第37話【五分】

 ―― サムル・ブロウとノーズ・ハイネッグVS上身鎧デズニード


「フォォォォォォ……」


「なんかあいつ、フォォォォォォ……言ってますけど……ブロウ隊長、じゃあ俺やっちゃっていいすかねえ?」


「ノーズ……遊びじゃないんだ、二人で片づけるぞ」


「あんなゲルレゴンの一般兵なんて二人でやんなくたって俺一人で十分すよ! こないだベトルの森でマクベシノ譲ったじゃないですか、今日は俺にやらしてくださいよ」


「ぬぅぅ……ぬぅぅ……」


「じゃ、じゃあ……五分だけ、五分だけくださいよ、速攻で仕留めますから!」


「ぬぅぅ……わかった……では一旦この場は任せよう……五分……五分だけだぞ」


「よっしゃ!」


「得体の知れん相手だ、くれぐれも油断はするな」


「わかってますって! ブロウ隊長はそこでゆっくり茶でも飲んでてくださいよ!」

 

 ノーズはブロウ隊長を説得すると、意気揚々とデズニードの前へと出た。


「おい上だけ鎧野郎! 俺が化けの鎧を剝いでやるからな! 覚悟しろよ!」


「フォォォオオオオ!!」


 それを聞いたデズニードはノーズを敵と認識したのか、ものすごい勢いで突っ込んできた。


「へっ!」


 ノーズはデズニードの一撃目を軽々弾き、そのまま回転して横なぎに胴へと剣を振った。


 デズニードはそれを剣の腹で受け止め、即座に剣を振り上げると、ノーズの頭上へ落とした。


 ノーズは後ろへ飛び、それを回避した。


「い……! 痛ってーー!! こ、こいつ、いったいなんて馬鹿力してやがるんだ! 手がしびれちまったい!!」


「だから油断をするなと言ったろう! 相手の呼吸をちゃんと読め!」


 ブロウ隊長はお茶を飲みながら言い放った。


「呼吸ったって……こいつ……呼吸してんのかね……?」


「フォォォォォォ……」


「フォォォォォォ……とは言ってますけどね……」

 

 テツは今の二人の攻防を見て驚いていた。


「あの人凄いねアンジ! 他の兵士がまともに受けられなかったデズニードの剣を簡単に弾いて、反撃までしてたよ! あんな小っちゃいのに、どこにそんな力があるんだろう?」


「剣というものは力があれば良いというわけではございません、切るも、受けるも、呼吸やタイミング、また、角度や握りの強弱、それらの複合的な要素で強さが決まります、そういった意味では、あの兵士は確かに強い、と言えるのではないでしょうか」


「うんうん! これなら良い戦いが見れそうだね!」


「ええ……そうかも、しれないですね……」


 ノーズは腕を上げ上半身を左右に伸ばした後、軽く屈伸をすると剣を構えた。


「よーし! 敵の力量もよく分かったことだし! もういっちょやっちゃいますかね!」


 そういうと今度は自らデズニードへと突っ込んでいった。


「フォォォォォォ……」


「へっ! だからそれは呼吸なんかよ?!」


 ノーズは横なぎに剣を振った、それをデズニードは下から突き上げ、そのまま剣を頭上に振り落としたが、ノーズは身体を半身、後ろにずらし避けた。


 頭が下がった状態になったデズニードの首へと剣を落としたが、硬い甲冑の左腕で弾かれてしまった。


「おいおい、そんな受け方ありかよ……剣を受けんならちゃんと剣か盾で受けなさいよっと!」


 ノーズはまた横なぎに剣を振るった、デズニードもまたそれを剣で払い、そのまま振り上げ、頭上へと落とそうとしたが、ノーズは払われた反動を利用して回転しながら先に胴を打ち払った。


 デズニードは後方へ大きく飛ばされるが、すぐさまノーズへ飛び掛かり、ノーズもそれを迎え撃ち、鍔迫り合いの形となった。


「フォォォォォォ……フォォォォォォ……」


「へっ! やっぱそりゃ呼吸かい? 少し荒くなってきたんじゃねえの?」


 ノーズは前蹴りでデズニードを後ろへ飛ばすと頭上に跳躍し、脳天へと剣を振り落とした。


 デズニードはそれもまた腕で弾き、剣を突き出したが、ノーズもまたそれを回転しながら躱し、後方から太ももを切り裂いた。


 しかしデズニードはそれもお構いなしに剣を振るうが、ノーズは既に後方に飛び距離を取っていた。

 

 それを見ていたテツは興奮していた。


「すごいすごい!! なんかくるくる回ってる!! もしかしてあの人一人で勝っちゃうんじゃない? 今んとこ押してるよね?」


「ええ、少し……あちらが優勢なようですね、しかし、そう簡単にいくでしょうか……」


 ノーズは剣に付いた血を振り払った。


「痛みを感じねえのか? 少しも動きに動揺がねぇな」


「フォォォォォォ……」


「へっ! フォォォォォォ……だけじゃわからねえよ、まあいいや……痛みを感じねえってなら、構わず切り刻むだけだ!」


 ノーズは飛び込むと、速く鋭い斬撃を何発も放った、デズニードはそれを全て弾き返して突きを放つと、ノーズはまた回転して躱しながら横払いに剣を振るった。


 しかしデズニードはまたそれを腕で弾くと、剣を袈裟に振るい、ノーズはそれを半身ずらして躱し、デズニードの足を蹴った。


 バランスを崩したデズニードだったが、バランスを崩しながらも剣を横なぎに振るうと、ノーズは間一髪後方へ飛んだが、剣先は掠っており、胸から血を流した。


「へっ! 少し俺の動きに慣れてきたってか?」


 ノーズは胸の血を見るも、構わずまたデズニードへ向かって行った。


「!!??」


「時間だ」


 その時、ブロウ隊長がデズニードの背後に現れ、デズニードの首を切った。

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