第15話【トビ】

 ――数日後


「ねえサオ! みてみて!」


「どうしたのテツくん? あら、素敵なお洋服ね」


「へへー! アンジが買ってくれた!」


「そうー! よかったわね! とっても似合ってる!」


「へへー!」


「うをっほん……じ、実は君にも買ってきたんだ……」


「私にも?」


 アンジはサオに包みを渡した。


「あ、空けてみてくれ」


「は、はい」


 包を開けると、中には薄いオレンジ色のワンピースが入っていた。


「まあ素敵……」


「ま、まあ、あれだ、今回家の事やテツの事で色々と世話になってるし、前にオレンジ色が好きだと言っていたから、いいかなーって思って、もし気にいらなかったらあれだ、ぼ、僕が着るから、あ、いや、僕は着れないけど」


「クスクスッ、ありがとう、とっても嬉しいわ、大切に着させてもらいます」


「そ、そうか」


「んー? なんだ? アンジ顔真っ赤だよ? また風邪ひいたんじゃないの?」


「な、なにを言ってんだお前は! ほ、ほら、今日はサルバさんのところにこないだの事謝りに行くんだろ? 早く支度する!」


 そういうとアンジはそそくさと玄関の方へ向かった。


「なんだい、人が折角心配してんのに」


「クスクス」


「テツー! ほら早く行くぞー!」


「もう、わかったよー! 今行くよー! んじゃサオ行ってくるね!」


「はい! いってらっしゃい! 気を付けてね」


「うん! 行ってきまーす!」



 ――道中


「ねえ、アンジ?」


「ん?」


「アンジとサオは仲良いよね」


「ん、まあ、そうだな」


「サオはアンジの大切な人?」


「ああ、もちろん! とっても大切な人だよ、それにテツだって僕にとって大切な人だよ」


「僕も?」


「うん! サオだってまだ会って日は浅いけど、テツの事をきっと大切な人だって思ってるよ」


「サオも……? んじゃ僕もアンジとサオ大切!」


(んじゃって……)


「はは! ありがとうな!」


「大切の輪だね!」


「うまいこと言うな! そうだな、大切の輪だ! 大切の輪を大切にしような!」


「うん!」


 テツは、アンジに対してどこまでも純粋であった、産まれたての雛が最初に見たものを親と思い慕うよう、またテツもアンジを慕い、アンジの言う事を純粋に受け止めていた。



 ――医務室


「アンジです、失礼します」


 アンジは扉を開け中へと入った。


「アンジさん」


「メダイ隊長、先日は大変申し訳ありませんでした、サルバさんの具合も落ち着いたと聞きましたので、改めてお詫びに参りました」


「そうですか、それはご丁寧に」


 メダイはチラッとテツを見た。


「……」


「サルバさん、この度は本当に申し訳ありませんでした」


「ごめんなさい……」


 アンジとテツはサルバに深々と頭を下げた。


「……いえ、自分の力量不足が招いた結果です」


「しかし」


「頭を上げて下さい、訓練の上での事です、これ以上謝っていただいても自分が情けなくなるだけです」


「アンジさん、サルバも兵士としての意地があります、負けた相手にこれ以上情けをかけられたくない気持ち、察してあげて下さい」


「……はい」


「時に、あと一週間もすれば約束の一ヶ月ですね、また一週間後に御宅にお伺いさせていただこうと思うので、より具体的な作戦を決めて行きましょう」


「はい、わかりました。準備しておきます」


「よろしくお願いします」


 二人は医務室を後にした。


 

 ――――


「なんかまだ怒ってる感じだったね」


「まあ、仕方ないさ、ゆっくり時間をかけて許してもらおう」


「うん、そうだね」


「テツくーん!」


「ワンッワンッ!」


 テツとアンジの元に、犬を連れた一人の少年が駆け寄ってきた。


「あ、トビ」


「はあはあ、やあ、今お母さんに言われて買い物してたんだけど、店から出て来たら丁度テツくん見かけたから」


「へー、そうなんだ」


「テツくんは? お散歩?」


「ん? いや、謝りに」


「謝りに? なにか悪い事でもしたの?」


「んー、サル……」


 するとアンジが咄嗟に話に割って入った。


「あー!! いや、ははは! テツの友達かー? 初めまして、僕はアンジ、テツの親みたいなもんだ」


「みたいな?」


「んー、まあ、みたいな、というか、し、親戚、親戚のおじさんです……どうぞよろしく」


「初めまして、トビっていいます、こっちはタロー」


「ワンワン!」


「へー、おっきな犬だねー」


「はい! 最初は僕より小さいくらいだったのに、どんどん大きくなって」


「ワン!」


「そっかー、でもトビくんだってきっと、これからもっともっと大きくなるよ」


「だといいんですが……身体も強い方じゃないので……今はタローにいっぱい助けてもらってます!」


「ワン!」


「そっかー、仲良いんだね」


「はい! 生まれた時からずっと一緒なんで!」


「そっかー! 仲良きことはいい事だ、うちのテツとも是非仲良くしてやってくれ」


「とんでもない! こちらこそよろしくお願いします! ね! テツくん!」


「ワンワン!」


「ん? ああ」


「なんだー、テツー、折角出来た友達なんだから、もっと愛想よくしろよー」


「えー、友達ってよくわかんないよ……」


「お前なー、友達ってのは」


「クスクスッ、お二人も仲良いんですね! じゃあ僕頼まれ事の最中だったので、これで失礼します、ごきげんよう!」


「え、ああ、ごきげんよう」


 トビは駆けて行った。


「テツくんまたねー!」


「ワンワン!」


 トビが二人に手を振り去っていく中、アンジだけ元気に手を振っていた。


「……行っちゃった……って! なんで俺がしみじみしてんだ!? テツー、折角友達になったんだろ? もっと仲良くしなきゃー」


「んー、トビは嫌な奴じゃないんだけど、なんか苦手なんだよね……」


「まあ、テツも同世代の子と関わる事なんてなかったから無理もないか……しかし、いつの間に友達なんて作っていて驚いたよ、一体いつ知り合ったんだ?」


「んー……一週間前位かなー?」



 ―― 一週間前


「うーん、うーん」


 テツはアンジにバレないように魔法の練習をしていた。


「うーん……全然暖かくなってる感じしないな……」


 テツは自分の手を見つめた。


「イメージねえ……んー! 暖かくなれ! 暖かくなれ!」


 テツは相変わらずダーチに言われた通り、炎を出すイメージではなく、空間を暖めるイメージを持ち練習を続けていた。そうする事で炎が出てくるものと信じていたからである、しかし、マディーリングを付けているテツには、まだ魔法に慣れていないこともあり、炎を出すどころか空間を暖かくする事すら困難にあった。


「んあー! 駄目だ! 出来てる気がしない!」


 テツはその場に倒れ込んだ。


「んー……僕には才能がないのかなあ……いや、アンジだって簡単には出来ないって言ってたし、もうちょっと頑張ってみるか!」


 テツはまた立ち上がり練習を始めた。


「うーん、うーん」


 テツは翌日も、その次の日も一人で練習を続けていた。


「あー! もう駄目! 無理!」


 またもその場に倒れた。


「こんだけやって出来ないなんて、もう無理だよ……」


 ジャリ……


「ん?……」


 ……その時、テツは物陰から人の気配を感じた。


「だれ!? アンジ!? サオ!?」


「ワンワン!」


「こ、こらっ、タロー!」


「?? だれ?」


「あっ! こんにちは! ぼ、僕はトビ! こっちはタロー!」


「ワンワン!」


「ふーん……」


「き、君最近ここでよく見かけるから、なにしてんのかなーって思って……」


「なにって、魔法の練習」


「魔法?! 君魔法使えるの?! す、凄いや!」


「え、そ、そうかな? 大したことないよ」


「いや凄いよ! 年だって僕とほとんど変わらなそうなのに! 僕は七才、君はなんさい? お名前は?」


「なんさい? わかんない……名前はテツ」


「え、わからない? そ、そっか、テツ君はどこに住んでるの? この近くなの?」


「あの橋を渡って左に行ったとこ」


「そうなんだ?! 僕の家もこのすぐ近くなんだ、じゃあご近所さんだね!」


「ふーん……そうなんだ」


「また、ここ来ていいかな? 僕と友達になっておくれよ!」


「友達……? まあ、良いけど……別に」


「本当!? よかった! 今度僕にも魔法見せてよ! 噂に聞いた事があるだけで見たことないんだ、どんな事が出来るの?」


「え、ああ、火を出したり」


「えー!! 凄いや! 見たいなー!」


「まあ、今度ね」


「絶対? 絶対だよ! 約束!」


「ん……ああ……」


「それじゃ僕もう行くね、じゃあまたねテツくん!」


「ああ、じゃあ」


「またねー!」


「ワンワン!」



 ――――


「魔法見せる約束って……んで、お前炎出せるようになったの?」


「……」


「あーあー、折角出来た友達にそんな嘘付いちゃってー、魔法出来ないって知ったらトビくん失望すんだろーなー、あーあー」


「嘘じゃないもん! 一回出したもん!」


「つったってお前、一回偶然出ただけじゃ魔法が使えるって事にはならんだろー」


「練習するもん! 使える様になるもん!」


「素直に出来ないって言った方がいいんじゃないかー?」


「プイッ」

 

 テツは頬を膨らまし、そっぽを向いた。


(あららー、ヘソ曲げちゃったよ)

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