第25話【約束】
――王室
「そうか、アンジは逃走したか……」
「申し訳ありません、既の所で逃げられました……」
「うむ……警備隊にアンジ捜索の指示をだせ、アンジの家はもちろん、サオの家にもいるやもしれん、しらみつぶしに探し出し、身柄を確保するのじゃ」
「承知いたしました、直ちに警備隊に指示を出します」
「それとテツは? テツにはなんの変わりもないか?」
「はっ、これといって変わりはございません、おとなしくしております」
「そうか、テツの処刑までの間、必ずアンジはテツを助けに来るじゃろう、用心しておくんじゃ」
「はっ、かしこまりました、しかし奴も相当な痛手を負っています、そうそう無茶は出来ないかと……」
「あやつを甘く見るでない、あやつの事じゃ、どんな手段を使ってでも、自分を犠牲にしてでも、テツを助けにくるじゃろう」
「はあ……」
「とにかくテツ処刑までの間、一切気を緩めるでないぞ」
「はっ!」
――アンジの家
アンジの家ではサオが心配そうにアンジとテツの帰りを待っていた。
「……はぁ……」
サオは深くため息を吐いた。
「!!」
その時、突然扉の方で大きな音がした。
「アンジ?! テツくん?!」
サオは扉の方へ駆け寄った。
「え?」
扉を押してみるが、随分と重い。
「んっ!!」
サオが力を込め扉を押し開けると、そこには全身に火傷を負い、腹部から血を流し倒れているアンジの姿があった。
「アンジ!? アンジ!! 大丈夫!? しっかりして!!」
「う、うう……サ、サオ……」
「アンジ!! しっかりして!! 大丈夫! 大丈夫だから!!」
そう言うとサオは出血している腹部に手を当てて目を閉じた。
するとサオの手から優しい光が放たれた。
「う、うう……」
しばらくすると血は止まり、傷口も塞がれていった。
「はあはあはあ……」
サオは回復魔法が使えた、しかし、アークはさほど多くないので、アンジの傷口を塞ぐだけで著しく体力を消耗した。
「はあはあはあ……」
再びサオはアンジの火傷の酷い箇所に手を当てた。
「はあはあ……うう……はあはあ……」
サオはかなり体力を消耗していた。
「くっ」
アンジがサオの腕を掴んだ。
「も、もうやめるんだ……これじゃあ君の身体がもたない……」
「はあはあ……」
サオは黙って回復魔法を続けた。
「サ、サオ……や、やめるんだ……もう、いいから……」
「黙って!!」
サオは涙を流していた。
「サ、サオ……」
「はあはあはあ……」
サオは回復魔法を続けた。
「サ……、オ……」
そしてアンジは気を失った。
――――
「ん……んん……!!」
アンジは意識を取り戻し、身体を起こした。
「ここは……どこだ……?」
自分の身体を見ると、腹部の傷はもちろん大きな火傷も全て治っており、小さな傷や火傷には包帯が巻かれていた。
「……はっ! サオ!!」
アンジは布団から飛び降りサオの元へと走った。
「サオ!!」
「アンジ!? もう起き上がって大丈夫なの?」
「あ、ああ、大丈夫……ありがとう、心配かけてすまない……」
「そう、よかった……」
「き、君の方こそ大丈夫かい? かなり無理をしたんじゃないのか?」
「大丈夫! こう見えて私だって鍛えているんだから」
サオは小さくガッツポーズをして見せた。
「ああ……ところでここは……?」
「ここは私の叔父がアトリエとして使っている家よ、事情を話して一時的に使わせていただいたの、人里離れた場所だから、安心して過ごせるわ」
「君の、叔父さん……ああ、あの画家の」
「ええ、実はアンジの大きな傷も、私じゃなくて叔父さんが治してくれたの、叔父さんは私に魔法を教えてくれた人だから、私よりうんと早く治してくれたわ」
「そ、そうか、あとでちゃんとお礼をいわなくちゃな……」
「うん、でも王国外へ絵を描きに出てしまったから、しばらくは戻らないと思うわ」
「そうか……」
「さっ! ご飯出来てるから食べましょう! お腹空いたでしょう」
「あ、ああ……」
――――
二人は黙って食事を済ませた。
「ごちそうさま、とても美味しかったよ」
サオは微笑むと立ち上がり、食器を片付け始めた。
「あ、僕がやるよ、君も少し休んだ方がいい」
「大丈夫よ、ゆっくりしていて」
「しかし……」
サオは黙って食器を片付けている。
「?!」
食器を片付けるサオをよく見ると少し震えていた。
(サオ……)
アンジはサオに優しく声を掛けた。
「サオ……そこに座ってくれ……」
「……」
サオは手を止め、静かに椅子に座った。
「テツの事なんだが……」
「……ええ……」
「テツはまだ今は無事だ」
サオは顔を上げ、安堵の表情を浮かべ目にはうっすら涙を溜めていた。
「よかった……本当によかった……」
(テツを助けに行くって出て行った俺がこんな状態で帰って来て、心配じゃなかったわけがないよな……それを俺に気を遣って気丈に振舞って……サオ……本当にすまない……)
「しかし……国王がテツを処刑しようとしているのは変わらない……」
「そんな……」
「シラウ大臣は一週間後と言っていた、場所はおそらくサリヴの谷の処刑場だ」
「どうするつもりなの?」
「城のあの牢獄から連れ出すのはまず無理だろう、今回の件で警備も一層強化されているだろうし、となるとチャンスは一週間後のテツの処刑日だ」
「チャンスって、連れ去るつもりなの?」
「ああ、もうそれしか方法は無い!」
「駄目よ! 危険過ぎるわ! 次は殺されたゃうかもしれないのよ! ちゃんと話し合いましょう!」
「話し合おうにも僕ももう罪人だ、国王の元に行った時点で囚われ、話なんて聞いてもらえないよ」
「でも……」
「それに国王とはもう話した……話した上で、テツを護ろうとする俺をも捉えてまで、テツを処刑しようとしてる、国王は……どうしてもテツを処刑したいんだ……」
「そんな……」
「だからテツを助けたらこの国を出ようと思う! この国がテツの存在を認めてくれないならこっちから願い下げだ!」
「アンジ……」
「サオ! 君も一緒に行こう! 君とテツと僕の三人で! 誰にも認めてもらえなくたっていい! どこか遠い国へ、いや、島になるかもしれないけど、三人で暮らそう!」
「…………」
サオは重い表情を浮かべている。
「サオ……」
「……ふぅ……」
サオは何かを悟った顔をし、アンジへ微笑んだ。
「アンジ……こんなタイミングでプロポーズ?」
「え!? あ……いや、その、まあ、なんだ、これはちょっと、成り行きというか、その、ちゃんとしたのは、また、後日に、ちゃんとというか……」
「ふふっ」
サオは微笑むとその後、じっとアンジの目を見つめた。
「アンジ……一つだけ約束して、絶対にテツくんと二人、無事に生きて帰ってきて!」
「サオ……」
アンジもまたサオの目を見つめ、何かを悟った。
「わかった! 絶対に! 絶対に二人で帰ってくる!! ありがとうサオ!!」
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