第36話【ミゲルとヴォーグ】

 デズニードの左腕を落とすことには成功したが、その一方でヴォーグの剣は折れ、デズニードの剣が深々とヴォーグの胸を切り裂いていた。


「ヴォーーーーーグ!!!!」


 ミゲルはデズニードを体当たりで吹き飛ばしヴォーグの元へと駆け寄った。片腕を落としたデズニードはバランスが取れずに倒れた。


「ヴォーグ! 大丈夫か! しっかりしろ!」


「へっへへ……まさか俺が先にくたばっちまうとはな……」


「まだだ! まだ助かる! しっかりしろ!!」


「いや、俺はもう駄目だ……へへっ……こんなことになるなら俺ももっとしっかりと訓練しておくんだったな……」


「もうしゃべるな!!」


「いいか……お前は誰よりも努力してきた……お前ならきっと我らがウィザード隊長の力になれる……あの怪物を倒すんだ……お前の努力を、力を、ウィザード隊長に……」


 ヴォーグは息絶えた。


「ヴォーーーーグーーーー!!!!」




 ―― 一年前


「ふん! ふん!」


 ミゲルは訓練場にてサガネを振り続けていた。


「おいミゲルー、いつまでやってるつもりだよ!」


「ヴォーグ……もう少し、もう少しだけだ、ふん! ふん!」


「こんな平和な時代にそんな必死になって訓練してどうすんだよ、みんなもう城下の酒場に行っちまったぜ」


「ふん! ふん! 俺にかまわず先に行ってくれ、もう少しやったら合流する、ふん!」


「もう少しって……お前のもう少しはいつも少しじゃないんだよなぁ……なんだってそんな努力するわけ?」


「ふん! ふん! 昔、ウィザード隊長の戦闘を目の前でみたことがあるんだ……ふん!」


「え? あの……ウィザード隊長の?」


「ああ……すごかった……とても同じ人間とは思えなかった……ふん! ふん! それを見た時、あまりの強さに恐怖すら感じたよ……ふん! ふん! ただ……」


「ただ……?」


「それと同時に思ったんだ……誇らしいって、こんな凄い人がこのゲルレゴン軍の隊長で、俺はその部下なんだって! ふん! ふん!」


「…………」


「ウィザード隊長は各国の隊長の中でも髄一の強さだと誰もが認めている、それなのに、その軍の兵士は他国の兵士よりだいぶ劣ると笑われている……悔しいじゃないか! ふん! ふん! ウィザード隊長の力には遥か及ばないにしろ! ふん! ふん! 役には立つんだってくらいの力は付けたいじゃないか! ふん!」


 ミゲルはサガネを止めた。


「はぁ、はぁ、きっと今はまだ俺たちの顔や名前も覚えていただけていないだろうけど、強くなって、役に立って、いつか戦場に行くときには俺の名前を呼んで連れて行ってもらいたいんだ!」


「ミゲル……」

 

 ヴォーグはミゲルを輝かしく見ていた。


「せ、戦争っつたって、今はもう戦争なんてないんだぜ、せいぜい獣の盗伐くらいなもんだ!」


 ミゲルはまたサガネを振り始めた。


「戦争が無いに越したことはないさ、ふん! ふん! 獣の盗伐でもいい、俺はただ少しでもウィザード隊長の役に立ちたいだけだよ、ふん! ふん!」


「ふーん……そうかい、俺はせいぜい今のこの平和な世の中を楽しむよ、じゃあ先に行ってるからな!」


「ああ! ふん! 悪いな! ふん!」


 ミゲルは黙々とサガネを振り続けた。


「ふん! ふん! ふん! ふん!」



 ――――



「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」


 ふと気付くと、訓練着に着替えたヴォーグがミゲルの隣でサガネを振っていた。


「ヴォーグ……」


「ふっ! ふっ! 最近ちょっと太り気味だったからな、ふっ! ふっ! 少しだけ付き合ってやるよ、ふっ! ふっ!」


 ミゲルはそれを見てほほ笑んだ。


「ふん! ふん! ふん! ふん!」


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」


 二人は暫くサガネを振り続けた。




 ――――


「くっ!! くっそおおおーーー!!!」


 ミゲルは立ち上がり、デズニードを睨み付けた


「うをおおおおーーー!!」


 そして勢いよく突っ込んでいった。


「ミゲル!!」


「シハァァァアアア……」


 ミゲルはすごい勢いで剣撃を繰り出した、しかしデズニードはそれを片腕ですべて受け流していた。


「ヴィックス! 援護するぞ!!」


 グローランドとヴィックスはミゲルを援護すべく向かった。


「シハァァァァァァ……」


 しかしデズニードは急に後方へと飛んだ。


「逃がすかぁぁぁあああ!!」


 それを追いかけるようにミゲルは突っ込んだ。


「待てミゲル! なにか策があるのかもしれない! うかつに飛び込むな!」


「違う!! こいつは片手では俺たちの剣を防ぎきれないと踏んだんだ!! このまま攻めれば勝てる!! 続けえ!!」


 ミゲルは剣を振り上げ構わず突っ込んだ。


「シハァァァァァァ……」


 デズニードが下がったその場所は、王室に飾られた甲冑のある場所だった、そしてデズニードはその甲冑から左腕を取り外し、自分の腕に付けた。


「な!? なにい!?」


 そして両手で剣を握るとミゲルの剣を払い飛ばした。


「が!!」


 さらに返す刀でミゲルの身体を袈裟に切り付けた。


「ぐわああああ!!」


 ミゲルはその場に膝を付いた。


「ミゲル!!」


 エイルとディムがミゲルを助けに向かうも、二人とも剣を弾かれ切り付けられた。


「うがああ!!」


 ミゲルは震える身体を起こし、デズニードを見上げた。


「うぐぅぅぅ……こ、こいつは……必ず倒すんだ……」


「シハァァァァアアアア……」


「こ、ここで……絶対に……たおすんだあああああーーーー!!!!」


 ミゲルはデズニードに飛びつき、両腕ごと組みついた、そしてそれを見たエイルとディムも両脇から抑えつけた。


「グ! グローランドおおおお!!! 俺ごと突き刺すんだあああ!!!!」


「な!! なにを!! ミゲル!! 馬鹿な!!」


「シハアアアアアアア!!!」


 デズニードは逃れようと体を激しく揺すっている。


「早くしろおおおお!! これを逃したらもう勝機はない!!」


「ううう……はぁはぁ……はぁはぁ……」


 グローランドは動けずに震えている。


「グローランドおおおお!!!! ぐわああ!!」


 抑えつけているミゲルの組んだ指から血が噴き出した。


「グローラン……ドぉぉぉおおお!!」


「ううう……はぁはぁ……」


「シハアアアアアアア!!!」


「刺せえええええ!!!! 刺すんだあああああ!!!!」


「ううぅぅ……はぁはぁ……はぁはぁ……ううぅ……うぁぁぁあああああああ!!!」  


 グローランドは剣をミゲルごとデズニードの腹部に突き刺した。


「ぐはあああ!!! がはっ……!! っだだ…! まだだああ!! まだだああ!! づぎあげろおおおおおーーーー!!!!」


「くっ!! エイル!! ディム!! 手を貸せええええ!!」


 グローランドは突き刺した剣をそのまま上に突き上げた、デズニードとミゲルは上半身を引き裂かれ、ミゲルは前方に倒れた。


「ま……だ……だ……」


「シハアアアアアアア!!!!」  


 上半身が引き裂かれ、左半分が落ちかかっているデズニードは、それでも右腕で剣を振るおうとしていた。


「うをおおおおお!!!!」


 エイルが右腕を切り落とした。


「ああああああ!!!!」


 即座にディムも剣を振り、左足を切り落とした。


「うわああああああ!!!!」


 そしてグローランドが胴を切り裂き、デズニードは崩れた。


「はあ! はあ! はあ! はあ!」


「ぜぇぜぇ……ぜぇぜぇ……」


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


 グローランドはミゲルを抱き寄せた、しかしミゲルは既にこと切れていた。


「ミゲル……ミゲルーー!! や、やったぞ……お前のおかげで倒せたぞ……これで……ゲルレゴン王国の……隊長以外の兵士は弱いなんて……お前を弱いなんて……言わせないからなああ……ウィザード隊長だって……きっと……きっとお前を認めてくれる……ううぅ……うわあああああああああーーーーーーー!!!!!!」


グローランドの叫びは、城中に響いた。

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