第6話【出発】

「え!? アンジ!? どうしたの!?」


 アンジを見たテツはアンジの元へと駆け寄った。


「ん、ああ、ちょっと森で転んじゃってな……」


(テツはあの生物の存在を知っているのか……?)


「転んだ?? 転んで出来るような傷じゃないよ、いったいなにがあったのアンジ!?」


「そ、それは……ぐぁっ!」


 アンジは痛みでその場に倒れこんだ。


「ち、ちょっとまってて! 今薬草取ってくる!」


 テツはテントへと薬草を取りに走って行った。アンジは焼けただれた自分の手を見た。


(この手はもう暫くは使い物にならないか……)


 テツは薬草などの入った袋を持ってきた、そしてアンジの手当をし始めた。


「なあテツ……」


「なに? アンジ?」


「テツは森の動物達と仲がいいんだよな? 最近動物達になにか変わった様子はないか?」


「変わった様子? んー……むしろ前より僕の言うこと良く聞くようになったよ、なんで? 森の動物にやられたの?」


「……」


「そっか、じゃあ僕動物達に言っておくよ! アンジに手を出さないようにって!」


「いや、いいんだ、ただ……動物達と遊ぶにしろ、よく気を付けてほしいんだ、動物だって良い動物だけじゃないし、なによりテツはもう動物達とは住む世界が変わり始めてる」


「住む世界?」


「そう、君は人間なんだ、動物達とは違う、動物の中には人間を襲う動物だっている、だから不用意に動物に近づくと、テツが危ない目に合う事になる、テツが人間の生活に慣れていけばいく程、動物達とは……はっ!」


(しまった、こんな言い方じゃまるで、人間になりたいなら大好きな動物達と決別しろと言っているようなものじゃないか……いや、しかし実際テツは人間なんだ、いつかは人間社会に出ていかなくてはならない、だがテツはそれを望んでいるのか? しかし、いずれにしろこんな事を言うにしたって時期が早すぎた……)


「人間かぁ……」


 テツはボソッと呟いた。


「アンジも人間なんだよね」


「え? あ、ああ」


 テツはニコッと笑った。


「僕、動物達といるよりアンジといる方が楽しいよ!」


「は、はは、そ、そうか、そうか! ならよかった! いや、動物達と遊ぶなってわけじゃないんだ、少しでも危険だと思う動物がいたら近付かないようにって事なんだよ!」


「わかったよ! でも僕よりアンジの方が気を付けた方がいいんじゃない?」


 テツは傷だらけのアンジの身体を見回した。


「……っぷ! まったくだ!」


「あはははは!」


 その後、アンジは手当てを終えると、テントに入り休養を取った。


(こんな腕ではとても満足な研究は出来ない……食料の件もある、やはり一度国に戻るしかない……一度戻って傷を治し、地図を使い作戦を立て直すんだ、あの猛獣の対策だってしないといけない、今の武器では到底歯が立たない……あとは……)


 アンジはテツの言った言葉を思い出していた。



 ――アンジといる方が楽しいよ――


 アンジはそのまま眠りについた……。



 ――翌日 


 アンジは目を覚まし、テントから外へと出た。


「あれ? テツは?」


「アンジー!!」


「テツ! どこいってたんだ? 昨日はちゃんと寝たのか?」


「えっとね、いろいろしてたら朝になっちゃった!」


「いろいろ?」


「アンジの腕凄い傷だから今ある薬草じゃ治らないでしょ? アンジの本に書いてあったからこれ探してた!」


 テツはアンジの前に持っていたものを差し出した。


「こ、これは! ナオズキス!!」


【ナオズキス】

薬草の中でも傷を治す効果が非常に高いもの、希少価値が高く、猛獣の好む匂いを放つ為、周囲には猛獣がいることが多い。


(この孤島にこんなものが存在していたのか……)


「これならアンジの手も早く治るでしょ?」


「あ、ああ……しかしどこでこんなものを?」


「んーとね、あっちの方!」


「そ、そうか、怪我は? どこも怪我はしてないか?」


「うん! 大丈夫だよ、あとね、川で魚も取ってきたよ、腑ってのも取ったからあとはアンジ火出してよ、焼いて食べよ!」


「あ、ああ」


 アンジは炎を出し、蒔きに火を付けた。


「こうして、と」


 テツは魚に串を刺し、焚き火の前に刺した。


「出来た! へへへー、うまいかな? この魚」


「……」


(こんなしっかりとした心の優しい子だ……大丈夫、テツなら人間の世界でもしっかりやっていける……)


「う! うまいに決まってるだろー! しかしまたずいぶんデッカい魚取ってきたなー! テツは将来良い漁師になるぞー!」


「えー!! 僕、考古学者になるんだよー!」


「あー、そっかそっか! それじゃ沢山勉強して立派な考古学者にならなきゃな!」


「うん! だからアンジにもっともっといろんな事教えてほしい!」


「んー……いつかライバルになり得る男に塩を送るわけか」


「ライバル? 塩を送る? なにそれ?」


「クスッ、さあ魚焼けたぞ! いただきまーす!」


「あー! 今笑ったー! やっぱアンジにあげなーい! 僕が食べるー!」


 テツはアンジから魚を取り上げようとした。


「あ、あー!!」


 魚は焚き火へと落ちた。



 ――数日後


 アンジはテントの中の私物をリュックにまとめていた。


「よし!」


「あれ? アンジどうしたの? なんかスッキリしたね」


「テツ……」


 アンジはテツの前にしゃがんだ。


「テツ、僕は考古学者で、研究の為にこの島に来た事は前に話したよね?」


「う、うん?」


「見ての通り、これだけの怪我もした、食料だってもうない。このままこの島にとどまって研究を続けても、満足な研究は出来ないだろう。だから、一度国に戻り怪我の治療をして、道具や食料も揃え直してこようと思うんだ」


「く、国に帰るの?」


「ああ……」


「次は、次はいつくるの? また来るよね?」


「ああ……」


「まだ教えてほしい事いっぱいあるよ」


「ああ……」


「森の動……」


「一緒に来ないかい?」


「え?」


「僕の国に、僕と一緒に来てくれないかい?」


「ぼ、僕もアンジの国に……?」


「ああ、テツさえよければ一緒に来てほしい」


「……行っていいの??」


「もちろんだ! 僕の国にはもっともっとおもしろいものがいっぱいあるぞ!」


「う、うん!! 行く!! 僕も一緒に行く!!」


「はは! よかったー! 内心断られるんじやわないかって、ドキドキしてたんだ」


「そうなの? なんで?」


「だって、この島はテツが育った島だろ、島の動物達だっているし、離れるとなるとさみしいんじゃないかなーってね」


「この島はもうおもしろい事なんてないもん、アンジの方がおもしろい!」


「そ、そうか……」

(なんか、結構淡白なんだな……)


「よし! それじゃそうと決まれば仕度しよう! テントや荷物は全部リュックに入れて、研究品は台車に乗せて、岸壁にある僕の船まで運ぼう!」


「おー!」


 二人は荷物をまとめ岸壁にあるアンジの船へと向かった。

  


 ――数時間後


「よいしょ、アンジ! これを切れば良いの?」


「ああ、そうだ! バッサリいってくれ!」


「わかった!」


 テツがロープを切ると船には帆が張られた。


「うわぁ、すっげえ! これが風を受けて海を走るの?」


「ああ! そうだ! そして……」


 アンジは手のひらを天に突き出した。


「はあぁぁぁぁああー!!」


 すると風が吹き、船の帆は風を受け、船は沖へと走り出した。


「さあ! 出航だぁ!」


「おおー!!」


 船はどんどんと走り出した。

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