第47話【エリズスティード】

 国王もまた、涙を流し歓喜した。


「ミサ!!!!」


 ウィザード隊長は金髪の長い髪を手から滑らせると、カダンの剣を払い、そのまま剣を袈裟に振り下ろした。


 カダンは剣で受けるも、衝撃で後方へと弾き飛ばされた。


「ぐっ!!」


 ストロス大臣がウィザード隊長の元へと駆け寄った。


「ミサ! よくぞ、よくぞ来てくれた」


「ストロス大臣……一体これはどういうです? あれはアルティラ国のカダン隊長、なぜこのような……」


「ああ……それが……」


 ストロス大臣はウィザード隊長に事の顛末を話した、それを側で聞いていた副隊長のジル・ダウナーは驚愕していた。


「そ、そんな……で、ではカダン隊長は戻らないんですか?」


「わからない……もしかしたらなにか方法があるのかもしれないが、それが分からない今、この場を乗り切るには倒すしか術はない……」


「た、倒すって……こ、殺すって事ですか?」


「……ああ、そうだ」


「そ、そんな……」


 二人のやりとりを聞いていたウィザード隊長は、神妙な面持ちを浮かべていた。


「ストロス大臣、うちの兵士達は……?」


「あ、ああ……あそこら辺に倒れているのがほぼゲルレゴンの兵士達だ」


 ウィザード隊長はストロス大臣の指差す方へと足を進め、倒れたミゲルの元へと近づくと、片膝を付いた。


「ミゲル・リチッド……」


 悲しそうな目でミゲルを見るウィザード隊長の元へ、エイルが涙を流しながらやってきた。


「た、隊長……ミゲルは……ミゲルは自分を犠牲にしてまで怪物を……他の兵士達も……おめおめと生き残ったのは……自分だけであります! 申し訳ありません!!」


 ウィザード隊長は、ゆっくり立ち上がると、優しい目でエイルを見た。


「手伝って……くれるか?」


「は? はい!」


 ウィザード隊長はミゲルを抱き抱えると王室の端へと運び、仰向けに両手を組ませて寝かせた、そして次はヴォーグ、グローランドと、順に兵士を並べ、寝かせた。


「隊長! 私も手伝います!」


 それを見ていたジルも協力した、そしてテツとアンジはなにも言わずにその様子を見ていた。


 全ての兵士達の移動を終えると、ウィザード隊長は暫く目を閉じて黙祷した、ウィザード隊長のシャツは運んだ時に付いた兵士達の血で染まっていた。


「…………」


 そして静かに目を開けると、テツとアンジの方を向き、睨みつけた。


「貴様らが何者かは知らんが、兵士達の仇は取らせてもらうぞ」


 それを聞いたテツは目を爛々と輝かせ、アンジは不敵な笑みを浮かべていた、そして、ウィザード隊長の視線の先に、カダンが割って入ってきた。


「お前の相手は……俺だ」


「カダン殿……」


 ウィザード隊長は一瞬の動揺を見せるも、剣を抜いた。


「王国の為だ、悪いが容赦はせんぞ」


 それを聞いたカダンは不敵に笑い、構えた。


「た、頼むぞ、ミサ!」


 国王はその様子を祈るように見ていた。


「…………」


「…………」


 暫くの沈黙の後、遂にカダンが飛び出した、そしてその勢いのまま、ウィザード隊長へと剣を横なぎに打ち払った。


「!!!!」


 一瞬、カダンの剣がウィザード隊長を斬りつけたように見えたが、もうそこには居らず、カダンの剣は空を切っていた。


「ど! どこだ!?」


 カダンは完全にウィザード隊長を見失い、方々を見回した。


「ここだ」


「!?」


 ウィザード隊長はカダンの背後に現れ、下から背中を切りつけ離れた。


「ぐっ!」


 ウィザード隊長は立ち止まり、自分の剣を見ながら言った。


「両断するつもりで切ったのだが、なかなか硬いのだな」


「完全に目の前から消えるとは、大した速さだ、しかし、この程度の攻撃をいくら当てたところでなんのダメージにもならんぞ!」


「そうか、なら試してみるとするか」


 そう言うとウィザード隊長は構えた、カダンは目を剥くようにしてウィザード隊長をよく見た。


「…………」


 カダンが一瞬瞬きをすると、その一瞬でウィザード隊長は目の前まで詰め寄り、剣を振るって来ていた。


「うを!」


 カダンは咄嗟に剣で防ごうとするも、間に合わず胸を切られた。


「くそっ!」


 そして、またもウィザード隊長の姿を見失った、カダンはウィザード隊長の動きをまったく追いきれず、ただ一方的に攻撃を受けていた。


「アンジー! あの人凄いね! バルニルド相手に一方的だよ!」


「そうですね、今まで会ってきた人間の中で、最も速いかと……なにか秘密でもあるのでしょうかね?」


「なんだろうね? 実はバルニルドが大した事なかったんじゃないのー?」


「そうかもしれませんね」


 カダンはウィザード隊長をまったく捉えられず、やみくもに剣を振るった、しかしカダンの剣は空を切るばかりであった。


「うをああ!!」


 その時、やみくもに振っていたカダンの剣がウィザード隊長を捉えた、が、ウィザード隊長はしっかりと剣で防ぎ、その後距離を取った。


「なかなか勘がいいじゃないか」


「ちっ! ちょこまかと……」


(しかし確かに硬い……これでは剣が持たないかもしれないな……)


 ウィザード隊長は剣の僅かな刃こぼれを気にしていた、しかし、そんなことはお構い無しにカダンは再び襲い掛かって来た。


「はあ!」


 カダンは飛び上がり、剣を振り落とした、しかしそこにはウィザード隊長の姿はなく、振り返った時には膝を切りつけられていた。


「ちいっ!!」


 カダンはまたやみくもに剣を振るった、しかし今度は偶然ですらウィザード隊長を捉えることはなかった。


 カダンが横なぎに剣を振るった時、ウィザード隊長はカダンの上部に飛び上がっていた、そしてガラ空きの首へと剣を落とした。


「!?」


 その時、ついにウィザード隊長の剣が折れた、カダンは不敵に笑い、首をさすった。


「くっくっく……残念だったなぁ……剣が折れてしまってはもう戦えまい」


「……ジル!!」


「はい!」


 その時、ジルが自分の剣をウィザード隊長へと投げた。


「ちっ!」


 ウィザード隊長は剣を抜くと、カダンへと切りかかり、何度も切りつけた。


「ぐうう……あああ!!」


 一方的に切りつけられているカダンは、またやみくもに剣を振るうが、まったく捉えられず、ウィザード隊長は先程よりさらに速度を上げ、切りつけた。


「!!」


 しかしまたウィザード隊長の剣は折れてしまった。


「くっくっくっ! はーはっはあ! どうする! いくら速かろうと剣では倒せんぞ!」


「…………」


 その時、国王がウィザード隊長へ叫んだ。


「ミサ! エリズスティードじゃ!! エリズスティードを使え!!」


 ウィザード隊長はそれを聞くと、王室の王座の上に飾られたエリズスティードの元へと素早く飛んだ。


 そして、エリズスティードを手に取った。


「これが伝説の剣……エリズスティード……」


 ウィザード隊長はゆっくりと剣を鞘から抜いた。


「美しい……」


 その剣は薄っすらと青白い輝きを放つ、刀身の真っ直ぐな剣であった。


 その様子を見ていたテツは、目をより一層輝かせた。


「でたぁ!! エリズスティードだあ! どんな切れ味なんだろう! 楽しみだねアンジ!」


「確かに……非常に美しい輝きを放つ剣ですね」


 エリズスティードを手にしたウィザード隊長は、カダンの眼前へと降りた。


「何度武器を変えようが同じことだ、いずれ体力を消費し、動きが鈍る時が貴様の最後だ」


「…………」


 ウィザード隊長はなにも言わず、その場で何度か剣を振るった。


 そしてカダンが剣を構え、ウィザード隊長へ飛び掛かろうとしたその時、カダンの左腕が落ちた。


「な!?!?」


 ウィザード隊長は一瞬でカダンの横を通り抜け、左腕を切り落としていた。


「なるほど……素晴らしい切れ味だ……」


「ぐぬぅぅ……」


 カダンは咄嗟に飾られた甲冑の左腕を取り、自身の消失した左腕にはめた。


「くうぅ……こ、この程度で勝った気になるなよ!」


 その時、ウィザード隊長は酷く悲しい顔を見せ、カダンの視界から消えた。


「!!」


 次にカダンの視界にウィザード隊長が映ると、剣は喉元へと添えられていた。


「すまん……」


 カダンの首は落とされた。


「おお! やりおった!」


 国王が歓喜するなか、首の無くなった状態にも関わらず、カダンはウィザード隊長に剣を振り上げていた。


「ミサ!!」


 ストロス大臣が叫んだ、が、ウィザード隊長は一瞬でカダンの身体をバラバラに切り裂いた。


「…………」


 ウィザード隊長は悲しそうな顔でバラバラになったカダンを見ると、胸元からスカーフを出し、カダンの顔に掛けた。


 そして再びテツとアンジの方を向き、睨みつけた、それを見たアンジは不敵に笑っていた。


「ふふっ! やる気満々……と言ったところか……では……お手並み拝見といこうか」


 そう言ってアンジがウィザード隊長の前へと足を踏み出そうとしたその時、テツがアンジの前に手を出して止めた。


「テツ様?」


「アンジ……僕が行くよ」


 真っ直ぐにウィザード隊長を見るテツの目は、碧色へきしょくに輝いていた。

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