第48話【悪夢】
(おお……テツ様の瞳にスクリアの輝きが……そして色が……碧色……?)
「……承知いたしました」
アンジはそう言うとテツの後ろへと控えた。
そしてテツはウィザード隊長の前へと踏み出した。
「お前が戦うというのか?」
「うん! エリズスティードがどんなもんか興味あってね!」
「……いくら子供と言えど容赦はせんぞ?」
「うん、大丈夫! 遠慮しないで!」
それを見ていたストロス大臣は、ウィザード隊長に注意を促した。
「ミサ! 子供だと思って油断するな! その子供も恐ろしい強さだ! ゲルレゴンの兵士の大半はその子供に一瞬でやられている!」
「…………」
ウィザード隊長はそれを聞くと、気を引き締め剣を構えた。そしてテツも指を鳴らしながら身を低く構えた。
「さあ……やろう……」
王室内にヒリついた空気が流れた、そして国王は祈るように二人を見ていた。
「ミサ……」
静寂の中、ウィザード隊長がまず動いた、ものすごい速さでテツの右側面へ移動すると、その後、逆方向、後方へと 動きをかく乱させた、ストロス大臣はそれを見て驚いていた。
「あ、相変わらずなんという速さじゃ、 ま、 全く見えん……」
しかしテツは特に微動だにせずにいた、そしてウィザード隊長はテツの後方から頭上へと飛び、首へと剣を振り落とした。
「!!!!」
テツの首を切り落とそうとしたその瞬間、 ウィザード隊長は只ならぬ殺気を感じ、咄嗟に剣を止め、 後方へと距離を取った。
「なかなか勘がいいね……」
そう言いながら、テツはゆっくりとウィザードの方を向いた。
「こ、こいつ…」
ウィザード隊長の頬に一滴の汗が流れた、それを見ていた国王が叫んだ。
「ミサ! 大丈夫じゃ! いけるぞ! 奴はお前の動きに全く反応出来ておらん! 一気に攻めるんじゃ!」
それを聞いていたストロス大臣は、底知れぬ嫌な予感を感じ、 神妙な顔をしていた。
(た、確かに、全く反応はしていない……しかしなんだこの嫌な予感は……なぜあいつは、あんなに落ち着いているんだ……)
テツは両手を広げ、 ウィザード隊長へ言った。
「ほら、早くやろう、大丈夫、まだ僕から君には攻撃しないから」
ウィザード隊長は険しい顔を見せた。
「はあああああ!!!」
ウィザード隊長は気合を入れ、 テツの元へと飛び出した、その時、ウィザード隊長の踏み込んだ足元から微量の爆炎が上がった、それを見たアンジは、ウィザード隊長の速さの秘密を察した。
(ほう……なるほど……速さの秘密は魔法……踏み込む瞬間に足元を爆発させることで 推進力を高めていたとは……この兵士もまた、魔法をうまく戦闘に取り入れている……)
テツの周りのいたるところで不規則に爆炎が上がっていた、そんな中、テツは嬉しそうに手を叩いた。
「おおー! さっきよりまた大分早くなった! 凄い凄い!」
ウィザード隊長は高速で動きをかく乱させた後、テツの側面へと回り込み、剣を振り上げた。
「!!」
その時、テツはウィザード隊長の方へ顔だけ振り向いた。
そして不敵に笑いながら拳を握った。
「さあ、いくよ」
「!!?? くっ!!」
ウィザード隊長は構わず剣を振り落とし、テツはその剣に拳を振るった。
すると王室内にもの凄い音が鳴り響いた。
「な!? なにい!?」
「あれ?」
ウィザード隊長の振り落とした剣は、なんとテツの拳で止められていた、 驚愕したウィザード隊長はすぐさま後方へと距離を取った。
「くつ!!」
ウィザードの両腕は酷く痺れを感じていた。
そしてテツもまた当てた拳を見て驚いていた。
「アンジ! あの剣本当にすごいよ! 今折るつもりで結構強くやったのに折れなかったよ!」
「確かに……こうなるとあの剣に俄然興味が沸いてきましたね」
それを見ていた国王は震えていた。
「な、なんという事じゃ……あ、あの伝説の剣を……す、素手で……」
そしてストロス大臣は、 何か決心めいた表情をしていた、ウィザード隊長は自分の痺れた両腕を見た後、テツに問いかけた。
「貴様……一体何者だ……?」
「え? うーん……自分でもよくわかってないんだけど……僕はこの世界を支配する、
「な? だ、
うん! この世界の人間たちを恐怖で支配するんだ! 面白そうでしょ!?」
「こ、こいつは……」
「でも……あんまり弱すぎると張り合いがないからさ、 お姉さんもがんばってよ! 頑張ったのにどうしようもない時の顔ってのが、最高に面白からさ!」
「くう……貴様のような奴を……野放しにしておけるかあああ!!」
ウィザード隊長はさらに激しい爆炎を放ち、テツへと突っ込んだ。
「うは! またさらに早くなった!」
ウィザード隊長はもの凄い速さで剣を水平に放つと、テツはそれを片腕で弾いた。
「な?! くうっ! はああ!!」
ウィザード隊長は立て続けに剣を放つも、ことごとく片腕ではじき返されてしまう、そして、高速で円を描くようにテツの後ろへ回り込むと、背後から剣を振るうも、テツは振り向かずにウィザード隊長の剣を受けた、その後も攻撃を続けるがことごとく弾かれていた。
「くそお! こんなはず! こんなはずは! くっそおおお!」
テツはウィザード隊長の攻撃を受ける中、次第に表情が飽いてきていた。
「うーん、もういいね……」
その瞬間テツの拳がウィザード隊長の腹部へとめり込んだ。
「かはっ!!」
国王が叫んだ。
「ミサ!!」
ジルもまた、驚愕していた。
「そ、そんな……ウィザード隊長が手も足もでないなんて……」
ウィザード隊長は両手両膝を付き、苦しんでいた。
「ごほっ! がは! はあはあ!!」
ストロス大臣もまた、歯を食いしばり呟いた。
「あ、悪夢か……」
テツはそれをつまらなそうに見下ろしていた。
「もうあれが限界の速さだね、お姉さんもそんなもんかぁ……でも……」
「!!!!」
ウィザード隊長の右腕が切断された。
「うああああああ!!!!」
「ミサー!!!!」
「こ! 国王様!!」
国王は叫び、ウィザード隊長の元へと駆け付けようとしたが、ストロス大臣がそれを抑えた。
「これにはまだ興味あるよ!」
テツは切断された右腕からエリススティードを手に取った、そしてその場で何度か振って見せた。
「アンジー! どう? 似合う?」
「非常にお似合いでございます」
「ヘヘー!」
テツがアンジにエリススティードを自慢している時、ウィザード隊長はテツの胸に掌打を突いた、すると同時に爆炎が放たれ、テッは後方へと飛ばされた。
「うわ! びっくりした!!」
「ジル!! エイム!!」
「は! はい!!」
「国王様と他の者を連れて今すぐに逃げろ!!!!」
「な!? そんな! ウィザード隊長は?!」
「いいから行けええ!!!」
その時、先程まで放心状態だったミルマーナ国副隊長のケイスが正気を取り戻した。
「ううう……ひいいい!!」
そしてその場から逃げ出した、それを見たアンジは手の平からケイスへと風の刃を放った。
「くう!」
ウィザード隊長は左腕を振り、アンジの放った風の刃を爆破した。
「早くしろぉぉお!! 全滅したいのか!!」
「ううぅ……くっ! エイム!! ノーズ殿を連れてくるんだ!! 俺は国王様と大臣を護衛する!!」
副隊長のジルがエイムに叫んだ。
「は! はい!!」
ストロス大臣は既に国王を連れ出そうとしていたが、国王はそれを拒み暴れていた。
「やめろー!! ミサを置いて行けるか!! 放せええ!! ミサー!!」
「国王様!! ここは!! ここは何卒こらえてください!!」
そこへエイムも駆け付け、ストロス大臣と共に国王を王室外へと運んだ。
「ミサああああ!!!!」
テツはその様子を見て、アンジへ聞いた。
「あらー、アンジ……なんか退散しちゃうみたいだけど、どうする?」
「そうですね……」
テツとアンジが国王達の動向を見る視線の前を、ウィザード隊長が片腕を広げ遮った。
「どこを見ている……まだ私との決着がついていないだろう……」
それを聞いたアンジは辟易とした顔で言い放った。
「見苦しいぞ、決着など等についている」
「そうでもない……」
そういうとウィザード隊長は拳に力を込めた。
「はああああああ……」
するとウィザード隊長の拳から、光の湯気のようなものが立ち上がった。
「はああああ!!!!」
テツはそれを見て目を輝かせた。
「え!? え!? なになに!? なにが起こるの??」
「貴様等をこれ以上先には絶対に行かせん!! ここで私が命に代えても食い止める!!」
そしてウィザード隊長は一度拳を上に突き上げると、王室の床へと拳を振り落とした。
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