第45話【力と技】

「!!!!!!」


「かっはっ!!」


「兄さん!!!!!!」


 アンジは突き刺した右手に力を集中させた。


「うがああああああああ!!!!」


 するとカダン隊長は叫び声をあげ、ロムの前に倒れた。


「あああ……に、兄さん」


 アンジはカダン隊長とロムに背を向けテツの元へと歩を進めた。


「な……なんという事じゃ……」


 国王は汗を垂らし、震えていた。


「こ、これは……」


「あ、あああ……」


 そして、ストロス大臣やエイム達も、顔が青ざめていた。


「に、兄さん……そ、そんな……うそだ……ううぅ……」


 ロムは倒れた兄を前に、悲しみ、ただうなだれていた、しかし、それが憎悪に変わるのに、さほど時間は掛からなかった。


「ぐううう……よくも……よくも兄さんを……許さない……きっ! 貴様あああ!!!!」


 ロムは立ち上がり剣を抜くと、背を向けたアンジへと突っ込み剣を振り上げた。


「うをおおおおおおお!!!!」


 ロムが剣をアンジに振り落とそうとしたその時。


「かはっ!!」


 カダンがロムの腰部を後ろから剣で突き刺していた。


「に、兄さん……な、んで……」


 ロムはその場に倒れた。それを見たノーズは呟いた。


「じ、自分の弟を手にかけやがった……」


 カダンは剣についた血をはらうと鞘に収め、テツとアンジの前で片膝をつき敬礼した。そしてアンジはカダンに言った。


「残りの奴らはお前に任せる、好きにやれ」


「かしこまりました」


 そう言うとカダンは立ち上がり、隊長達の方へと向かった。そしてテツは少し驚いていた。


「あれ? 今しゃべったよね? なんで? デズニードってしゃべれたの?」


「ある程度能力の高い者がオームを吸収すると、その力は知性にも働きかけますので、元々話せる者はもちろん、たとへ獣などでも言葉を話すことが可能となります」


「へー! そうなんだ!」


「それと、あれはデズニード、ではございません」


「え? そうなの? じゃあなに?」


「はい、生粋の剣士からなる兇獣きょじゅう……兇剣士きょうけんし【バルニルド】とでも言いましょうか」


「バルニルド……兇剣士きょうけんしかぁ……ねぇ、強いの?」


「ここにいる者たちを、殲滅せんめつさせる程度の力は、あるのではないかと思います」


「へー! じゃあこれで終わりかー、まあ、でも……そろそろか」


 カダンは隊長達の前へと立ちふさがった。ディムは兇獣きょじゅうにされたカダンを目の前にして震えていた。


「そ、そんな……ただでさえ一般兵でも手に余る程だったのに……ま、まさかカダン殿まで…」


「!!!!!」


 その時、全員の前からカダンは姿を消した。


「ぐはっあ!!」


 なんとカダンは一瞬でディムの目の前に現れ、剣を胸に突き刺していた。


「どうした? もう始まっているぞ? 駄目じゃないか、ぼーっとしてちゃ」


 ディムは倒れた、それを見たヴィックスは激高した。


「ディム!! うをおおおおおおお!!!!」


 ヴィックスは飛び掛かり剣を振り下ろした。


「な!!??」


 カダンがヴィックスの剣を左腕で払うと、剣は粉々に砕けた、そしてヴィックスの腹に剣を突き刺した。


「ぐはあああ!!」


「むうん!!!!」


 すかさずサンタニロ隊長が飛び掛かり、右手で大きな斧をカダンへと振り落とした。


「むうううううううんん!!!!」


 なんとそれをカダンは左手で受け止めた、しかし衝撃は凄まじく、カダンの足元にはヒビが生じるほどであった、がしかし、斧はそこからピクリとも動かなかった。


「どうした? 力自慢」


「くそがっ!!」


 次にノーズが飛び込んだが、カダンは掴んだ斧ごと、サンタニロをノーズへと投げつけた。


「うがああああ!!」


「ぬううぅん!!」


 ブロウ隊長も、飛ばされた二人の陰から切り込んだ。


 そしてケイスはブロウ隊長がカダンへと剣を抜く直前、カダンの目の前に炎を放った。


「はあああ!!」

(頼む! 俺のアーク足りてくれ!)


「ぬうん!!」


 その瞬間、ブロウ隊長は瞬時にカダンの後ろへと回り込み、背後から剣撃を放った。


(よし! 当たる!)


 しかし、カダンはブロウ隊長の切っ先に軽く自分の剣を添え、少し角度を変えて受け流すと、そのままブロウ隊長を吹き飛ばした。


「ぐあああああ!!」


 それを見ていたストロス大臣は驚愕していた。


「な、な、なんということだ! 各国の隊長たちが……手も足も出んとは……」


 そして国王はただただ恐怖していた。


「あああ……ああ……」


 しかし吹き飛ばされたサンタニロ、ノーズ、ブロウはカダンの力に驚きはしたものの、まだ戦意は失っていなかった。


 そしてノーズが勢いよく起き上がった。


「くそがっ!! さすがアルティラ国の隊長だ! 強えじゃねえか!」


 そんなノーズにブロウ隊長が声を掛けた。


「ノーズ……お前はダメージを負い過ぎている、この戦いには参加するな」


「な!? 大丈夫っすよ! 薬草だって食ったし! 俺だってやりますよ!」


「薬草ですぐに回復する程度の怪我ではなかろう!! いいから引っ込んでいろ!!」


「ぐっ! そ、そんな……」


「あとは……俺達に任せてくれ」


 そういうとブロウ隊長は、さきに起き上がり、カダンの前へ立つサンタニロ隊長と肩を並べた。


 それを見ていたケイスは、昔、自分が副隊長になったばかりの頃に、前副隊長から聞いた話を思い出していた。


(そ、そういえば聞いたことがある……まだ二人が隊長になる前の話、偶然獣の盗伐で二人が力を合わせたことがあったと……力のサンタニロと技のブロウ、二人の相性は良く、力を合わせた時の強さは、あのウィザードにも届く程かと言われていると……)


「おい、サンタニロ! 私よりも先に前に出るな!」


「むぅ! 貴様と組むことを了承したつもりはない!」


(しかし絶望的に仲が悪い……)


 その時、カダンがサンタニロ隊長へと飛び込んできた。


「!!!!!」


 カダンは剣をサンタニロ隊長の胸へと突き放った、しかし、それをブロウ隊長が剣先でカダンの剣の腹を突き軌道を逸らした。


 その間に両手で斧を振りかぶっていたブロウ隊長は一気にカダンへ振り落とした。


 カダンは身体をずらし間一髪斧を避けたが、斧が床に突き刺さり床が爆砕され、無数の破片が飛んだ。破片から逃れるように横にすかさず飛んだカダンは、二人の方を見たが、そこにブロウ隊長の姿が無かった。


 ブロウ隊長はカダンの側面から切り込んでおり、切っ先は首元へと伸びていた、しかしそれすらもカダンは身体を後ろにそらし躱した、そしてそのまま後ろへ飛び距離を取った。


 カダンの首筋からは血が垂れていた。


「お! おおお!」


 国王は今の二人の攻撃を見て興奮していた。


「い! いけるぞ! 噂には聞いていたが、あの二人が組むとここまで力を引き出せるとは!」


 サンタニロ隊長は床から斧を抜いた。


「むううん……せっかく隙を作ってやったのに、無駄にしおって」


 ブロウ隊長も体勢を直し、反論した。


「ぬぅ、お前こそ、その馬鹿でかい斧も、振り回してるだけで、当たらなければ何も意味がないな」


「むうううう……」


「ぬうううう……」


 二人を見てケイスは思った。


(つ、つよい……確かに仲は悪いけど……お互いがお互いの動きを理解し合い、その先の動きに繋げている……)


 カダンは首の血を拭うと、ひと舐めし、笑った。


「…………」


「…………」


 サンタニロ隊長とブロウ隊長は、それを見て警戒心を高め、構えた。


 そして。


 ブロウ隊長が飛び出した。


「むううん!!!」


 ブロウ隊長は、速くて鋭い斬撃を連発した、しかし、カダンはそれを片手ですべて去なした、が、その時、側面からサンタニロ隊長の投げた斧が迫っていた。


 カダンはそれを高く飛び回避したが、それを追うようにブロウ隊長も飛び、突きを三連発放った、カダンはそれを剣ですべて弾くと、また側面からブーメランのように戻ってきた斧が迫ってきていた。


 空中で体勢が変えられないカダンは、斧を左手で掴み止めた、その時、背後にはサンタニロ隊長が両手を上に組み構えていた、そして一気にカダンへと組んだ両手を叩き落とした。


 地面へ叩き落とされた先には、ブロウ隊長が剣を納刀し構えていた、そしてカダンが地面に直撃する寸前、剣を放った、カダンはそれをなんとか剣の腹で受けていたが、衝撃はすさまじく、後方へと飛ばされた。


 飛ばされたカダンは手と足を地面に引きずりながら止まり、体勢を立て直そうとしたとき、目の前には斧を両手で振り上げたサンタニロ隊長がいた、カダンは咄嗟に左手で受けようとしたが、それを見て、サンタニロ隊長が呟いた。


「いいのか? 今度は両手だぞ」


 サンタニロ隊長が斧を振り下ろした瞬間、カダンの左手からは血しぶきが舞い、衝撃で膝を付き、床は足元から粉砕された。


 しかし、カダンは何とか斧を止めた、が、すでにブロウ隊長がまた居合の構えで側面から切り付けていた。


「おおおお!!」


 ストロス大臣が歓喜の声を上げた。


 間一髪、後ろへ飛び避けたように見えたが、カダンの右脇からは大量の血が流れていた、ブロウ隊長の剣先は、カダンの脇腹を深く切り裂いていたのであった。

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