第34話【デズニード】

 ――ゲルレゴン城正門


 店を出たテツとアンジは城の門前へと着いていた、そこには門兵が二人いたが、構わず中へと進んだ。


「おい!! 貴様等止まれ!! 何者だ!?」


 城の中へと入ろうとする二人を慌てて門兵が槍で行く手を塞ぎ静止させた。


「エリズスティードって伝説の剣見に来たの、てかこのお城も頂戴!」


「な?! なに!? 貴様!! 何を言っているのかわかっているのか!?」


「わかってるよぉ、てかこの槍どけて」


 テツは門兵の槍を掴んだ。


「こ、この……!!??」


 門兵は槍を動かそうとしたがビクともしなかった、そしてアンジは瞬時にその兵士を消し去ったが、槍と腕だけは残り、地面に腕が落ちた。


「な?! なん!!!」


 アンジはもう一人の門兵も瞬時に消し去った。


「テツ様……」


「ん? なに?」


「わざわざ門から入るより、直接飛んで王室へと向かった方が早いかと思います、恐らくあそこが王室かと」


 そういうとアンジは城の上部にある窓を指さした。


「そっか、飛べるんだし、階段で行かなくて良いのか、よし、じゃあ行こう」


 二人は城上部の窓まで浮かび上がった。アンジは窓の前に手をかざすと凝縮された風の球を窓へと放った、すると窓周辺はたちまち粉々に吹き飛んだ。


「な!? なんじゃ一体!?」


「こ! 国王様!!」


 中には国王と側近大臣、そして兵士が三人ほどいた。


「へえ、すっごい広いじゃん、やっぱ儲かってんだねー!」


 二人は王室の中へと降り立った。


「おい!! 兵隊を集めろ!! 侵入者だ!!」


「は!!」


 大臣は兵士に怒鳴るように命を出した、そして驚きつつも国王は口を開いた。


「お前らは一体なにものじゃ!? どうやってここに!?」


「飛んできた、ねえ国王様、エリズスティード見せて、あとー、このお城頂戴!」


「な、なんじゃと……」


「ストロス大臣!!」


「国王様!!」


 その時、数十人の兵士が王室へと駆けつけた。


「お! いっぱい集まってきたねー! アンジ、僕がやるから手を出さないでね」


「かしこまりました」


 テツは兵士たちの前へと踏み出た。


「こ、子供じゃないか……」


 兵士達はテツに動揺を隠せずにいた。


「なにをしている! 早く捕えんか!!」


「はは!!」


 ストロス大臣の一喝で兵士たちは一斉にテツに飛び掛かった。


「よーし! 行くよ!」


 数人の兵士がテツに飛び掛かったが、テツは兵士達の前から一瞬で姿を消した、そして後ろで構えていた数人の首を素手で切り落とした。


「な!?!?」


 さらに飛び掛かって来ていた兵士も瞬時に素手で腕や銅を切り落とした。


「ぎゃあああ!!!」


「な、なんだこいつは??」


「ちょっと……やる気ある?」


「くっ!!」


 兵士たちは剣を構えた、そして数人でテツに飛び掛かり剣を振り落とした。


「なにい!?」


 剣はテツの頭や皮膚で止まり、切り裂くことは出来なかった、そして蹴りを一振りして、数人の兵士を胴から真っ二つにして吹き飛ばした。


「ぐぅわああ!!」


「な、なんなんじゃこやつは……」


「ふう……」


 テツは顔を傾げた、そしてトボトボとアンジの方へと歩み寄った。


「どうされましたか?」


「アンジー……駄目だ、弱すぎてつまんないよ……でっかい王国だから兵士も強いのかと思ったら……全然張り合いないよ……」


「そうですね、テツ様を満足させる力を持つものは、人間の中には存在しないかと……」


「そっかー……もういいや……あとアンジにあげる」


「かしこまりました、ではテツ様、代わり……と言ってはなんですが、少々面白いものをご覧に入れましょう」


「え?」


 アンジはそういうと、倒れている首のない兵士の前へと立った。


「え? どうしたの? なにすんの?」


 アンジは兵士の背中へと手を突き刺した。


「かああぁぁぁ……」


 そしてなにやら力を集中した。


「あ、あ奴は一体何をしておるんじゃ?」


 アンジは数人の倒れている兵士に同じことをして回った。


「アンジ、なにをしてんの?」


「!!??」


「な!!??」


 その時、なんと倒れた首のない兵士や腕を切られた兵士が起き上がった。


 それを見たテツも驚いた。


「えー!? なにあれ?!? 生き返った!? 首とか無いよ!? てかあいつ足だけじゃん!! 気持ちわる!!」


「私の中にあるスクリアが作り出す生命エネルギー【オーム】を直接分け与えました、スクリアを与えた訳ではないので活動に限界はありますが、与えたオームが尽きるまでの間であれば活動が可能となります、もちろん肉体は強化され、意識はこちらの意のままに【兇獣きょじゅう】となって戦い続けます」


兇獣きょじゅう、そうなんだー、でもなんか見てて気持ち悪いね……あ!」


 テツは王室の端に並んでいる甲冑から兜を取り、首なし兵士へと被せた。


「よし! これでいいね! あと……あいつは足だけだから上半身ごといるね、あとあいつはー」


 テツは足りない部位の甲冑を各兵士に取り付けた。


「出来たー! これで見栄えもいいんじゃない?」


「さすがテツ様でございます、半鎧の戦士、デズニードとでも名付けましょうか」


「いいね! よーし! 行け! デズニード達よ!!」


 デズニード達は一斉に兵士へと襲い掛かった。


「くっ」


 兵士達は剣を構えた。


「ぐわあ!」


「がはあ!」


 しかし兵士たちはデズニードの剣撃でことごとく吹き飛ばされてしまった。


「な、なんて力だ!」


 そして一体のデズニードが間髪入れずに次の攻撃を仕掛けてきた、が今度は何とか剣で受け止めるも、片膝を付いた。


「ぐうぅ! おい! 加勢しろ!!」


「おう!!」


 二人の兵士が加勢に入り、三人がかりでやっとデズニードの剣を押し返した。


「よし! そのまま押し倒せ!!」


「ぎゃあ!!」


 三人の兵士が押し倒そうとしたその時、もう一体のデズニードがその内の一人の兵士の腕を切り落とした。


「フォグ!! この……」


 仲間をやられ怒った兵士は、押さえつけていたデズニードの頭を踏みつけ高く飛ぶと、仲間の腕を切り落としたデズニードの背中に剣を突き刺した。


「どうだ!! な?! ぐわあ!!」


 しかしデズニードは背中に剣が刺さったまま構わず兵士を裏拳で吹き飛ばした。


「ぐわあ!!」


「ぎゃあああ!!!」


 他の兵士もデズニードの猛攻に圧倒されていた、それを見ていた国王はストロス大臣の元へゆっくりと近づいて行った。


「ストロス大臣……」


「国王様……」


 国王はストロス大臣へ静かに話しかけた。


「このままでは兵士がやられるのは時間の問題じゃ、三国の隊長のいる第三会議室へ何とか兵士を走らせて応援を頼むんじゃ」


「は、かしこまりました」


 ストロス大臣は近くの兵士に指示を出すと、兵士は王室外へと走り去って行った、アンジはそれに気付くも、少し笑みを浮かべ見過ごした。そしてストロス大臣は兵士へと声を上げた。


「兵士達よバラバラになるな! 相手は四体! 数では勝る! 三~四人のチームを作って迎え撃つんだ! ミゲル! グローランド! サリス! ヴォーグ! お前らがチームの頭となって奴らを倒すんだ!」


「はは!!」


 ストロス大臣の指揮を受け、ミゲル他三名の兵士が兜のデズニードへ突撃して行った。


「うをおおおおお!!」


「コホォォォオオオオ……」


 兜のデズニードがミゲル達を迎え撃つ態勢をとると、まずミゲルが飛び出し剣を振り落とした、兜のデズニードがその剣を受けると続け様に二人の兵士もそこへ剣を振り落とした。


「コホオオオオォォォ……」


 兜のデズニードが勢いに押され片膝を付くと、残りの一人の兵士がすかさず足を切り落とし、兜のデズニードは受けていた剣を支えきれず、そのまま押し倒された。


「シェァァァアアアアア!!」


 その時、腕鎧のデズニードがそこへ剣を構え襲い掛かってきた。


「おおおおおお!!」


 しかし脇からグローランド率いる兵士たちが飛び掛かり、腕鎧のデズニードの脇に剣を突き刺しそれを防いだ。


 一方でサリス率いる兵士達や、ヴォーグ率いる兵士達も、うまく連携をとりながらデズニードと交戦していた。


 そしてテツはその戦いを楽しそうに見ていた。


「おうおう! やるねぇ! あのおじさんの一言で随分動きが変わったねー!」


「かなり連携が取れてきたようですね、あの大臣、なかなかの統御力……もともと軍の出なのでしょう」


「うをおおおお!!」


 ミゲルは押し倒した兜のデズニードに剣を突き立てた、が途中で剣を止めた。


「くっ! ガイル……!」


「コホォォォオオオオ……」


「ぐわあああ!!」


 ミゲルの動きが止まった隙に、兜のデズニードはミゲルを蹴り飛ばした、それを見たテツは驚いた。


「えええ? なんで? 今せっかくチャンスだったのに、なんで刺さなかったの?」


「元は仲間ですからね、死んだうえに兇獣きょじゅう化したとはいえ、元仲間に剣を刺すことに躊躇いがあったのでしょう」


「そうなの? なんか人間て面倒くさい生き物だねえ……」


 その時、兜のデズニードを抑えている一人の兵士が叫んだ。


「ミゲル!! やらなければ俺達が全滅してしまうぞ!! 躊躇うな!! やるんだ!!」


 ミゲルはその言葉を聞き、覚悟を決めた。


「く、くっそおおお!! うをああああああ!!!」


 そして抑えつけられている兜のデズニードに飛び掛かり、剣を胸に突き刺した。


「はぁはぁ、はぁはぁ……よし! あと三体だ! 行くぞ!」


 一方、グローランド達も、腕鎧デズニードの脇に剣を刺したままその勢いで壁に叩きつけた。


「よし! サリスとヴォーグの加勢に行くぞ!」


 その時、アンジはなにやら不敵な笑みを浮かべていた。


「は! いかん! ミゲル!! グローランド!! まだだ!!」


 ストロス大臣が叫んだ。


「コホオオオオォォォ……」


「シェァァァアアアアア!!」


 剣で刺されたデズニード達だったが、何事もなかったかのように立ち上がり、ミゲルやグローランド達の兵士は後ろから切り付けられた。


「ぐわああああ!!」


「ぎゃあああああ!!」


 アンジはほくそ笑みながら呟いた。


「だから言ったでしょう、兇獣きょじゅうはスクリアから生み出される生命エネルギー、オームの力によって生動しているのです、その程度の攻撃では倒すことなど出来ませんよ」


「ぬう……」


 それを聞いたストロス大臣は上半鎧のデズニードを見た。


「上半身がない状態で下半身だけでも動けるという事は、よほど細かく切り刻まなければ活動を止めることが出来ない……という事なのか……」


「ぎゃ!!」


 ミゲルの兵士がまた切り付けられた。


「くっ! くっそぉぉおおお!!!」


 ミゲルは捨て身の覚悟で剣を振り上げ突っ込んだ。


「いかん!! 一人で突っ込むな!!」


「コホオオオオォォォ……」


 ミゲルは兜のデズニードに剣を振り降ろしたが、力の差がありすぎ、いとも簡単に横払いに剣を弾かれてしまった。


「ぐはっ!!」


 弾かれたミゲルは地面に叩きつけられた。


「コホォォォオオオオ……」


 兜のデズニードは倒れているミゲルの後ろで剣を掲げた。


「ミゲル来るぞ!! 逃げるんだ!!」


「は!!!!」


 兜のデズニードはミゲルへ剣を振り降ろした。


「うわあああああ!!!!」


 その時、何者かが兜のデズニードの剣を防いだ。

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