第49話【爆発】

 ――二十年前


 ゲルレゴン城の道場にて、国王と師範代が見守る中、一人の少女が剣を振るっていた。


「ふぅ……はっ! や! えいっ! はあー……はっ! ……はあはあ……」


「おおー! ミサ! やった! この歳にしてドルイの型を完璧に! どうじゃ師範代! ワシのミサは天才じゃろう!」


「は! 国王様、 姫様はもはや訓練兵にも留まらぬ強さかと!」


「そうじゃろそうじゃろ! なんたってワシの娘じゃあ! わっはっは!」


 ミサが駆け寄ってきた。


「お父様! やった! 出来たよ!」


「おおー! ミサ! 見てたよー! やはりお前は天才じゃー!」


 ミサは国王に抱きつき、国王はミサの顔に頬を擦った。


「これなら立派な剣士になれるかなー?」


「当り前じゃあ! このワシが保証するぞ! なんたってお前は三百年前、この大陸を統一した伝説の兵士の血を受け継いとるんじゃ!」


 ミサは指を数え始めた。


「ひいひいひいひいひいひいひい……おばあちゃん??」


「そうじゃあ、そしてお前がもっと大きくなったら、あのエリズスティードもお前が受け継ぐんじゃ、お前の……ひいひいひいひいひいひいひい……んご、おばあちゃんが使っていた剣じゃ」


「エリズスティード使っていいの?」


「んん……使うというより、あの剣はお守りみたいなもんじゃから、継承する、という事じゃな」


「けいしょう……」


「ああ……もちろん、もしもの時はあの剣を使うことも考えなければならんが、基本的には守り神として、あの場所でああしてこの大陸の平和を見守っていてもらうのが一番良い」


「じゃあ……ミサが使う剣は?」


「ん?  はっはっはっ! ミサの剣は大きくなったらワシがいくらでも買ってやるわい!」


「えー! 今欲しい!!」


「ミサにはまだちょっと早いかなー」


「えー! なんでー? ミサの方がお父様よりずっとずっと強いのにー!」


「んはは……まあ、そうなんじゃが……そういう問題じゃあないんじゃよ……」


「なんでなんでー! じゃあなにかあってもミサお父様を守ってあげない!!」


「ええー! そんなこと言わずに……」


「やだー!」


「ミサー!」



 ――ゲルレゴン王国王室


( お父様……)


 ミサは目を閉じると少し笑った。


「さようなら……」


「!!!!」


 振り下ろしたミサの拳が王室の床に触れたその時、王室は大爆発を起こした。


「な?! なんだあの爆発は?」


 間一髪国王を連れ城を脱出したストロス大臣達は、爆破を見て驚いた。そして国王は抑えられた腕等を引き離し、王室の方を向いた。


「ミサぁぁぁああああ!!!!」


 国王の叫びが虚しく響いた。


 一方、テツとアンジは、城の上部に浮かび上がり爆発からは逃れていた。


「びっくりしたねー! あのお姉さんあんなことも出来るんだね、どうやったんだろう?」


「恐らく、彼女は炎と風の魔法をうまく組み合わせていたのでしょう、人間が魔法をここまで戦いに昇華させているとは、この先、ああいった人間が出てくれば少しは楽しめるかもしれませんね」


「そうだねー! ところで残りの人達行っちゃったけどどうする? まだそんなに遠くには行ってないと思うけど、殺しとく?」


「いえ……」


 アンジは王室へと降りた、テツもそれに続いた。


「あの者達はあえて生かしましょう、そうすることで今日ここであったこと、テツ様の事を、 世界中に知らせる事でしょう」


「いいの?」


「そうすることで人間達の危機感は上がり、 抗うための努力を始めるでしょう、今のレベルの人間を支配してもなんの 面白味もありません、私たちの為に、もっともっと、努力をしてもらわなくては」


「なるほどねー! 実際今のお姉さんもそうだけど、いい線行ってる人もいたからね」


「はい、今回の戦いで人間の進化の片りんも見れましたし、もしかしたらいずれは私程度であれば脅かす程の人間も出てくるのではないかと思います」


「僕は!? 僕と戦える人も出てくる?!」


「それは……」


「それは?」


「人間では難しいかと……」


「えー……」


「しかし、楽しめるくらいの人間はもしかしたら現れるかもしれません」


「そっかー……」


 アンジは王座にテツを促した、そしてテツは王座に着いた。


「なんか、折角のお城がめちゃめちゃになっちゃったね……」


 城の修復はまだ下にいる人間達を捕らえて行わせます、そして、兇獣きょじゅうもまた何体か私がご用意いたしますので、御用があればなんなりとお申し付けください、それと……」


「なあに?」


「テツ様の目にスクリアの輝きが戻られております」


「え? 本当? 全然気が付かなかった! あれ……てことは……」


「はい」


「バグレット!! いよいよ仲間に出来るね!」


「仲間ではなく、部下でございます」


「どっちだっていいよ! そうだ! どうせならこの剣使ってみたいな!」


「エリズスティードでございますね」


「うん! かっこいいからさあ!」


「確かに、テツ様の攻撃を受け止めた事は、素晴らしい可能性と考えてよいかと」


「そうだねー、まあ、 ただ、もう少し力を入れたら多分折れちゃってたと思うけど……」


「それでも十分なことかと思われます、そしてバグレットの皮膚もまた、 鋼鉄と言われ、並大抵の武器では歯が立たないと言われておりますので、試すにはうってつけの相手かと思います」


「うんうん! 面白くなってきた! どうする? 早速行く?」


「この城の修復にあたる段取りだけ済ませておきたいので、申し訳ありませんが少々お時間をいただけませんでしょうか? その間、テツ様も少しお休みになられていてください」


「そう……? じゃあ待ってるよ!」


「では……」


 そう言うとアンジは城下へと降りて行った、テツはエリズスティードを眺めながらにやけていた。


「バグレットかぁー……早く会いたいなぁ……」


 一刻程すると、すっかりと日も落ち、崩れた王室の天井からは満点の星が見えた、テツは星空の下で深い眠りについた。



 ―――翌朝


 テツは騒々しい物音に気付き目を覚ました。


「んあ?」


 目の前では数体の兇獣きょじゅうが数十人の人間達に指示を出し、城の修復をさせていた。


「わーお……なんだか急に賑やかになったなー」


 その時、一体の兇獣きょじゅうがテツに気付いた。


「む、テッ様がお目覚めになられたぞ! 皆の者! 頭が高い! 控えろ!」


「え? あ、あは……い、いや、いいって、いいって、続けて……」


「は! お許しが出たぞ作業を続けろ!」


 兇獣きょじゅうは再び人間達を働かせた、テツが暫くその光景を見ていると、アンジが王室内へとやってきた。


「テツ様、お目覚めでしたか」


「アンジ、うん、気が付いたら寝てたよ、この人達は? アンジが用意したの?」


「はい、これで暫く席を空けていても、城の修復は続きますので」


「そっか! じゃあ……いよいよバグレットの所に行っちゃう!?」


「はい、そうしましょう」


「よっしゃー! 行っくぞー!」


 二人は城の上部へと浮かび上がると、孤島へと向けて飛び出した、そして数十分程でたどり着くと火山の上部でとまった。


「ここだね!」


「はい」


「よーし! じゃあ行こう!」


 そう言うとテツは火山口へと入ろうとした。


「テツ様!」


「なになに? どうしたの?」


「場所はもうわかっているので、その必要はございません」


 アンジは右手を火山の前に出すと、手の平から丸い風の塊を放った。


「へ?」


 すると火山の一部が吹き飛び、大穴が明いた。


「おおおー」


 すると、明いた大穴の奥にバグレットの姿があった、バグレットは既に臨戦態勢に入っていた。


「ははは! いたー! バグレットー!」


 テツはバグレットの目前へと降り立った。


「グガアアアアアアア!!!!」


 バグレットはテツへと激しく咆哮した。

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