第11話【メダイ隊長】
「ただいま」
「お帰りなさい」
「あ! お帰りアンジ!」
サオがアンジに歩み寄り問いかけた。
「どうだった? お医者様はなんて?」
「ああ、完治するには一ヶ月位はかかりそうだって」
「そう……でも完治するのならよかったわ、マハミの様子は? 国王様はなんて?」
「現場が混沌としていて、情報収集に苦労してるみたいだ、まだなにも新しい情報は得られなかったよ……」
「そう……」
するとテツが二人の元へ駆けてきた。
「ねえアンジ! 今日サオと一緒に家の大掃除したんだよ!」
「ん、そうか、そう言えば随分家を空けていたからな、うん、綺麗だ、ありがとうなって、テツ! ていうかお前真っ黒じゃないか!」
「うん! 凄い埃まみれで汚かった!」
「そ、そうか、じゃあ、お風呂に入ってさっぱりしてきなさい」
「わかったー!」
「クスクスッ、元気で可愛らしい子ね」
「ああ、元気過ぎてたまにまいるけどね、素直でいい子だよ」
アンジはサオにテツの素性を説明した。
――――
「そう、あの子も苦労してるのね……」
「ああ、なにぶん人間との暮らしに慣れていない、その辺りを充分に理解してあげてほしい」
「わかったわ、親御さん、見つかると良いわね」
「ああ……」
「あー! さっぱりした! クンクン……良い匂い! サオ! 出来たんじゃないの!?」
「ええ、そうね、テツくんがお風呂に入ってる間に良い具合に煮えたわね」
「サオと一緒にご飯も作ったんだよ! アンジ食べよ!」
「そっか! そう言えばもうそんな時間だな、よし、ご飯にするか!」
「うん!」
――三人は食卓を囲んだ。
テツはスープを口に運ぶアンジの顔をじっと眺めた。
「どう? アンジ美味しい?」
「ああ! 野菜の大きさはバラバラだが美味いよ!」
「へへー」
するとサオがアンジに問いかけた。
「これからどうするの?」
「ああ、実は僕が孤島にいた時、メザックではないが僕も怪物に会っているんだ」
「え!?」
「今回のマハミの怪物との関係性があるのかは解らないが、調べる必要はあると思う、その事を国王様に話したら、調査隊を作って下さると言ってくれた、明日その隊長さんが家に来てくれるから、今後腕が治るまでの間は、その調査の為の作戦立てを手伝っていこうと思ってる」
「そう、わかったわ、家とテツくんの事は私にまかせて」
「すまない、助かるよ」
「僕はー!? 僕はなにすれば良いのー?」
「テツは良い子にしててくれればそれで良いよ」
「良い子って?」
「うーん、わがまま言わず、サオの言う事を良く聞いて、家の事を手伝ってあげてくれ」
「わかったー! 良い子にしてる!」
「クスクスッ、よろしくね、テツくん」
「うん!」
――翌日
一人の男がアンジの家を訪ねた。
「国王様から仰せつかりました! 今回、島の調査隊の隊長を務めさせていただくメダイと申します! アンジ殿はおられますか!」
「はい」
アンジは扉を開けた。
「初めまして、アンジと申します、ご苦労様です、どうぞこちらへ」
「はっ! 失礼します!」
二人は家の一室へと向かった。
部屋へ入るとアンジは机に一枚の大きな紙を広げた。
「ざっくりですが、これが島の地図です」
「拝見……」
メダイは島の地図をジックリと見た。
「なるほど……島の様子はどんな感じでしたか?」
「はい、ここにあるこの山が活火山であり、恐らく数か月前に噴火したものと思われます、その為、島の三分の一は焼け焦げている現状で、島の動物は突然の環境変化と空腹で気が荒くなっていて、危険な状況です」
「そうですか、アンジ殿のその怪我は、怪物によって負傷されたとお聞きしていますが?」
「ええ、森の獣も充分に危険ですが、そいつは別格でした、一見はラギットなんですが、大きくて鋭い牙と爪を持っており、とてもじゃないですが、生身の人間がまともに太刀打ち出来るような相手ではありません……その時の怪物は私のこの腕と引き換えになんとか倒せましたが、あの怪物が一匹だけとは限らないし、また違う怪物がいるかもしれない……もしもっと凶暴な怪物だったらと考えると……」
「なんと……」
「それと、もう一つ気になる事があります」
「それはどんな?」
「一度森で数匹の獣が惨殺されていました、その死骸を見る限り、恐らく人によって殺されたものかと」
「先住民がいたという事ですか?!」
「いえ、島を調べた限り、昔この島に文明があったのは間違いないのですが……」
アンジは島で回収した石をメダイに見せた。
「これを見てわかる通り、この島にいた人間は、それほど進んだ文明では無かったと考えられます」
「なるほど……ではなぜ人間の仕業だと?」
「切り口です、無数に切り裂かれていた獣たちの傷口を見たんですが、ナイフや剣で切られたような綺麗な切り口でした、とても研いた石で出来るような切り口ではない……」
「な、なるほど、そいつも怪物となにか関係が?」
「解りません……敵なのか、味方なのかすら、ただ一つわかるのは相当な手練れだという事だけです」
「そうですか……では、まずは強力な武器の調達、そしてある程度の期間を定めて、調査に行く兵士達の環境に合わせた訓練も必要ですね」
「そうですね、それと武器なんですが、なにか魔法と組み合わせたような武器の開発も出来ないかと考えています、魔法を使える人間は限られていますが、あらかじめなんらかの武器に魔法を施しておく事で、誰でも魔法の力を使う事が出来れば強力な武器になるんじゃないかと」
「それはいいですね! では、私は武器の調達と兵士の育成を、アンジ殿は武器の開発を、期間はどうしますか?」
「そうですね、あまり悠長にもしてられないので、一ヶ月……一ヶ月をめどに事を進めて行きましょう」
「一ヶ月……分かりました、では一ヶ月後に」
アンジはメダイを見送ると、そのまま王国随一の魔法使いであり、アンジの師でもあるダーチのもとへと向かった。
「先生」
アンジは扉を叩いた。
「はい、空いとるよー」
「失礼します」
ゆっくりと扉を開け中へと入った。
「先生、ご無沙汰しております」
「おお、アンジか、しばらくぶりじゃのう、話はいろいろと聞いとるよ、調査の最中にとんでもないことになってしもうたのぅ」
「ええ……生前、リヴ船長には本当にお世話になったので、今回の事は非常に残念に思ってます……ただ、今はアミちゃんやマハミに向かったイトさんの事も心配ですし、一刻も早く体制を整えてマハミへと向かおうと思ってます」
「ふむ、しかし焦りは禁物じゃぞ、気持ちだけでどうにかなる問題でもないからの……」
「はい、心得てはいるつもりです……」
「ところで今日はどうした? その様子から見て、単に世間話をしに来たって訳ではないのじゃろう?」
「はい、実は……」
アンジは、ダーチに怪物の事や孤島への調査隊の話し、強力な武器の開発の話しなどを説明した。
「なるほど……魔法を組み合わせた武器か……」
「ええ、なにか良い案はないでしょうか?」
「うーん……難しいのぅ、そもそも魔法とは生活を豊かにする為のものであって、なにかを攻撃する為のものではないからのぅ……」
「そうですよね……」
「まあ、一朝一夕で出来るような簡単なものではないが、普通の武器では太刀打ち出来るような相手でもないのも確か、少し時間をくれるか? 考えてみるわい」
「ありがとうございます!」
「またしばらくしたら訪ねてくるがよい」
「はい!」
アンジは、ダーチとの話しを終えると家へと戻り、そのまま書斎へと入った。
(先生に任せっきりではなく、自分でも考えなくては、相手は獣だ、やはり炎系の魔法が有効だろうか、武器は、剣、斧、槍、弓、いや、罠として使う手も……)
アンジはしばらく書斎にとじこもり、新しい武器の案を考えた。
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