第30話【誕生】
「なのにアンジに酷いことして!」
テツは国王にそう叫ぶと、アンジの前で右手を構えた。
「??……な、何じゃ? なにをするつもりじゃ?」
テツは拳を強く握り集中した。
「んんんん…………」
するとテツの拳が赤黒く輝きだした。
「はあああああ……」
そしてテツが拳を開くと、そこには赤黒く輝いたなにか宝石のようなものが現れた。
「な、なんじゃあれは……?」
するとテツはそれを握り、その握った拳をアンジの胸の中へとねじ込んだ。
「なんじゃと!? なにをしている!?」
テツは抜いた手についたアンジの血を、なんとも禍々しい表情で見ている。
国王や兵士たちは、テツの突然の行動に驚きを隠せずにいた。
「…………ん?」
そして国王がテツの目を見ると、色が変わっている事に気づいた。
「……目の色が変わった??」
テツの目の色は黒く変わっていたのであった。
……ックンックン。
「????」
その時、どこかからか何か音がし始めた。
「な、なんじゃ? なにか聞こえる」
ックントックントックン。
「な、なんだ? 心音?」
ドックン!ドックン!ドックン!
「ど、どんどん音が大きくなっていく!」
ドックン! ドックン! ドックン!
「な、なんなんだ一体この音は!?」
ドックン! ドックン! ドックン!
「!? 音が……止んだ……」
「!?」
その時、反対側で兵隊がどよめき始めていた。
「メ! メダイ隊長!!」
なんとそこには立ち上がったメダイの姿があった。
「はあはあ……ぜえぜえ……」
メダイの顔面は焼けただれ、後頭部からは大量の出血をしていた。
「はあはあ……ぜえぜえ……」
「隊長!! 大丈夫ですか!?」
「……こせ……」
「は?」
「や、薬草をよこせっ……」
「は、し、しかし、そのお怪我では薬草は気休め程度にしか、一刻も早く医者の元へ行った方が!」
「いいから早くよこさんかあ!!」
「は! ははっ!」
メダイは兵隊から薬草を取り、口に頬張った。
「くふぅ……」
そしてメダイは重い足取りながらも、テツの元へと近付いて行った。
「メ、メダイ……」
国王も驚いた表情でメダイを見ている。
「た、隊長……」
メダイは途中で兵隊の腰から剣を一本抜き取った。
「…………」
そして遂にはテツの目の前へとたどり着いた。
「ふう、ふう、ふう」
「…………」
テツは黙ってメダイを見ている。
「き、貴様は……わ、私の誇りにかけて、必ず処刑する!! わ、私はこの国を護る軍の隊長だ……こ、この国を護る為に……貴様は……」
「メダイ……」
「…………」
「貴様は必ず殺す!!」
メダイは剣を振り上げた。
「死ねい!!」
そしてテツへと剣を振り落とした。
「!!!!」
「!!??」
「!!?? な!?」
その瞬間、何者かがメダイの剣を止めた。
「…………」
そこには立ち上がったアンジの姿があった。
「な!? なんじゃと!?」
アンジはメダイの剣を素手で無造作に掴み止めていた、それを見たメダイはアンジに向かい叫んだ。
「ア!! アンジィィィ!!」
ギョロ。
「?!」
メダイを見たアンジの目は赤黒く、なんとも禍々しいものであった。
「ど、どう言う事じゃ? 確かにアンジは死んだはず……しかもなんじゃあの目の色は? 雰囲気も随分と変わっておる……」
「くっ、くっ」
メダイは剣を引こうとするが、ピクリとも動かない。
アンジはそのままメダイの剣を素手でへし折った。
「なっ!!??」
アンジは手の平から、バラバラになった剣の破片を地に落とし、それを見ている。
「…………」
「くっか、か……」
メダイは驚きと動揺を隠せずにいた。
(ど、どういう事だ……? 内に秘めるアークの絶対量がとんでもなく増えている……い、いや、アークなのかこれは?)
「アンジ!」
「!」
アンジが振り返ると、そこにはテツの姿があった。
「へへー! アンジおはよう!」
「…………」
アンジはテツに片膝を落とし、頭を下げた。
「おはようございますテツ様、偉大なるあなた様のスクリアを授かり、光栄でございます」
「へ? どしたのアンジ? キャラ変えた?」
「いえ、至極当然の振る舞いにございます」
「……なんか気持ちわる……それはそうと家に帰ろうよ! サオも待ってるでしょ?」
「家……? サオ……?」
「またぁ……もういいから……早く行こうよ!」
テツはアンジを引っ張り歩き出した。
それを見たメダイは折れた剣を強く握り叫んだ。
「なっ!? ま、まて! こ、のままおめおめと逃がしてたまるか!! 貴様等は絶対に逃がさんぞ!!」
そしてメダイは折れた剣を振り上げ、テツに襲いかかった。
「ま! まて! メダイ!」
国王がメダイを止めようと声をあげた。
「げはっ!!」
テツの顔に血しぶきが飛んだ。
「う……うぐぐぅ……」
なんと、アンジはメダイの心臓を貫いていた。
「ぐはあぁぁ……」
メダイはその場に倒れた。
「ア、アンジ……??」
それを見たテツは、鳥肌を立てながらアンジに訪ねた。
「ど、どうしたのアンジ?? 人は殺さないんじゃ??」
アンジは再び腰を落とし、片膝を付いた。
「とんでもないことでございます……あなた様はいずれこの世界を支配するお方……こやつはそのテツ様に剣を向けた……殺して当然です」
「世界を……支配……?」
テツの鳥肌が止まらない。
「はい、あなた様はこの世界の頂点に立ち、人間共に恐怖と絶望を与えるのです」
「恐怖と……絶望……」
テツの髪が逆立ち始めた。
「はい、人間世界は混沌とし、不安や恐怖が入り乱れ、神も無く、仏も無く、ただあなた様にひれ伏すのです」
「僕に……ひれ伏す……混沌……恐怖……」
テツは過去に惨殺した動物や、人間の恐怖に満ちた表情を思い出していた。
「い、いいの……? 殺して?」
「当然でございます、テツ様はこの世を統べる、そう……
「この世を統べる、
テツは不敵な笑みを浮かべた。
「いいね……それ……ふふ、ははは……あはは、あーはははははー!!!」
アンジもまた、不敵な笑みを浮かべた。
「だ、
国王を含む、兵隊たちはただ茫然と立ち尽くしていた。
「では、まず……ここにいる者共を全て、始末致します」
そういうとアンジは立ち上がり兵隊たちの方を見た。
「ひっ! ひいぃぃぃ!」
兵隊たちは恐怖ですくんでいる。
「待って……」
「…………」
「僕がやる」
「いえ、テツ様のお手を煩わせる事などありません」
「いや、僕がやる……」
テツは不敵な笑みを浮かべていた。
「……承知致しました」
(な、なんということじゃ……テツには死んだ者に自分のなにか? を与える事で、蘇らせる力があった……そしてそれを与えられた者は、凶悪で残忍になり、テツの支配下に……今まで突如現れた、ラギットやメザック、犬の化け物は全て、テツの仕業だったということか……)
国王は歯を食いしばった。
(ま、まずいぞ……テツの親代わりであるアンジが凶悪な怪物になったことで、今まで抑えてきたテツの悪の心が一気に解き放たれようとしている……)
国王は拳を強く握った。
(こ、この世界は……終わりじゃ……)
不敵な笑みを浮かべながら、テツはゆっくりと国王達へと近づいていった。
「ひっ!! ひぃぃぃ!!」
数人の兵士が恐怖で尻もちをついた。
テツは徐々に速度を上げて近づいてくる。
「うわああああ!!」
兵隊たちは逃げ出した。
テツは大きく飛び上がり右手を振りかざした。
「うわあああああ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」
「あぐわぁぁああああ!!!!!」
――――
テツは国王以下、その場にいた全ての兵隊達を惨殺した。
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