第35話【十三人】

「カダン殿!!」


 ミゲルは叫んだ。


 そこに現れたのはアルティラ国軍の「リダ・カダン隊長」と「ロム・カダン副隊長 」であった。

 

「何事かと思えばなんだこいつ等は……謀反か?」


「それにしてもなんだか様子がおかしいですね……」


 そしてミルマーナ国軍の「ジュロン・サンタニロ隊長」 と「ケイス・トゥードゥ副隊長」

 

「久しぶりに来てみれば、随分と物騒な連中がいるではないか」


「なんだか、只ならぬ雰囲気ですね……」


 さらにはバレスティナ国軍の「サムル・ブロウ隊長」と「ノーズ・ハイネッグ副隊長」も駆けつけた。


「ぬぅ……これは……どういうことだ……?」


「同士討ち……? すかね?」


 三国の軍の隊長、副隊長がここに集結した。


「おおお! 各国の隊長方よ! 来てくれたか」


 国王は喜びと安堵を見せた。


「アンジ! なんか強そうな人達が出てきたねー! あの人なんて他の人が一人で止められなかったデズニードの攻撃を片手で止めちゃったよ」


「そうですね、なかなかアークも感じますし、人間の中ではかなりの手練れかと思われます」


「うんうん! 面白くなってきたねー!」


 ストロス大臣は各国の隊長達に注意を促した。


「隊長殿! そいつらは何か不思議な力で首や腕、はたまた上半身のない状態にもかかわらず、強制的に動かされております! 生半可な攻撃では動きを止めることが出来ないので、どうかお気を付けください!」


 それを聞いたアルティラ国の副隊長ロム・カダンは驚きを隠せずにいた。


「という事はあの兜の下には顔がない……という事……?」


 しかし隊長のリダ・カダンはロムへ冷たく言い放った。


「この程度で臆するのなら帰れ、相手に顔や腕がなかろうと、やることはただ一つ、目の前の敵を倒すのみだ」


「は、はい!!」


 そういうとリダ・カダン隊長は受けていたデズニードの剣を弾き返した。


 一方、ミルマーナ国のジュロン・サンタニロ隊長とケイス・トゥードゥ副隊長は腕鎧のデズニードと対峙していた。


「ケイス、敵の戦力がまだはっきりしていない、距離をとって戦うぞ」


「はい!」

(うちの隊長、ガタイが良い割に慎重だよなぁ)


「私の攻撃を合図に敵の後方へ回り込むのだ」


「挟み撃ちですね、わかりました!」

(え? 二人がかりでやるの? あなた一人で充分でしょうよ……)


 サンタニロ隊長は奥にいるテツとアンジを見た。


(それにしてもあの奥の二人……奴らが首謀者か、一人は子供じゃないか……そしてこの男……)


 次にサンタニロ隊長は腕鎧のデズニードの顔を見た。


(この男、依然見たことがある、ゲルレゴンの兵士ではないか……一体どうなっているのだ?)


 そしてサンタニロ隊長は斧を構えた。


 一方、バレスティナ国のサムル・ブロウ隊長とノーズ・ハイネッグ副隊長は上身鎧のデズニードと対峙していた。


「ブロウ隊長、こいつ本当に下半身だけで動いてんすかね? そんなことあんすかね? 鎧脱がしたら身体あるんじゃないすかね?」


「確かに、にわかに信じがたい話だがな、冗談を言っているような雰囲気でもないし、いずれにせよこいつを倒して鎧を脱がせればわかることだ」


「そうっすね! じゃあやっちゃいますかね!」


 ブロウ隊長はゲルレゴンの兵士達に呼び掛けた。


「貴国の兵士たちは残った一体の敵を頼んだぞ!」


 ミゲルはブロウ隊長の声を聞くと何とか立ち上がり、ヴォーグの元へと向かった。同じくグローランドとサリスもその場を隊長達に任せ、ヴォーグの元へと向かった。


「ミゲル! 大丈夫か?!」


 ヴォーグが心配そうにミゲルへ問いかけた。


「ああ、大丈夫だ、各国の隊長達がこうして加勢してくれているんだ、自国の兵士である俺達だって負けていられない、我らがウィザード隊長の名に恥じぬよう、この一体はなんとしてでも倒すぞ!」


 ヴォーグはミゲルの言葉に頼もしさを感じていた。


「おお! 指揮は任せたぞ! 絶対に倒そう!」


「ああ!」


 ミゲルは一歩前へ出ると、ゲルレオン王国兵に声を出した。


「残った兵士は全員でこの怪物を囲むんだ!」


 ミゲルの一声で十三人の兵士が一斉にデズニードの周りを囲んだ。


「シハァァァァ……」


 デズニードは警戒を強めたのか、その場から動かずにいた。


「シハァァァァ……」


 デズニードを囲んだ兵士達の円は、次第に小さくなってきた。


「ふっ!!」


 その時、ミゲルが剣をその場で逆袈裟に振った。


「はあ!」


「おおお!」


 それを合図にデズニードの後方にいた二人の兵士が飛び掛かった、デズニードはミゲルの一振りに反応した為、二人の兵士への反応が遅れた。


「よし!! 入る!!」


「シハァァアアア!」


「な?!」


 デズニードは左腕で二人の剣を受けた、剣は深く腕を切り裂いたが、骨で止まった、そしてデズニードはそのまま片方の兵士に剣を突き刺した。


「ぐはぁぁぁああ!!」


「スクレー!!」


「うがあ!!」


 もう一人の兵士も蹴り飛ばされた、そしてそれを見たテツは高笑いをしていた。


「あははは! さっそく一人やられちゃったね! あと十二人! さあ倒せるかなー!」


 ミゲルは歯を食いしばった。


(くそっ……痛みを感じないから切っただけじゃ駄目なのか……しかし地道に攻めるしか手立てが……) 


「みんな! 奴らはこちらの攻撃にも構わず攻撃をしてくる! 攻撃後に気を緩めるな! 絶えず動くんだ!」


「おお!」


 正面からグローランドとサリスが突っ込んだ、そしてデズニードが二人の剣を受けると、すかさず側面にいた兵士達が横なぎに切り付けた。


「シハアア!!」


 グローランドとハリスの剣を返そうと力を入れ剣を振るうも、二人はもうそこへは居ず、さらに後方からヴォーグ達が足や腕を切り付けた。


「よし!! この調子でいくぞ!!」


 それを見てアンジは感心した。


「良い作戦ですね、このまま削り続ければもしかしたら……ただ……」


「ただ?」


「デズニードが尽きるまで、体力や集中力が果たして持つか……というところですかね」


「なるほど、いけー! がんばれー!」


「テツ様」


「ん?」


「どちらの応援を?」


「兵士! そうなった方が面白そうだし!」


 ミゲル達は順調にデズニードの攻撃をかわしながらも自分達の攻撃を当てていった。


「はあ!!」


「シハァァァアア!」


 しかし、デズニードは何度も切り付けられているにも関わらず、動きが衰える様子はなかった、それをミゲルは不安に感じていた。


(なんて奴だ……これだけ攻撃を当てているのに……不死身なのか……)


「はぁはぁはぁ」


 兵士たちは大分体力を消耗してきていた。


「うをおおおお!!」


「シハァァァアア!」


 兵士が二人飛び掛かったが、デズニードは横なぎに二人の兵士の剣を払った。


「でやああ!!」


「駄目だ!! 待て!!」


 すぐさまサリスともう一人兵士が飛び掛かって行ったが、デズニードは体制を崩しておらず、二人の攻撃を難なくかわすと、サリスの首を落とした。


「サリーーーース!!!」


 テツは不敵に笑った。


「あと十一人」


「ひっ! ひぃぃぃいいいい!!」


 目の前でサリスの首が落とされるのを見た兵士は尻もちをつき、恐怖でデズニードから背を向けた」


「パレッド!!」


「シハァァァアア!」


 パレッドは後ろから切り付けられ倒れた。テツはまた数を数えた。


「あと十人」


 ミゲルはまた強く歯を食いしばった。


「くっ! くっそおおおお……」


 そしてデズニードは倒れたパレッドの握っていた剣を見ると、それを左手に取り襲い掛かってきた。


「うわ!」


「ぐっ!」


「だは!!」


 デズニードは二刀の剣で一気に四人もの兵士を切り付け、その間の兵士達の攻撃もすべてはじき返した。


「に、二刀流……」


 ミゲルはその強さに驚愕した。そしてそれを見たアンジは呟いた。


「双剣……双剣のデズニード……これではさらに彼らは攻撃を当て辛くなりましたね、さてどうするか……」


 ミゲルは考えた。


(双剣とは……くそっ……ただでさえ攻撃が効いていないのに……どうすれば良いんだ……これ以上むやみに攻撃したところで、こちらの体力が一方的に減っていくばかりだ……)


 その時、ヴォーグがミゲルへと近寄ってきた。


「ミゲル! あいつの左腕を見ろ!」


 ミゲルがデズニードの左腕を見ると、その腕は度重なる攻撃を受け、あと少しで切り落とせそうなところまできていた。


「俺達の攻撃は無駄じゃなかったってことだ! ミゲル! あと少しだ! 踏ん張れ!」


 ミゲルはヴォーグの言葉に強く頷いた。


「ミゲル……俺が奴の注意をひ引く、お前は何とかして奴の左腕を切り落としてくれ!」


「わかった! だが無理はするなよ!」


「わかってる! いいとこもってかせてやるんだ! 感謝しろよ!」


 ヴォーグと二人の兵士がデズニードへと突っ込んでいった。


「シハァァァアアア……」


 ヴォーグ達はデズニードに三人で交戦した、しかしどちらの攻撃もなかなか当たらないでいた。


(やはり……双剣になることで回避力は上がったが、左腕が取れかかっている分もあって、今までよりも剣撃に威力がない、これなら!)


「エイル! 合わせろ!!」


 ヴォーグとエイルはデズニードの剣に互いの剣を合わせ、二人ではじき返した、剣を弾かれた双剣のデズニードは体制を崩した。


 (よし! 今までは受ける事さえできなかったが、二人で合わせればはじき返せる!)


 再びデズニードが攻撃を仕掛けるも、ヴォーグ達はことごとくはじき返した。


「シハァアアアアア!!」


 その時、デズニードがその双剣を掲げた。


「は! まずい! エイル! ディム! 三人で受けるんだ!!」

 

 デズニードは掲げた剣を勢いよくヴォーグ達へと振り落とした、その衝撃は凄まじく、三人は何とか受けるも片膝をついた。


「くっ!!ぐふっ!」


 その時、後方からグローランドとヴィックスが攻めてきた。


「シハァアアア!!」


 デズニードは右の剣でヴォーグ達を抑えつけたまま、左の剣でグローランド達を迎え撃った。


「ぐうっ!!」


 グローランドとヴィックスは脳天から振り落とされた剣を二人で受け止めた。


「うをおおおおおお!!」


 その時、ミゲルが頭上から飛び入り、デズニードの左腕めがけて剣を振り落とした。


「はああああ!!」


 そして左腕をついに切り落とした。


「やった!! やったぞ!!」


「がはあ!!」


「え?」

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