第41話【十五年前】
――リダ・カダンとロム・カダンVS兜のデズニード
「コホオオオオオオ……」
カダン隊長とデズニードは、しばらく互いににらみ合っていた。
「ロム、こいつはお前がやれ」
「ぼ、 僕がですか……? は、はい……」
「いかにお前が未熟者であろうと、片足の無い相手に及ばぬ程でもあるまい」
「わ、わかりました、 やってみます!」
そういうとロムはデズニードの前へと出た。
「ねえアンジ、 あのデズニード、片足ないのにちゃんと戦えるのかな?」
「そうですね、さすがにあのままだと厳しいでしょうね……」
「だよねー、あ! そうだ!」
テツは何か閃き、甲冑のある場所まで走ると、甲冑から足部を取り外した。
「へへへー! おーいデズニード! これ使いな!」
テツはデズニードに甲冑の足部を放り投げた。
「さすがテツ様ですね」
「へへへ! これで面白い戦いになりそうでしょ! やっぱ戦いってのはフェアじゃなきゃね!」
デズニードは甲冑の足部を自分の足に嵌めると、両足で地面を踏んだ。
「コホオオオオオオ……」
「そ、そんな……」
ロムは片足を取り戻したデズニードを見て臆していた。
「コホオオオオオオ……」
デズニードは何度かその場で跳ね、足の感覚を確認すると、一気にロムへと突っ込んできた。
「うわっ!!」
デズニードの踏み込み速度は恐ろしく速く、ロムは何とか受けはするものの、体制を大きく崩されてしまった。
「な、なんて速さだ……目で追うのがやっとで、対応が追い付かない!」
「…………」
カダン隊長は険しい顔でその戦いを見ていた。
「コホオオオオオオ……」
デズニードはその後、何度も鋭い踏み込みで斬撃を放ってきた、ロムは受ける度に態勢を大きく崩し、途中、腕や足を切りつけられていた。
「アンジ……なんかあのデズニード、随分動き良くない? 足無かったのに……」
アンジは少し考えた。
「恐らく…… 喪失した箇所に何か代わりになるものを取り付けたことによって、その個所の可動を補填する為に、より多くのオームがそこへ集まったのかと考えられます、オームがより多く集まった左足で踏み込むことにより、あの爆発的な踏み込み速度を生んでいるのかと」
「そうなんだ?! じゃあもう片方の足も切ってみる!? もっと速くなるんじゃない!?」
「いえ、それは難しいかと思います」
「えー、なんでぇ?」
「あくまで体内のオームのバランスが変化しただけであり、オームの量が増えたわけではないからです、その証拠に、斬撃の力は他のデズニードに比べ、劣っているのがわかると思います」
「そういえば……確かに弱いっちゃ弱いね……」
「それは左足にオームがより多く集まり、その分、上半身へのオームが損なわれているからでございます」
「あああ……なるほど……!」
「そうなると、その状態で右足を甲冑にしたところで、左足のオームが右足に分散されるだけなので、下手をすれば片足単体で考えればパワーは落ちることになり、踏み込みを片足で行った場合、逆に今より踏み込み速度は落ちるかと思われます」
「うーん……なんだかよくわからんくなってきた……」
「要は今のこの一点強化がデズニードにとって一番バランスが良い、ということでございます」
「ふーん……あれ? てかさ、ならもっとオームをあげれば良いんじゃないの?」
「オームを受けらる量には個体差があります、より強靭な肉体を持っている者ほどより多くの オームを受けることが出来ますが、あの者に与えられるオームの量は今の量が限界でございます、もし強引にこれ以上与えてしまえば、肉体がオームのエネルギーに耐え切れず、朽ちてしまうことでしょう」
「なかなかむずかしいんだねぇ……もういいやぁ……このまま頑張れー!」
デズニードは鋭い踏み込みで弄ぶように、ロムへと斬撃を繰り返した。
「ぐわあ! はぁはぁ……はぁはぁ……」
(このまま動きを捉えられなければ、ただじわじわと嬲り殺されるだけだ……でも一体どうすれば……)
「コホオオオオオオ……」
デズニードはさらに速度を上げ、ロムに突っ込み連撃を放った、ロムは掠りながらもなんとか防いでいたが、脇腹を蹴られ吹き飛ばされた。
「がはあ!!」
蹴り飛ばされたその先には、カダン隊長が腕を組み立っていた。
「うぐぐぅう……」
カダン隊長は吹き飛ばされてきたロムを冷たい目で見下すと、その後デズニードへと目を向け、ロムの前へと出た。
「お前はもう良い、下がれ」
「え? い、いや! まだ、まだやれます!」
「あの程度の相手にこんな無様な戦いをしているようでは、アルティラ軍の名に泥を塗ることになる、この戦いが終わった自ら副隊長の座を降りろ、そもそもお前のような軟弱者が、兵士など志すこと自体が間違いなんだ」
「そ、そんな……く、 な、なんで……なんでいつも兄さんは……」
――五年前
アルティラ国シリス城剣神の間にて、アルティラ軍の訓練中。
「うをおおおお!!」
「はあああ!!」
ロムは一般兵であるミカエルと組み手をしていた。
「うわああ!!」
ロムはサガネを頭上から打ち抜かれ倒された。
「それまで!!」
「はぁはぁはぁ……ま、参りました……」
ロムは他の一般兵に影口を言われていた。
「おいおい、ロムの奴また負けてんぞ」
「てかあいつ弱すぎだろ、あれでなんで次の副隊長候補に入れんだよ? いくらあのカダン隊長の実弟だからってありえないよなぁ……」
「ほんとほんと、これでもしあいつが副隊長にでもなったら暴動でも起きかねねえよ」
「いいよなぁ、実力もなんもないのに兄が優秀だからって副隊長になれるかもしれないなんてよ」
「でもまあ、実際は無理だろ? カダン隊長の一番弟子のシードがいるし、なぜだかわからんけど、カダン隊長もロムにはやたら冷たいしな」
「弟の不出来を理解してらっしゃるんだろ? ただ、カダン家は代々伝わる貴族の家系だ、親が金に物を言わせて国王に媚を売ってるって話もあるからな、油断は出来ねえって話だぜ」
「まじかよ? そんなことしたらカダン隊長の名前にまで傷がつくぜ!?」
「あくまで噂よ、噂……」
ロムは聞こえないフリをし、その場からそそくさと離れた。
――その日の夜
ロムはいつものように家の近くの広場の一角でサガネを振り続けていた。
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
(強くなるんだ! 誰に認められなくったって良い、兄さんに、兄さんに認めてもらえるくらい! 兄さんのように! 強くなるんだ!!)
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
――さらに十年前
ロムはアルティラ国の東にあるオブシオンの森でカダンと逸れ彷徨っていた。
「うわぁぁぁああん! 兄ちゃーーん!! どこーー?? 怖いよーー!! うわぁぁぁああん!!」
その時、木の陰でなにか大きな物体が動くのが見えた。
「ひぃ! に、にいちゃぁぁん……た、たすけて……」
なんと、木の陰から現れたのは中型のマグベシノであった。
「グァァァアアアア!!!!」
「ぎゃあああああ!!!!」
ロムは腰を抜かしその場に倒れた、そして身体を反対に向け、四つん這いになりながらもなんとか逃げようとした。
「グルルゥゥ……」
マグベシノはロムに近づくと匂いを嗅いできた。
「ひぃいい……」
「グルルゥ……グァァァアアアア!!!!」
「ぎゃあああああ!!!!」
マグベシノは激しく咆哮した。ロムは手足をバタつかせ、逃げようとするが、マグベシノに叩かれ吹き飛ばされた。
「ぎゃふんっ!! がはっ!! あああ……」
ロムは木に叩きつけられその場に倒れた、マグベシノはまたロムに近づくと目の前で咆哮した。
「グァァァアアアア!!!!」
「ひいいいい!!!! に! にいちゃあああん!!!」
その時、木の上からリダがマグベシノへと飛び出した。
「でやあああああ!!!!」
リダは太い木の棒を片手に、マグベシノの頭へと思いっきり振り落とした。
「グギャオオオ!!」
「ロム! 大丈夫か!?」
「に! にいちゃあああん!!」
ロムはリダに抱き着いた。
「ま、まて! ロム! 離れろ! まだだ!」
「グウウゥゥゥゥ……」
「眉間から血を流したマグベシノはものすごい剣幕で襲い掛かってきた」
「グルァァァアアアア!!!!」
「ロム逃げろ! ぐわ!!」
「兄ちゃん!!」
リダはマグベシノに叩き飛ばされた。そして再びロムの前に立ちふさがった。
「あわわわわ……」
「ガアアアアアアア!!!!」
マグベシノは咆哮しながらロムへと牙を剝き襲い掛かった。
「だああああ!!!!」
すると今度はリダが後ろからマグベシノに飛びつき、右目に木の枝を刺した。
「グルアァァアアガアアア!!!!」
マグベシノは暴れ回るが、リダはマグベシノの目に刺さった枝を掴んで離さなかった。
「ロム!! 立て!! 逃げろ!! 逃げるんだ!!」
リダは振り回されながらもロムに叫んだ。
「に……にい……ちゃん……だ、だめだ……か、からだが……うごかないよ……」
なんとロムは腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなっていた。
「グルアァァアアガアアア!!!!」
「うわああ!! がはあっ!!」
ついには振り落とされ、リダはロムの前へと吹き飛ばされてきた。
「に! 兄ちゃん!!」
「ロム! 大丈夫だ! 俺が絶対に守ってやる! 心配するな!!」
「にいちゃん……」
「ガアアアアアアア!!!」
マグベシノは酷く興奮し、何度も二人に咆哮した。
「う! うをおおおおおお!!!!」
リダは近くにあった木の棒を掴むと、マグベシノへ向かって行った、そして何度もはじき倒されながらも、ロムの前からは絶対に離れず、何度も向かって行った。
「でやああああ!!!!」
「グウウワウゥゥゥ……」
するとマグベシノはカダンの気迫に圧され、すごすごと森の奥へと逃げていった。
「はあ! はあ! はあ!」
「に、にいちゃぁぁぁん……」
身体と目線は前を向きながらも、左手で自分を庇いながらマグベシノを見続ける兄の背中を、ロムは誇らしげに見ていた。そんな兄の頼もしい背中を見て、ロムは兄のようになりたいと願うようになっていた。
――――
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
ロムはサガネを振る手を止めた。
(僕だって! 兄さんのように強くなるんだ! あの日、僕は決心したんだ! もういつまでも守られているだけじゃない! 強くなって! 兄さんと並んで戦うんだって!)
ロムは再びサガネを強く握り、無心で振り続けた。
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