第46話【絶望】

「アンジ! すごいねあの二人! 息ぴったりだ!」


「そうですね、互いの力を最大限に生かし合っていますね、間違いなく、あの男がバルニルドになる前であれば、あの二人に勝つすべはなかったことでしょう」


「てか負けちゃうんじゃないバルニルド? 大分押されてるよ?」


「二人の息のあった攻撃に、幾分翻弄されている事は否めませんね、しかし、そう簡単に上手くいくでしょうか……」


 アンジは不敵に笑った。


 そして、一連の戦いを見ていたエイルは驚いていた。


「こ、こんなに強くなるものなのか……個々の力が二倍にも三倍にもなっている……」


 ブロウ隊長は剣に付いた血を払うとサンタニロに言った。


「奴は体力という概念がない、長期戦になればこちらが不利になる、一気に決めるぞ」


「むう……貴様……奴に手傷を負わせたからと言って調子に乗るな! 黙って私に付いてこい」


「ぬう……お前こそ遅れをとるなよ! しっかり私に付いてくるんだ」


「むうううう……」


「ぬうううう……」


 二人を見てケイスは思った。


(もういい加減にしてくれないかなー……無駄な文字数使いたくないんだよなー……)


 二人が喧嘩をしている中、カダンは左手から小さな炎を出し、脇腹の傷を焼いた。そして、顔を左右に傾け首を鳴らすと、二人へ向けて飛び掛かってきた。


「むうん!」


 サンタニロは向かって来るカダンに斧を投げた、カダンは飛んでくる斧を今度は剣で床に叩き落とした。


 斧と一緒に突っ込んでいたブロウ隊長は、既にカダンの目の前で剣を振りかぶっており、剣を振り落とした。


 カダンはそれを身体を横にズラし躱すが、剣はすぐ様突き上げられ、カダンの喉元を襲った、が、カダンは剣の腹でそれを受け止めた。


「ぬぅん」


 ブロウ隊長はカダンの剣を自分の剣の鍔側へと滑らせ、力を込めた、しかしカダンの剣は微動だに動かず、逆に弾かれてしまう。


「ぬう!!」


 体勢を崩されたブロウ隊長にカダンは剣を振った、しかしサンタニロ隊長が斧でそれを弾いた。


「アンジ! やっぱ強いよあの二人!」


「確かに、もしかしたら、このまま倒されてしまうかもしれません、二人なら……」


 サンタニロ隊長はカダンの剣を弾いた後、後方へ退ったカダンへと再び斧を振るった。


 そして、ブロウ隊長も追うように追撃をし、二人の剣と斧が同時にカダンを襲った。


 そして、二人の隊長とカダンの身体が交差したその瞬間、カダンの胸から血しぶきが舞った。


「おおお! やったか!」


 国王は歓喜した。


「へっ!」


 ノーズはホッとした表情を見せた。


「やった!」


 ケイスもまた喜んだ。


「あっちゃー!」


 テツは顔に手を当て目を瞑った、そして、アンジは不適な笑みを浮かべていた。


「がはっ!!」


「え?」


「!!??」


 サンタニロ隊長が倒れた、腹部が切り裂かれており、大量の血が床に流れた。


「サンタニロ!!!!」


 ブロウ隊長が叫んだ。


「がっっっ!!!」


 その時、カダンはブロウ隊長の喉に剣を突き刺した。


「ブロウ隊長!!」


「あああ……ああ……」


 ノーズが叫び、ケイスは放心していた。それを見ていたアンジは笑いが堪えられずにいた。


「くははっ! 一度崩れてしまうとあとは脆いものだな!」


「なるほどねー! アンジが言った二人なら、ってそう言う事かー!」


「はい、あの瞬間、剣の男と斧の男、二人の攻撃に対処していたらまた避ける事しか出来ない、なので、対処する相手を斧の男一人に絞り、斧を受け流し、剣を入れた……」


「一対一にしちゃえば負けないもんね」


「はい、その代償に、剣の男の攻撃は無条件で受けはしましたが……」


 カダンの胸にはブロウ隊長に斬りつけられた傷があり、大量の血が流れていた。


「人間であれば致命傷なあの傷も、バルニルドになった者であれば大した問題ではありませんからね」


 アンジはカダンにこっちへ来るように手招きした。


「一応、私のオームで傷の修復をしておきましょう」


「これであちらさん、絶体絶命だね!」


「はい、そろそろ、この余興も終わり、ですね」


 国王は絶望していた。


「そ、そんな、各国の……選りすぐられた隊長達まで……も、もう終わりじゃ……」


 ストロス大臣も同じように、絶望していた。


「あ、悪夢だ……こ、こんな事が……」


 ケイスとエイルは放心状態のまま、その場で立ち尽くしていた。


「ああ……あああ……」


「そ……ん、な」


 アンジはカダンの胸の傷の修復を終えると、命令を告げた。


「バルニルドよ、あの雑魚どもはもうどうでもいい、あとは国王の首を取り、王座をテツ様に明け渡させろ」


「かしこまりました」


「あ! アンジ!  エリズスティードは!? エリズスティードの場所聞く前に殺しちゃだめだよ!」


「テツ様、エリズスティードならあちらに」


 アンジが王座の上を指さすと、そこにはエリズスティードが飾られてあった。


「ああ! あれか! なーんだ! じゃあいいや! あとでじっくり見せてもらおっと!」


 カダンはそれを聞くと、国王の元へと足を進めた。


「ひっ! ひいいい!!」


 国王は恐れおののき、腰を抜かしてその場に倒れた。


「くっ!」


  スロスト大臣は国王を守ろうと、 持っていた短剣を出し構えた。


「……そだ……んて……んな……」


 その時、うなだれていたノーズが何かつぶやき始めた。


「そんなわけない……ブロウ隊長が……死ぬなんて……あんな強え人が……」


 次第につぶやく声は大きくなっていった。


「なんかの……なんかの間違いだ! あの人が! あの人が死ぬなんてありえねえ! 絶対にうそだあああ!!!」


 ノーズは剣を振り上げカダンへと突っ込んだ。


「ノーズ殿お!!」


 ストロス大臣が叫んだ。そしてノーズはカダンへと剣を振った。


「うがあああ!!!」


 しかし、ノーズはカダンの裏拳で、 剣ごとへし折られながら吹き飛ばされた。


「う! うわあああ!!!」


 ストロス大臣は短剣を振りかざし、カダンへ向けて振り落とした。


「ごっ!!」


 しかし、下から剣の柄で顎をはね上げられ、その場に腰を落とした。


 そしてカダンはゆっくりと国王へと近づいた。


「ひいい!! ひゃあああ!!!」


  国王は四つん這いになりながら、必死に逃げようとしていた。


「……」


 カダンはまるでゴミを見るような目つきで国王を見下すと。


 剣を構え、突きを放った。


「!!!!!」


 その時、何者かがカダンの剣を止めた。


「ん?」


 放心状態であったエイルは正気を取り戻し、目を見開き叫んだ。


「ウィザード隊長!!!!」

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