第54話【山賊】

「へっへっへっ……こんばんはー」


 カイヴはシムを更に後ろに下がらせた。


「山賊か……」


「正解、いやな、昼間だと国兵隊の奴らがウロチョロとしてるもんだから夜中に張っていたんだが、いかんせん夜だと極端に人通りがなくてなぁ、ほとほと困り果てていたところにお前さん達が通りがかってくれたってこった」


 更に奥から十人程、男たちが出てきた。


「この道のりはゲルレゴンか、大方行商帰りってところか、反物屋か? 傘屋か? 油屋か?」


「鍛冶屋だ……」


「鍛冶屋かぁ、ならてめえん家に行けば剣が手に入るってわけか、そいつはいいや、剣なんざまともに買えば良い値段だからなあ」


「俺の家に来ても、剣は無い」


「なにい? てめえ鍛冶屋なんだろ、なんで剣がねえってんだよ?」


「鍛冶屋は剣を渡してなんぼだ、どんだけ最高傑作を作ろうと、常にそれを超えるものを作ろうと日々努力してんだ、作った時点で過去の物になっちまうようなもんを、いつまでも自分の元に持ってたりしやしねえよ」


「へっ! 大そうな御託並べやがって、なら今持っているもんだけでも全部置いてきな! おい!」


 そう言うと、一人の男が剣を持ってカイヴとシムに迫ってきた、カイヴはシムを後ろへ手で押し放した。


「父さん!!」


 カイヴは持っていた荷物を男の足へ落とした。


「!! いってー!」


 男が足に気を取られたその瞬間、カイヴは男の顔を掴み、足を払い、後頭部を地面に叩きつけた。


 そして男の持っていた剣を取り、面裏をみると月明かりに照らした。


「しけた剣だな、山賊ってのは剣の選び方も知らねえのか?」


「ちっ! 少しはやるじゃねえか、おい!」


 今度は二人の男が出てきた。


「父さん!」


「お前はそこを動くな、大丈夫だ」


「父さん……」


「うりゃあああ!」


 二人の男が襲いかかってくると、カイヴはすぐさま二人の剣を弾き、瞬時に切り伏せた。


「うぎゃあああ!!」


 山賊の親玉は驚いた。


「なにい?!」


「おい、鍛冶屋が剣を扱えねえとでも思っていたのか?」


「ぐぬぬう……」


 シムはそれを見て少しホッとした表情を見せていた。


「おい! 全員でかかるぞ! 抜け!」


 山賊達は一斉に剣を抜いた。


「むっ!」


「え!?」


 カイヴとシムは山賊の親玉の剣を見て驚いた。


「あ、あれは父さんの剣だ!」


「ん? これか? これは前にゲルレゴンの兵士から奪った剣だ、奴等王国軍だけあっていい武器を使っていやがるからなぁ、そうか……これはお前が作ったのか、大した鍛冶屋じゃねえか、使い手によっちゃあ岩をも切り裂く剣だ、俺らで愛用させてもらってるよ」


「…………」


「かかれ!」


 山賊達は再びカイヴに襲いかかった。


「父さん! 俺も加勢するよ!」


「いいからお前は下がっていろ!」


 山賊の一人が剣を振り落とすとカイヴはそれを躱し、木を背にして構えた。


 そこへもう一人の山賊が剣を横なぎに振るとそれをしゃがんで躱した、山賊の剣は木に深々とめり込み、それを抜こうとするところをカイヴは切り裂いた。


「うぎゃあ!」


 すぐさま次の山賊が切り掛かってくるも、カイヴは剣で払い、また木を背にした、山賊は二人がかりで剣を振り落とすと、カイヴはそれを横に躱し、二人の剣が木に刺さったところでまた二人を切り倒した。


「す、すごい、父さん……」


「ちいっ! 森での戦いに慣れていやがる」


「長く森で暮らしていれば、お前らのような山賊や盗賊、否が応でも相手をする事になる、人の命を奪おうとしているんだ、自分の命も覚悟するんだな」


「言ってくれるじゃねえか、おいどけ! 俺がやる!」


 山賊の親玉がカイヴに襲いかかった。


「うらあ! はあ! おらあ!」


 カイヴは親玉の攻撃を巧く躱していた、そしてまた木を背にした時、親玉は剣を袈裟に振り落とした。


「おりゃあ!!」


「!!」


 親玉の剣は木に当たると、剣は止まらずそのまま木を切り裂いた、カイヴは攻撃の体制に入っていたが、親玉もまた、次の攻撃体制に入っていた、二人の剣が交差し、その瞬間、二人は弾かれるように距離をとった。


「んん……」


 カイヴの顔色が変わった。


「へっへっへっ! 剣に差が出たなぁ」


 カイヴの持つ剣をよく見ると、小さなヒビが入っていた。


「その剣、どこまでもつかな!」


 親玉は再び襲いかかると、木を切り裂きながらカイヴに剣を振った、カイヴは攻撃に転じられず、避ける一方になっている。


「と、父さん……」


 シムは不安そうに二人の戦いを見ているしかなかった。


「へへへ! どうした!? 逃げてばかりじゃ倒せんぞ!」


 カイヴは攻撃を避けながら、小さな小石を握った、そして親玉が大振りになった時、それを目に投げた。


「ぐっ!?」


 親玉が一瞬怯んだその時、カイヴは親玉へと剣撃を放った。


「?!」


 するとカイヴの剣を山賊の子分が防いだ。


「てめえ……やりやがったな……ただ、こちらも一対一だなんて一言も言ってねえ、ようはお前を殺れりゃそれでいいんだ」


「…………」


 カイヴはジリジリと距離を取った。


「さあこれで終わりだ! おいてめえら! 奴の剣はもう限界だ! 剣を持ってる野郎は斬りかかれ!」


 山賊の子分がカイヴに襲いかかってきた、その時、山賊の子分に石が当たった。


「!?」


 カイヴはその隙に子分を切り裂き後ろを見た。


「シム!」


 石を投げたのはシムであった。


「父さん! 俺も加勢するよ!」


 カイヴは険しい顔をした。


「やめろ! 今すぐそこから逃げるんだ!」


「え?」


 その時、二人の山賊がシムに向かい襲いかかった。


「ちい!」


 カイヴはすぐさまシムの元へと走った。


「うう、くそっ! くんな!」


 シムは山賊へ石をまた投げたが、焦って投げたからか当たらなかった。


「うわあああ!!」


 山賊二人はシムへと剣を振り落とした。


「!!!!」


 カイヴはなんとか間に合い、山賊二人を切り倒した。


「父さん!」

 

 その時、カイヴの背後に親玉が剣を振り上げ現れた。


「ダメじゃ無いか、こんな時に俺に背を向けちゃあ」


 親玉はカイヴに剣を振り落とした。


「くう!」


 カイヴも反応が良く、剣で防ごうと前に構えた。


「!!!!!」


 親玉が剣を振り落とすと、カイヴの剣は折れ、そのまま胸を切り裂かれた、そしてシムの頬にはカイヴの鮮血が飛んだ。

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