっかり! しっかりして!」


 カイヴはかなりぐったりとしており返事がない。


「父さん! くそう! どうすれば……!!」


 その時、カイヴが微かに何かをつぶやいた。


「れ……ツル……きれ……」


「父さん!? よかった!! 大丈夫!?」


「き……切るんだ……」


「え!? 切るってツルを? でも!」


「それしかない……! 少し我慢すれば……下流で流速が弱くなる……お、俺の胸にナイフが入ってる……そいつでツルを切るんだ……!」


「わ、わかった! 切るよ! 父さん!」


 シムはカイヴの胸ポケットからナイフを取り出しツルを切った。


「うわあああああ!!!!」


 ツルを切ると二人はたちまち川の勢いに飲み込まれていった。




 ――――


 その後、シムは川岸に打ち上げられていた。


「う、うぅん……」


 シムが目を覚ますと、傍にカイヴの姿はなかった。


「と、父さん!?」


 シムは自身に巻き付いていたツルを追うと、その先にはカイヴが倒れていた。シムは一目散にカイヴの元へと駆け寄った。


「父さん! 父さんしっかりして!」


 シムがカイヴを抱き寄せると、剣が刺さったカイヴの腹部からは大量の血が流れており、辺り一面を赤く染めていた。


「お、俺はもう助からねえ……山賊の野郎どもが来ちまう、は、早くここから離れるんだ……お、俺に刺さってる剣を持っていけ……自分で身を守るんだ……」


「そ、そんな……いやだ! いやだよ父さん!」


「い、いいか……お前はもう立派な鍛冶屋だ……王国に行け……武器屋のベルのところで、お前が剣を作る代わりに、しばらくの間、面倒を見てもらうんだ……」


「嫌だよ! 父さんと暮らすよ! 一緒に帰ろうよ!」


「そ、それとお前が仲良くしてるパン屋の……デンタんとこの……リラって言ったか……あの娘は器量が良い……結婚して世帯を持て……ありゃ良い嫁になる……」


「父さん! 諦めないで! しっかりしてよ! 俺はまだ父さんに教わる事がいっぱいあるんだ! 死なないで! まだきっと助かるから!」


「へっ……お前はもう俺より立派な剣を作れるよ……人を……王国を守る剣を……作るんだ……」


「父さん!? 父さんしっかり!!」


「へっ……お前を……あの世で、み、見てるぞ……」


 カイヴは息絶えた。


「父さあああぁぁぁああーん!!!! うわあああああああああ!!!!!!」




 ――――


 シムは海岸の傍に穴を掘りカイヴを埋めていた。腹部に刺さっていた剣は抜かれておりシムが持っていた。


「うう……父さん……」


 シムはしばらくカイヴを埋めた場所で伏していた。そしてシムは立ち上がると肩を落とし歩き出した。


 その時、シムはなにかに気付いた。


「へっへっへ!」


 なんとシムの目の前に、山賊達が再び現れた。


「にらんだ通りだ、まだこんなとこで悠長にしてやがったか、大方くたばった親父でも埋めていたんだろう」


「お! お前ら!!」


「おう! てめえの大事に抱えてるその剣は俺の剣だ、返してもらうぜ」


「ぐううう……お前のせいで……お前の……うわああああ!!!!」


 シムは剣を振りかぶり、親玉へと向かっていった。


「へへへっ!」


 親玉はシムの剣をあっさり弾き飛ばすとシムを蹴り飛ばした。


「うぐわあ!」


 親玉は剣を拾い、その後シムの胸ぐらを掴み上げた。


「へっへっへっ! あっけねえなぁ、てめえも、このてめえの親父の作った剣で親父の元へ連れてってやるよ」


「くそおお!! お前なんかが! お前なんかに! 父さんの剣を使う資格なんかないんだ!」


「しかくぅー? てめえなに言ってんだ? 剣なんて人を切り殺すためにあるんだ、いかにたいそうな御託を並べようと、包丁や斧でもねえんだ、剣で人を切らねえんなら何を切るってんだ? だからこそ俺に相応しいんじゃねえか!」


「うるさい! 返せ! 父さんの剣を返せ!」


「ぴーちくぱーちくと、うるせえガキだなあ……もういい、黙らせてやる、とっとと親父の元へ行きな」


 親玉は剣をシムの喉元に剣を突きつけた。


「死ね!」


「!!!!」


 親玉がシムに剣を突きさそうとしたその時、なにものかが親玉の剣を弾いた。


「だれだ?!」


「……昼間にいくら巡回しても見つからない割に、王国を出ったきり戻ってこないという被害が無くならないわけだ」


「て、てめえは!! ミサ!!」


 そこに現れたのは、ゲルレゴン王国国衛軍副隊長ミサ・ウィザードと中隊長ジル・ダウナーであった。


「活動を夜に絞っていたなんて、副隊長の言った通りでしたね」


「く、くっそー……おい! 近寄るな! さもないとこいつを切ころ!?」


 親玉が叫んだその瞬間、ジル・ダウナーによって親玉の腕が切り落とされ、シムは地面にしりもちをついた。


「うぎゃあああ!! 腕があああ!!!!」


「うるさいですねえ、あなただって散々罪のない国民を切ってきたのでしょう」


(み、みえなかった……は、早すぎる……ミサはともかく……こ、こいつまでこんな強えのか……)


「お! 親分!」


「て! てめえら何していやがる! 一斉にかかれ!」


「へ! へい!」


 子分たちは一斉にジル ダウナーへと切りかかった。


「ぎゃあ!」


「ぐわあ!」


「がああ!」


 ジル・ダウナーは子分たちを一瞬にして切り倒した。


「な!? うぐぐ……」


 親玉は背を向けて逃げ出した。


「はあはあはあ!! な!?」


 逃げ出した親玉の目の前に、ミサが立ち塞がった。


「ぐうう……くっそおおお!!」


 剣を振り上げミサへと向かったが、 振り下ろす間もなく切り裂かれた。


「が……があぁあ……」


 親玉は倒れた、ミサが剣を鞘へと戻すとミサの元へジルが寄った。


「これでいい加減全部ですかね?」


「いや、きっとまだいるだろう、アジトを見つけ出して一掃するぞ」


「はい! でも場所は……?」


「あの男、まだ生かしてある……縛り上げてアジトを吐かせるんだ」


「さすが副隊長……」


 その時、倒れた親玉にシムが何度も剣を突き刺し始めた。


「くっそお! お前が! お前が父さんを! 死ね! 死ね!」


「き! 君い!」


 それを見たジルが慌ててシムを止めに入った。


「うるさい触るな!!」


「ええ!?」


 シムはジルの手を払い除けた。


「お前らが!! お前らがもっと早く来ていれば父さんは!! 何が王国軍だ!! ふざけんな!!」


「き、きみぃ……折角助けてもらったんだ、そんな言い方はないんじゃ……」


「うるさいどっかいけ!! 大体お前らが山賊なんかに剣を!! 父さんの剣を奪われたからこうなったんだ!!」


「ええ? 君は一体なにを言って……?」 


 その時、黙ってみていたミサが、シムの元へ近寄り膝を落とした。


「来んな!! どっかいけ!!」


 するとミサは、左手の手袋を取り、腰からナイフを取り出すと、それを左手に突き刺した。


「副隊長!?」


 シムは驚き黙った。


「君の……君のお父さんを守ってやれなかったことは、本当にすまない……今の君の痛みに比べれば生易しいかもしれないが、今日の事は戒めとしてこの左手に刻んでおく……」


 シムは茫然としていた。


「しかしこのまま君を放っておくことはできない……情けない、頼りない王国軍かもしれないが、今後、この私がこの左手の痛みに誓って必ず王国の平和を守ると約束する、だから今は信じてついてきてくれないだろうか?」


 シムは持っていた剣を落とした。


「う、うう、うわあああああ!!!!」


 シムはその場で暫く泣き叫んだ。


 この一件を境に、王国軍は森の監視に力を入れ、 昼夜交代で見回りを出すようになった。シムは一度王国へ身柄を引き取られるも、数年後、パン屋のリラと結婚し、元居た森の住まいへと戻ったのであった。その後、副隊長であったミサは王国軍隊長へと昇格した。

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