第33話【伝説】

「あああー! 風が気持ちいいー!」


 火山の外へ出るとテツは体全体を伸ばした。


「よーし! じゃあでっかいお城を探そう! どっちがいいかなー?」


 テツは辺りを見回した。


「てか海しかないね……」


「大陸からかなり離れた孤島ですので」


「ふーん、ガルイード王国はどっちなの?」


「あちらの、北北東にまっすぐ向かえばガルイード王国になります」


「そっかー……じゃあ、逆に行ってみよう!」


「承知致しました」


 そう言うと二人は南西へ向けて出発した。



 ――数十分後


「アンジ! なにか見えてきたよ!」


「大陸ですね、大陸ならばどこかに栄えた国があるかと思われます」


「本当? よし! じゃあ行こう!」


 二人は大陸をまっすぐに突き進んだ、そしてしばらくすると大きな建造物が見えてきた。


「あ! アンジ! なんかあるよ!」


「城、でございますね」


「やったー! 見つけたー!」


 城の上空で二人は止まった。


「アンジこの城知ってる?」


「いえ……私のいたガルイード王国のある大陸がゼラル大陸というのですが、ゼラル大陸外のことは基本的には私たちの耳には入ってこなかったもので」


「そうなんだ、アンジにも知らないことってあったんだね、それにしてもこの国結構大きくない、ガルイード王国よりおっきいんじゃないの?」


「そのようですね、それにこれほど立派な城であれば、大兇帝だいきょうてい様に相応しいかと」


「うんうん! かっこいいよね! 城に行く前に一回下に降りてみようよ!」


「かしこまりました」


 二人は城下へと降り立った。


「ひぃっ!! なんだこいつら!」


「え?? いま空から降ってきた?!」


「うわあ!!」


 テツとアンジが降り立ったその時、数人がテツ達が空から降りてきたことに驚いたが、アンジは瞬時に自分たちに気が付いた人間全てを消し去り、何事もなかったかのように歩き出した。


「へえー……なんか色々あるし、人もいっぱいだねー」


「どうやらガルイード王国よりも文明が栄えているようですね」


 二人は暫く城下を歩いて回った。


「ねえアンジ……」


「はい」


「さっきからあの人達が運んでるのなに?」


 先ほどから屈強な男達が黒い石のようなものを台車に大量に乗せ、町中を駆け回っていた。


「あれは恐らく、鉄鉱石ですね」


「鉄鉱石って……たしか、武器や防具を作るのに必要な材料、だよね?」


「はい、この国の近くに大きな鉱山でもあるのでしょう、そこで採れた鉄鉱石を売ることで財を成しているみたいですね」


「へー、儲かってんだねぇ」


「それに……見たところ武器屋や防具屋が多いので、鍛冶業も盛んなのでしょう、資源は豊富にあるわけですから、この生業は必然ですね」


「確かに、武器屋……防具屋……多いね、あれ? 鍛冶屋ってどれ?」


「煙突から黒い煙が出ているのが恐らく鍛冶屋かと思われます」


「あー、そうなんだ……看板立てれば良いのに」


「鍛冶屋は基本的には店舗としてのやり取りはせず、作った武器は武器屋に卸すのが主流でございます、ようは作り手と売り手を完全に分担し、作り手は作ることだけに集中出来る環境を作っている、という事ですね」


「はえー、よくできてるねー、大したもんだ!! ねえアンジ、どんな武器があるのか、どっか入ってみようよ!」


「はい」


 そういうと二人はある一軒の武器屋に入った。


「すげー!! いろいろあるねー!!」


「はい、それに……どれも素晴らしい品ばかりですね、さすが鍛冶業が盛んなだけのことはある……これも……これも……これも……」


「な、なんか……最近のアンジにしては随分テンションあがってるねぇ」


 アンジが色々な剣に目移りしていたその時、一本の剣が目に留まった。


「ん? アンジ? どうしたの?」


 アンジはその剣を手に取った。


「こ、これは……素晴らしい……素晴らしい剣だ……この剣に比べれば他の剣など比べ物にならない……」


「ええ? そうなの? むしろなんかダサくない?」


「兄ちゃん! お目が高いねぇ!」


 その時、店の奥から店主が現れた。


「その剣はあの伝説の鍛冶屋、カーダ・ナジカの子孫が作った超一級品よ!!」


「カーダ・ナジカ?」


「なんだい? カーダ・ナジカも知らんのかい? お宅らよほどの田舎もんかい? ははーん……さては息子を使って一旗揚げようと田舎から出てきたクチだなー、しかしこんなまだ年端もいかない子供に剣を買い与えようなんて、いくら何でもまだ早いんじゃないの? こっちのサガネで十分だろう?」


「ねえおじさん、カーダ・ナジカって誰?」


「ん? ああ、カーダ・ナジカってのはな、約三百年前に存在した伝説と伝わる鍛冶屋よ、中でも……伝説の鉱石ゲルレゴンで作られた伝説の剣……」


「伝説多くない??」


「いいんだよ! 希少とかいうよりこっちの方がかっこいいだろう!」


 アンジが訪ねた。


「ゲルレゴンというのは鉄鉱石の種類ですか?」


「ああ、この国の南にへ向かったところにチシリッチ鉱山てのがあってな、そこで採れるんだけど、いかんせん中々採れるもんじゃなくてよ、一年に一回、こんな小指の先ほどの量が取れれば良いってくらいなもんよ、しかしそれだけにえらい高値で取り引きされるもんでよ、ついにはこの国の名前にさえなっちまったってわけよ」


「へー、じゃあこの国ゲルレゴン王国っていうんだ、でもそんなにちょっとしか取れないのに売っちゃってたら、剣なんていつまでたっても作れなくない?」


「どのみちこの時代にゃゲルレゴンで剣なんて作れる奴なんざいやしねーよ、そいつは他の鉱石とは比べものにならないくらいの硬度をもっていてな、並大抵の鍛冶屋じゃ剣に加工するなんて無理よ、唯一それが出来たのが……」


 店主はテツに指を指した。


「カーダ・ナジカ……?」


「そういうこと! 三百年前、この大陸は六つの王国が領土の奪い合いをしていたんだ、その時の国王がゲルレゴンの採掘に注力していてな、何とか剣一つを作り出せるだけの量を集めたんだ。しかしどの鍛冶屋もゲルレゴンを加工することが出来なかったらしくてな、そこで当時鍛冶屋としては大陸一の腕前を誇っていたカーダ・ナジカに剣の制作を依頼したんだ、そして出来たのが伝説の剣【エリズスティード】その剣を使ってゲルレゴン王国は六つの王国を統一したって話さ、めでたしめでたし」


「へー……そんなにすごい剣なんだ?」


「まあな、当時その剣を使った軍の隊長さんの言い伝えでは、その剣は相手の剣や防具をも切り裂いて戦争では無双していたらしいよ」


「すげー! 見てみたい! その剣どこにあるの?」


「噂じゃ統一された後は国の象徴としてゲルレゴン城の王室に飾られているって話だが……一般人じゃ城に入れてくれすらしないから諦めな、だいいち、国が統一されてる今、そんな剣必要ないだろう、獣の盗伐やらに使うんならうちにある剣で十分だ、それに、あんたが目を付けたその剣……」


 店主はアンジの持つ剣を指さした。


「その剣はカーダ・ナジカの子孫が作った唯一の剣だよ」


「カーダ・ナジカの、子孫……」


「ああ、俺の幼馴染でな、シム・ナジカってんだ、腕は良いんだが、訳あって今は包丁とか斧とかなたしか作ってなくてな、昔、シムが初めて作った最初で最後の一振りがそれだよ、見てわかる通り、見てくれはダサくて売れやしないが、鍛冶屋としての腕は立派に伝説の血を引いてるよ、惜しいよなあ……あいつならそれこそゲルレゴンで剣を作れそうなのに……まあ、どのみちこの時代には必要ないか、どうする? あんたいい目をしてるから特別価格でそれ売ってやるぜ」


「……」


「アンジ……」


「はい」


「それはいらないね」


「なんだい、買わんのかい?」


「伝説の鍛冶屋が作ったわけでもゲルレゴンを使ってるわけでもないならいいよ」


「いや、だからな……」


「アンジ」


「はい」


「城へ行こう」


「かしこまりました」


「はあ? お前何言ってんだ? 城なんて俺ら城下の人間だっておいそれと入れやしないのに、お前らみたいな田舎もんを入れてくれるわけないだろう!」


 テツとアンジは店主のいう事に聞く耳も持たず、店を出ていった。


「えええ……田舎もんって……恐れをしらんなぁ……」



 ――ゲルレゴン王国王室


「国王様、先ほどアルティラ国の隊長、副隊長共に到着されましたので、第三会議室へとお通しいたしました」


「そうか、これで全員揃ったか、ミサはどうじゃ? もう来ておるのか?」


「それが、今だお見えにならないので、先ほど兵に探しに行くように命じました」


「まったく、本当に時間の守れん奴じゃのう、ストロス大臣、すまんが三国の隊長達に少し待つようにと伝えてくれ、それと、上等な茶菓子でも出してやってくれ」


「かしこまりました」


 そういうとストロス大臣は王室の外で待機していた兵士に言付けをした。国王は王座から降りると窓の前へと立ち、城下を眺めた。


「こうしてみると何とも平和じゃのう……まったく、ラムドーラ王国の馬鹿どもが、血迷ったことを考えよって……三百年も続くこの平和に何の不満があるっちゅうんじゃ……」


 ストロス大臣が戻ってきた。


「まだはっきりと決まったわけではございませんよ国王様、だからこそのこの会議なのです、こうして三国も快く協力してくれるわけですし、王国としては儼乎げんことして構えていきましょう」


「そうじゃのう……なんとか平穏に収まればよいがのう……」


 国王はため息をつくと再び王座に座った。


「国王様はいかがなされますか?」


「え?」


「第三会議室へは?」


「ワシ?」


「はい」


「いやいや、ミサが来とらんのにワシが出ていくのはまずかろう……普通、ワシの登場は最後じゃろう、ワシ国王じゃし……」


「はあ……」


「え?」


「……」


「茶菓子出したし……」

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