第12話【秘めた力】

 ――数日後


「ふわぁ……」


 アンジは扉を開けると大きな欠伸をした。


「おはよう」


「ああ、サオ、おはよう」


「酷い顔してるわよ、あまり寝てないんじゃないの?」


「ああ、しかしなんとか案もまとまったよ、今日またダーチ先生のところへ行ってくる」


「最近根詰め過ぎなんじゃない? たまには息抜きしたら?」


「ああ、しかし期限もあるし、そう悠長にはしてられないよ」


「そう、でもテツくんが、最近アンジにかまってもらえなくて淋しそうよ」


「テツが? そっか……」


「たまにはテツくんとどっか気晴らしに出掛けてきたら? その方が研究も捗るんじゃない?」


「そうだな……ところでテツは?」


「部屋にいるわよ、良い子に本読んでるって」


「ん、そうか……」


 アンジはテツのいる部屋へと向かった。


「テツー」


「あ! アンジどうしたの? 研究終わった?」


「ん、ああ、ある程度落ち着いたから、たまにはテツとどっか出掛けようかなって思ってね、テツ魔法に興味あったろ?」


「うん! 教えてくれるの?」


「こないだ行った国王様のお城の裏に、僕に魔法を教えてくれた人の家があるんだ、今日そこに用があって行くんだけどテツも一緒いくか?」


「まじで? 行く!」


「よし! じゃあ、朝ご飯を食べて支度をしたら行こう」


「うん!」


 その後、二人はアンジの師であるダーチの家へと向かった。



 ――――


「先生、いらっしゃいますか?」


 アンジは扉を叩いた。


「はいよー、空いとるよー」


「先生おはようございます」


「おお、アンジ、おはよう」


「あれから自分でもいくつか案をまとめてみたので、先生に見てもらおうと思って」


「そうか、ワシも一つ試作品を作ったから、試してみるとよい……おや? その子は、以前話していた?」


「はい、テツと言います」


「ほほ、テツくんか、はじめまして、ワシはダーチじゃ、よろしくの」


「うん! よろしく! おじさん魔法使いなの?」


「こら、テツ!」


「ほほほ! そうじゃのぅ、テツくんは魔法に興味があるのかい?」


「うん! 僕も使ってみたい!」


「そうかそうか、それじゃ後でテツくんに魔法の才能があるか見てあげよう」


「本当?  やった!」


「ほっほっほっ!」


「先生、さっそくですが、これが自分の考えた案です」


「おお、どれどれ」


「――成る程のう、罠として魔法を使うのは良い案じゃな、他にもいくつか出来そうなものもある」


「本当ですか? よかった、よろしくお願いします」


「うむ、そしたらワシの試作品も見てみるかの?」


「はい! 是非!」


 ダーチは奥の部屋へと武器を取りに行った。


「これじゃ」


「こ、これは?」


 それはピンポン球より少し小さい位の玉状のものであった。


「これを標的に向かって投げつけると、大爆発を起こすという代物じゃ、弓の矢の先に付けて使うのも良いかもしれんの」


「す、凄い! 素晴らしいですよ! この大きさなら嵩張らないし、軽量だ! して一体どのような構造なのでしょうか?」


「うむ、これじゃよ」


「これは……? ビー玉、ですか?」


「ほっほっほっ、これは【マゾン石】と言ってな魔法を吸収し、保存しとける石を加工したものじゃよ」


 するとダーチはその石を握り、念を込めた。


「今この中に火の魔法を吸収させた」


 そういうとダーチは、その石を暖炉の中に投げ込んだ、すると割れた石から炎が燃え広がった。


「このように、石が割れると吸収させた魔法が発生する」


「凄い、こんなものがあるんですね」


「うむ、この石のまわりに火薬を施し、布でくるんだものがこれじゃ、後は火薬の量の調整が必要じゃな、多すぎれば投げた本人が爆発に巻き込まれる、少な過ぎれば対した威力にならん」


「そうですね、では早速火薬の調整を!」


「まあ、そんな焦らんでもよいじゃろう、もう一つこんなものも用意してある」


 それは不思議な色をした液体であった。


「これは? なんですか?」


「この特殊な液体には体力を回復させる魔法を施してある、これを飲めばある程度の傷と体力の回復が可能じゃ、これがあれば島の調査の大きな助けになるじゃろ、【クレアル】とでも名付けようかの」


「凄い! 素晴らしいですよ先生! この二つがあれば鬼に金棒ですよ!」


「ほっほっほっ、喜んでいただけたみたいじゃの、さて、何個が石を預ける、火薬の量は自分達で決めるがよい」


「はい! ありがとうございます! では早速!」


 テツはアンジの服を引っ張った。


「ん?? テツ??」


 テツは頬をブスッと膨らませていた。


「ん、ああ、魔法教えてもらうんだったな、悪い悪い」


「ほっほっほっ、どれどれ、ではテツくんにどれだけの才能があるか見てあげよう」


「うん!」


「まず、魔法というのはアークと呼ばれる人間の生命エネルギーを使って起こすんじゃ」


「アーク? 生命エネルギーって、じゃあ使い過ぎたら死んじゃうの?」


「うむ、無論、生命エネルギーを全て魔法として放出してしまえば死んでしまう、ただ、大半の人間は死ぬ前に力尽きて気を失う方が先じゃろうがな、だが使い方を誤ると死んでしまう事もあるって事は、肝に銘じておくんじゃぞ」 

 

「うん、それでそのアークってどうやって出すの?」


「もう出ておるよ」


「え? 僕なにもしてないのに? もしかして天才??」


「ほっほっほっ、人間からはなにもせずとも常に微力のアークが絶えず放出されておるのじゃよ、人間というか、生物からは、じゃの」


「なんだー、じゃあすぐ出来そうじゃーん」


「それがなかなかそうもいかんでな、魔法を使うにはそれ相応のアークの量が必要になってくる、要は、自身の生命エネルギーである、アークをどれだけ高められるかが重要になってくるんじゃ」


「んー……なんかよくわかんなくなってきた……」


「ほっほっほっ、アークを高める方法は、テツくんがもっと大きくなってからじゃな」


「えー! そんな、アンジみたいな事言わないでよー」


「まあ、今日は魔法の才能があるかみるだけじゃからな、だがもし才能がありそうじゃったら、いずれこのワシが直々に教えちゃるよ」


「本当?! やった! じゃあ早く才能あるか見てよ!」


「うむ、魔法の基本はイメージじゃ、想像、といってもよい、」


「イメージ? 想像?」


「そうじゃ、まずは手本をみせようかの」


 そういうとダーチは腰を落とし、手を前にかざすと、手の平で円を作り目を閉じた。


「??」


 ダーチはゆっくりと目を開けた。


「テツくん、ワシの手の平の間に指を入れてみなさい」


「え? う、うん」


 テツはダーチの手の平の間にそっと指をいれた。


「わ!! 熱い! なにこれ!」


「ほっほっほっ! ではもう一度指を入れてみなさい」


「うん……」

 

 テツはまたダーチの手の平の間にそっと指をいれた。


「うわ! 冷たい!! なんで?」


「これが魔法の第一歩じゃ、手の平の中が温かくなるイメージを強く持つと、だんだん手の平の中の空間が温かくなっていく」


「へー、すげー! 僕もやる!」


「ほっほっほっ! ああ、やってみなされ」


 テツは両手を前に出し、手の平で円を作り目を閉じた。


(……)


「な!!??」


「!!??」


 突如テツの手の平の中から炎が発生した。


「うわ! やった! 火出た!」


「お、お前、一発で成功させちゃった!?」


「どう? アンジ僕才能ある?!」


「こいつはたまげたな! 才能あるなんてもんじゃないよ! 凄いよテツ!」


「ははは! 魔法って面白いね!」


 一方でダーチの顔は蒼白していた。


「テ、テツくん、君は今、手の中を温かくしようとイメージしたんじゃよな……?」


「ん? そうだよ! なんで?」


「な……なんと……」


(いきなり炎をだすイメージをして、万が一炎が出るような事があれば、まだ魔法の扱いにに慣れていないテツくん本人が火傷をしかねない、故にあえて炎のイメージとは言わず、空間を温めると言うたのに、その空間を温めるというイメージだけで炎を出しおった……余程空間が高温になり、炎が出現したのじゃろう……それに……今一瞬膨れ上がったとてつもない量のアークは……アークの高め方まではまだ教えとらんぞ……そ、それに、今のはアーク……??)


「先生? どうしたんですか?」


「ん……い、いや、なんでもない……」


「そうですか、どうです? テツの才能は?! これなら凄い魔法使いになりますよ! どんどん教えていろんな魔法を!」


「駄目じゃ!!」


「え!?」


「あ、いや、まだテツくんは子供じゃ、むやみやたら魔法など教えては本人に危険をともなう、今日はこれくらいで良いじゃろう」


「は、はあ」


「えー! もう教えてくれないのー?」


「すまんのう、魔法を教えるのも順序、と言うもんがあってな、お詫びにこれをやろう」


 ダーチはテツの左手首にリングをはめた。


「わー、なにこれ? かっくいいね!」


「それはとある部族に伝わるものでな、そのリングをはめている事で、魔法の力がどんどん身についていくというものじゃよ」


「へー! すげー!」


「魔法を身につけたければ、いかなるときも肌身離さず身につけていることじゃ」


「うん! わかった!」


「へー、かっこいいなテツー」


「でしょ!」


 その後、テツとアンジはダーチからマゾン石を譲り受け、ダーチの家を後にした。


(あの力は……才能などというレベルの話しではない、どれほどのアークを秘めているのか底が見えんかった……このまま魔法を覚えていけばとんでもない魔法使いに……しかし、もし……その力が……もしあの子が悪の道に走ってしまったら……一体誰が救えるんじゃろうか……)


 ダーチがテツの左手首にしたものは【マディーリング】と言って、魔法を身につけるものではなく、魔法を封じ込める為のものであった。



 ――数日後


「うーん、うーん」


「なにしてんだテツ? 腹でも痛むのか?」


「いや、あれからまた火を出そうとやってんだけど、全然でないんだよね……」


「なんだなんだー、結局あれはマグレだったって事かー」


「マグレじゃないもん! んー……」


 アンジはテツの手の平の中に指を入れた。


「わ! 熱い!」


「本当!?」


「うっそ~ん! ヌルい」


「もー!!」


「はははっ、ところでテツ、今日調査隊隊長のメダイさんの所に、こないだダーチさんが作ってくれた魔法弾を見せに行こうと思っているんだが、テツも来るかい?」


「え! まじで? 行く! 爆発するところ見れる?」


「ああ! 火薬の量もいくつか量を変えたものを持って行って、実際どの位の威力か試してみようと思う」


「面白そう! 早く行こう!」


「いやあ、でもテツは魔法の特訓があるから暇じゃないか……」


「もー!! いいの! 行くよ!」


 二人はメダイのいる調査隊訓練場へと向かった。

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