第16話【いじめ】
――翌日
(あそこで練習してたらトビにバレちゃうから練習場所を変えなきゃな……)
テツは場所を変えて練習を始めた。
「うーん、うーん」
「……!!」
「……!!」
するとどこからか誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
「ん? ……なんだ?」
テツは声のする方へと向かった。
――――
「痛!」
「ワンワン!」
「も、もうやめて」
「クックック、まだまだ、お仕置きはこれからだぜトビ」
「はっはー! もっとやっちゃおうぜダダンくん!」
「フフフ、お仕置き、お仕置き」
なんとトビが三人組の男の子達に暴力を受けていた。
「ご、ごめんよ……一生懸命走ったんだけど……」
ダダンはトビを殴りつけた。
「ああっ!」
「俺は十分以内に買って来いって言ったんだ、五分も過ぎてんじゃねーか」
「どうせどっかで休んでたんだろー?」
「そ、そんなこと……」
「うるせー!」
ダダンの取り巻きもトビにケリを入れた。
「あぐぅ!」
「お前のせいで俺等の昼休み五分も遅れたじゃねーか」
「ご、ごめん……次からはもっと頑張るから……」
「もっと頑張るー? やっぱ今日は手ぇ抜いてたんじゃねーか!」
三人は執拗にトビに暴力をふるった。
「はうぁ! あぐう!」
「ワンワン!」
「あー!! 鬱陶しいなさっきから!」
ダダンはタローを蹴り飛ばした。
「ギャン!」
「タロー!!」
トビはタローの元に駆け寄った。
「くははは! 知ってるか? こいつ犬しか友達いねーんだせ!」
「ははは! ウケるこいつ! やっちゃえ! やっちゃえ!」
トビは三人に袋叩きにされている。
「うぐっ! ぐはっ!」
「トビ」
その時、ダダン達の後ろから、テツがトビに声を掛けた。
「!!」
「な! なんだお前!?」
「テ、テツくん……」
「お、おい! な、なんなんだよお前は!?」
テツはダダン達には目もくれずトビの元へと歩み寄った。
「立てるか?」
「う、うん……どうしてここへ?」
「たまたま」
「ぐ……て! てめえ! シカトしてんじゃねー!!」
ダダンは後ろからテツを殴りつけた。
「テツくん!!」
「いっっっっっっってーー!!」
「ダダンくん!?」
(な、なんだこいつ!! 岩でも殴ったような感触だぞ!!)
「くそっ!」
ダダンは近くに転がっていた鉄のパイプを手に取った。
「おい!」
「お、おう!」
ダダンの指示で残り二人も武器を持った。
「テ、テツくん逃げて……」
テツは黙って立ち上がり、ダダン達の方を見た。
「……」
「いくぞー!!」
そして三人は一斉にテツに飛び掛かった。
「あああー!」
トビは目を瞑った……と同時にテツは右腕を構えた。
「……あ……」
その時、テツの脳裏にサルバとの道場での一連の事件がよぎった、と同時にアンジの言葉を思い出した。
――いたずらに人を傷付けてはいけない、その事をちゃんと理解してほしい――
「!!!!」
テツは三人の攻撃をモロに食らった。
「テツくん!!」
「へっへっへっ……なっ!?」
しかしテツには傷一つ無く、ケロっとしていた。
「な、なんだこいつ、くっ、も、もっとだ! や、やれー!!」
三人は何度も何度も執拗にテツにパイプを叩きつけた。
――――
「はあはあはあ……」
「な、なんだよ、なんだよこいつ……」
武器に使った鉄パイプが形を変えるほど殴りつけたにも関わらず、テツには傷一つ付いていなかった。
ダダン達は恐れをなし、武器を地面に落とすと後ずさった。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
そして一目散に逃げて行った。
「……」
「テ、テツくん大丈夫?」
「なにが?」
「い、いや、怪我は……無いね……」
「うん、別に、トビこそ平気?」
「う、うん、大丈夫……ありがとう、助けてくれて」
「いや……別に助けたつもりは無いんだけど」
「あ、うん……でも、ありがとう」
「……」
――帰り道
「僕ね、身体も弱いし、見た目もこんなだし、性格もナヨナヨしてるから、よくイジメられるんだ……あいつ等は中でも特に酷くて、なにかしら理由を付けてはお仕置きって言って暴力を振るってくるんだ」
「ふーん、全然強そうには見えないけどね」
「テツくんにはそう見えても、僕から見たらおかっかないよ、テツくんには恐いものってないの?」
「恐いもの?? うーん……」
「そっか……凄いね、テツくんは……僕は人間が恐い……弱い者を見つけて優越感に浸り、いたぶっている時の顔は悪魔にも見える……」
「……?? でもアンジは人間は良もんだって言ってたけど?」
「……うん、まあ、確かに全部が全部そんな悪い人ばかりではないと思う、けど、僕は好きにはなれない、自分も含めて……」
「クゥーン、ニャー」
数匹の犬や猫がトビの周りに集まってきた。
「おー、よしよし……だから僕はこの子達が好き!! 愛情を注げば愛情を返してくれる、決して裏切らないし、僕はこの子達さえいれば……」
「……」
「あ、でもテツくんやアンジさんは別だよ! 僕ね、なんとなく分かるんだ、良い人とそうでない人が、防衛本能ってやつかな、アンジさんは凄く優しいし、テツくんはなんていうか……凄く純粋な人だなって思う! こないだのテツくんとアンジさんを見て思ったんだ、テツくんとアンジさんてなんか似てるなって」
「僕とアンジが?」
「うん! 最初親子かと思ったもん!」
「ふーん……」
「テツくんアンジさんの事大好きでしょ?」
「え、あ、うん」
「フフッ、やっぱり!」
「なんでわかったの?」
「テツくん見てればわかるよ! あーいいなー! 僕もアンジさんみたいな人が父さんだったらなー」
「トビの父さん嫌な奴なの?」
「……いないんだ……僕がもっと小さい頃に病気で死んじゃったんだって、だから母さんが女手一つで育ててくれたんだ」
「へー……」
「あ、じゃあ僕こっちだから」
「ああ」
「今日はありがとう、またね」
「うん……じゃ……」
トビは手を大きく振りながら帰って行った。
「……」
――――
「ただいまー」
「おー、お帰りテツ、ずいぶん遅かったなー、何してたんだー?」
「んー、トビといた」
「トビくんと! そっかそっかー! あんな素っ気ない態度でもやっぱ同世代だもんなー、仲良くやってんだ、良い事だ、うんうん」
「んー……でもやっぱ僕トビ苦手だよ」
「またそんな事言ってー、照れんな照れんな、折角出来た友達なんだ、大切にするんだぞ」
「んー……」
テツがトビに対して感じている苦手意識とは、ずばりストレスにあった、テツはトビに対してまったく興味を持っていなかった、その為、本来なら造作も無く殺傷していてもおかしくはない相手だが、アンジに言われている(人を傷つけてはいけない)という言葉に無意識のうちに縛られていたのである、そのストレスこそがテツにとって人間関係における苦手意識と思わせていたのであった。
――翌日
メダイがアンジの元を訪ねてきた。
「メダイです、アンジさんはおられますか」
「メダイ隊長、おはようございます、お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
二人は奥の部屋へと入っていった。
「まず、先日の魔法弾ですが、アンジさんに調整し直して頂いた量の火薬で、約五百個程作りました、それと武器や道具の調達も全て完了です」
「そうですか、では……いよいよですね」
「ええ、そして編成部隊ですが……」
アンジとメダイは島での作戦を入念に話し合った。
――三時間後
「こんな感じですかね……」
「ええ、またなにか気になる点があればいつでも伺いますので」
「わかりました、出発はいつですか?」
「そうですね……この作戦の周知と兵士の休養も含めて、一週間後を考えております」
「そうですか、検討を祈ります」
「ありがとうございます、アンジさんはマハミへはいつ頃向かうおつもりですか?」
「はい、みなさんの出立を見送った後、すぐに向かおうと思ってます」
「そうですか、イトさんとアミちゃんの力になってあげてください」
「はい……こちらの用が済みましたら、私も直ぐに島に向かいますので」
「ええ、お待ちしておりますよ!」
――翌日
アンジは調達した武器や道具を船に積み込む作業を手伝う為に、朝早くから準備をしていた、そこへテツがやってきた。
「アンジー! 今日はどこ行くの?」
「今日は武器や道具を船に運び込むのを手伝いに行くんだよ、テツも行くか?」
「んんー、行かない! どのくらいに帰ってくんの?」
「んー、そうだな、滞りなく終れば夕方くらいには終わるかな? まあ、遅くても夕飯前には終わるとおもうけど? なんで?」
「いや! なんでもない! わかった! んじゃ気を付けて!」
「?? なんだ?」
アンジは支度を済ませると家を出た。テツはドアの小窓からアンジが現場に向かったのを確認していた。
「よし! 行った! サオ! アンジ行ったよー!」
「なにもそこまで警戒する事ないのに」
「だってバレちゃ駄目なんでしょ? ギリギリまで秘密にしとかないと!」
「そうね、その方が驚いた分嬉しさもきっと倍増するわ、こういうのをサプライズって言うのよ」
「サプライズ……よーし! 今日はアンジにサプライズだ!」
「うふふ」
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