第17話【殺人事件】

 この日はアンジの誕生日であった。二人はアンジを祝う為に室内を装飾し、ケーキや料理を作った。  


「よし! 出来た!」


「上手に出来たわね」


「あとはどうする?」


「そうねー……どうせならクラッカーとかも買って派手に祝おっか?」


「うん! 派手に行こう!」


「じゃあ買いに行かないと、支度してくるからちょっと待っててね」


 サオは支度をしに部屋へと戻った。



 ――数分後


「お待たせテツくん」


「あー、それ、アンジがプレゼントしてくれた服だ!」


「ええ! 折角だから」


「へー! 似合ってるね!」


「フフフ、ありがとう、さあ行きましょう!」


「うん!」


 二人は繁華街へと向かった。いろんなタイプのクラッカーを吟味し、他にも様々な装飾品などを見て楽しんだ。


「なんか結局結構買っちゃったね!」


「そうねー、あんなに沢山あると目移りしちゃって、結局どれも欲しくなっちゃうのよねー」


「はは! でもいいんじゃない? 派手で!」


「そうよね、お祝いだし、派手にいかないとね!」


「うん! 早く帰って飾ろう!」


「ええ!」


 その時、二人の前にガラの悪い二人組の男が現れた。

 

「へっへっへ……」


「よぉーう、ネエちゃん、なんか楽しそうだなぁー」


「…………テツくん行きましょう」


 サオはテツの手を握り、男達の横を通り抜けようとした。


「おおーっと……」


 男は手を伸ばし、サオの行くてを塞いだ。


「つれないねー、そんなガキンチョと遊んでるより俺等と遊んだ方が楽しいよー」


「結構です、通してください」


 サオは男の腕を押し退けて前へ進んだ。


「おおっとー! ちょ、待てよ!」


 男はサオの腕を掴み引っ張った。


「痛っ……」


「まあまあ、すぐ終わるから、少しくらい付き合ってくれよー」


「へへへ……」


 その時、テツが男に声を掛けた。


「おい」


「あ?」


「手離せよ、痛がってんじゃん」


「あぁあ? なんだこのガキはー?」


「兄ちゃんこいつだよ!」


 すると男の後ろから聞いた事のある声がした。


「こいつがこないだ俺に恥かかせた生意気なガキだよ!」


 テツがその男を見た。


「お前……たしかこないだの……?」


 先日トビをいじめていたガキ大将のダダンであった。


「お前なんかな、俺の兄ちゃんにかかればイチコロだぞ! なんたって兄ちゃんは格闘術習ってるんだからな! ボコボコにされちゃえ!」


「……」


 テツは鋭い目でダダンを睨みつけた。


「ひぃ!」


 ダダンはサッと兄の後ろへと隠れた。


「そ、そんな顔してられんのも今の内だかんな! さあ、兄ちゃんあいつをボコボコにしてやってよ!」


「ヒッヒツヒ! なあねえちゃんよー、そんな冷たくしねーでよー」


「ん? 兄ちゃん? ちょっと、そんな女どうでもいいからあいつだよ! あいつやっつけてよ! 金払う代わりに仇とってくれるって約束したろ!」


「あぁー? うるせえ!! んなガキどうだっていいんだよ! 後にしろい!」


「ひぃ!」


「なあなあー、んなつれねー事言わねーでさー、楽しい事しようぜー」


「やめて下さい! 離して!」


 サオは男を払い除けた。


「うをっと」


 男は体制を崩した。


「うわ! あ!!」


 なんとサオが払い除けた拍子に、体制を崩した男の片足が側溝に落ち、泥まみれになってしまった。


「ああああ……」


「テ、テツくん行きましょう!」


「てんめぇー!! このアマァ!! ちょっと待てい!!」


「ああ!!」


 男はサオの髪を掴み引っ張っり寄せた、


「きゃあ!!」


 そして思いっきりサオを引っ叩き、サオは衝撃で倒れた。それを見たテツは足を一歩前へと踏み出した。


「おい! なにすんだ!!」


「うるせえ! ガキゃぁ!!」


「まあまあ、ボクちゃんはこの俺が面倒見てあげるから」


 もうひとりの男がテツの前に立ち塞がり、そしてダダン兄は再びサオの前に立つと、また髪を掴みを強引に起こした。


「こんのアマー、俺のいっちょうらを汚しやがってー!」


 サオは再び叩き倒された。


「あぁ!!」


「サオ!」


 テツは男を押しのけサオの元へ駆け寄った。


「サオ! 大丈夫!?」


 サオは口から血を流していた。


「こんの……」


 テツは男を睨みつけ拳を強く握った。


「テ、テツくん……」


 その時、サオがテツの拳を握った。


「?! サオ?!」


「い、今の内に、逃げて、テツくんだけでも……早く……」


「は、はあ? な、なんで? サオは?」


 さらに後ろからまたサオは蹴り飛ばされた。


「ああ!!」


「サオ!!」


 男はまたサオに近付き、胸ぐらを掴み持ち上げた。


「こんのー! ぜんっぜん腹の虫が収まらねーぞー、お仕置きだ! お仕置きだ!」


 男はなんどもサオを引っ叩いた。


「テ、テツくん……は、早く……に……げ……」


「サ、サオ……な、なんで……?」


 テツは酷く混乱していた、これだけやられてなぜやり返さないのか、なぜ逃げろと言われているのか、テツの混乱した頭にアンジに言われてきた言葉が浮かんでは消えていた。



 ――――――


 テツ……!!



 人は傷付けちゃいけない……。



 人が死ぬと人は悲しむんだ……だから命は大切にしなきゃならないんだ!!



 サオの言う事をしっかり聞くんだぞー!



 サオはアンジの大切な人?



 ああ! もちろん! とっても大切な人だよ! テツだって!



 ……守る時だけだ……



 ……大切な人を守る時だけだ……



 ……良いときがあるとすれば、大切な人を守る時だけだ……



 ……手を出して良いときがあるとすれば、大切な人を守る時だけだ!



 ――――――


 アンジからプレゼントされたサオの服が破け、サオはそのまま下に倒れ込んだ。


「はあはあ、あーすっきりした」


「…………」

(大切な人を……)


「おい! 行くぞおめえら!」


「あ、お、おう……」


(大切な人を守る時だけだ!!)


 テツはゆっくりと目を開き男の元へと近付いて行った。そしてサオは男の前に歩み寄るテツを見上げた。


「テ、テツ……くん……?」


「ああー!? なんだまたてめえか? すっこんで」


 その時、一瞬の閃光が走った。


「え?」


 サオの顔に数滴の血が飛んできた。


「あ、あへ……」


 次の瞬間、辺りに血の雨が降り注いだ。


 ダダンの兄は縦に真っ二つ切り裂かれ、大量の血を噴出し朽ちた。


「…………」


「う……う、うわぁーあぁぁぁぁああ!! ば! 化物だぁぁああああ!!」


「ひ! ひいぃぃぁぁ!! ひ、人殺しぃぃいぃ!!」


 ダダンともう一人の男は一目散に逃げて行った。


「テ、テツ、く、ん……」


 サオはテツに呼び掛けるが、テツは振り返らなかった。血に濡れたテツの後ろ姿だけしか、サオは見る事が出来なかった。


「フッ……」


 サオは意識を失い、その場に倒れた。



 ――――


 一方、アンジは王国から少し離れた海へと繋がる大きな河で、孤島へと向かう船への積み込み作業をしていた。


「よっこいしょ!!」


 アンジは一気に大量の積み荷を船に積み下ろした。


「ふうー……」


「おう! 相変わらずよく働くねえ!」


「ゲンさん、いやぁ、今回この航海で自分は島に行く事が出来ないんで、せめてこれくらいの事は!」


 ゲンはリヴと同じ漁師の仲間でリヴと共にガルイード王国の漁業を守ってきた男である。


「あんま無理して腰やるなよー! サオちゃんが悲しむぞー!」


「あははは! 大丈夫ですよ! 自分まだまだ若いんで! ゲンさんこそもう年なんですから無理しないで下さいね!」


「なあんでーい! わっはっは!」


「ははは!」


「あ……」


「ん? どうした?」


「いや、靴紐が……」


「おう、切れてんじゃねーか」


「まいったな……」


「おーうい! 弁当買ってきたぞー! 休憩にしようやー!」


「おー! 今行くー! おうアンジ! とりあえず飯にしようや! その間に俺のお母に言って直しといてもらうから」


「あ、はい! ありがとうございます!」


(おっかしいな、今日の作業の為に取り替えたばかりなのに……)



 ――――


「うわぁ! うまそう! いただきます!」


 アンジは弁当を口に頬張った。


「うまい!」


「わっはっは! オメェさんはうまそうに食うなぁ!」


「はい! 実はメッチャ腹減ってたんです!」


「積み込みもあとひと息だ、食い過ぎて動けなくなるとかやめてくれよ! わっはっは!」


「はははは!」



 ――――


「ふぅー! 食った食った!」


「ほら、茶だ」


「あ、ありがとうございます」


「ズズズ、ぷうー……」


「オメェさんこの出航を見送ったらすぐにマハミに向かうんかい?」


「ええ、イトさんとアミちゃんも心配ですし、本当はもっと早く向かうつもりだったんですが……」


「そうか、本当は俺も行きたいのは山々なんだが、リヴがいない今、俺がこの国を離れちまったらこいつら(漁師仲間)が困っちまう……」


 ゲンはグッと拳を握った。


「ええ、ゲンさんは残るべきです、大丈夫、任せて下さい、僕がゲンさんの分まで」


「ああ、頼む、イトとアミちゃんの力になってやってくれ」


「はい! 無事に、二人共この国に連れて帰ってきます」


「ああ……しかし、怪物ってのは一体なんなんだ、リヴを……あんないい奴を……クソッ!」


「ゲンさん……」


「俺は怪物の野郎を絶対許さねえ、リヴを死に追いやり、イトやアミちゃんをこんな目に……いつか、いつか俺が見つけ出してこの手で息の根を止めてやる!」


「……」


 ザワザワ……ザワザワ……。


「ん?」


「なんでぇ、なんか騒がしいな」


「ええ、なんでしょうね?」


「おう! どうしたお前等? 騒がしいな!」


「ゲンさん! なんか国の方でエライ事件があったらしいっすよ!」


「事件?」


「なんか殺人事件らしいんですが」


「殺人事件? なんだ、物騒な話だなぁおい……」


「ええ、それがなんか犯人は子供らしいんですよ」


「子供?! なんだそら? 本当かよ?」


「そうなんすよ、なんかおかしな話で、どっからどこまでが本当なんだかよくわからねえんですが、目撃者の証言によると、その子供は素手で大の大人を真っ二つに切り裂いたって話で……」


「なんだそりゃ? はは! んな事あるわけねえだろ」


「自分も話に尾ひれが付いただけだと思うんですが……」


「ふーん……んで? その子供の犯人ってのは捕まったのか?」


「それなんですが、警備隊が駆け付けた時、殺された男の近くに女性が倒れていたらしいんですよ」


「ピクッ……」


 アンジの顔色が少し変わった。


「女? そいつも殺されてんのか?」


「いえ、警備隊が確認したところ、失神していただけみたいで、息はあったみたいっす、んで、その女性を保護しようとしたら、警備隊の前にその子供が現れて、数人の警備隊をあっという間に殺害したそうなんすよ」


「どんな作り話よ! 話にならんわ!」


「そ、それで! その女性と子供は?! どうなったんですか?!」


 アンジは身を乗り出して問いただした。


「え、ええ、残った警備隊の一人がなんか爆弾みたいのをもっていたらしくて、地面に叩きつけて爆発させて、その爆発を目くらましにしてなんとか女性を保護したらしいですが、その子供の消息は今のところ不明みたいです……」


 アンジは嫌な胸騒ぎを抑えられずにいた。


「な、なんでえ、オメェさん、なんか心当たりでもあんのかい?」


「……」


「アンジ…?」


「す、すいません! 俺ちょっといってきます!」


「あ! お、おい!」


 アンジは国へ向かい走り去って行った。

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