第2話【襲撃】

 襲いかかって来たのはなんと、大型の獣であった。獣は大きな口を開け、アンジへと迫った。


 アンジは獣の噛みつきを間一髪避け、そして転がりながらも獣から距離を取った。


 嚙みついた牙と牙がぶつかり辺りには鈍い音が響いた。


(こ、こいつは……マグベシノ!!)


【マグベシノ】

四足歩行の巨大な獣で、鋭い爪と牙を持っている、攻撃するときには立ち上がり、その大きさはゆうに三メートルを超える。非常に獰猛ではあるが、人間が立ち寄らないような奥地に生息している為、あまり知られていない珍しい獣、頭から背中までつながるモヒカンのようなたてがみが特徴。


「グルルルゥゥ……ガアァァァアア!!」


 マグベシノは激しくアンジへと咆哮している。


(体長は二メートル前後、まだ子供か……腹が減っているようだな……やり過ごせそうにはないか……)


 アンジは少し屈み、近くにあった太目の木の棒を手に取り構えた。


 マグベシノはジリジリと距離を詰めてくる。


「でやああー!!」


 アンジは大きく振りかぶり、木の棒をマグベシノに向け叩きつけた。がしかし当たった木の棒は粉々に砕け散ってしまった。


「な!!??」


 そして体当たりをされ吹き飛ばされた。


「ぐわああ!!」


(くっそ……子供だってのになんて頑丈な頭してんだ……まともな打撃じゃ通用しないのか……)


「グガアァァァアア!!」


「うわあぁ!!」


 マグベシノは口を大きく開け何度も襲い掛かってくる、アンジはそれをなんとかかわし続けたが、反撃が出来ずにいる。


「はあはあ……」


(まずい……このままではこちらの体力が削られる一方だ……しかし下手な攻撃は逆効果になりそうだし……どうする……)


 するとアンジはポケットに手を入れ、なにかを握りしめた。


(こんな事に使いたくはなかったが……これなら……)


「ガアァァァアア!!」


 マグベシノはまたも大口を開けてアンジへと襲い掛かってきた。


「はあっ!!」


 アンジはマグベシノの攻撃を横へ飛び避け、転がりながらもなにか小さな筒の様なものをマグベシノの元へと投げた。と同時に小さな炎を作りその筒へと投げ付けると、筒は大爆発を起こした。


 筒の中には火薬が入っていたのだった。マグベシノは爆発に巻き込まれ黒焦げになり倒れた。


(ふう……危ないところだった……結局、気配の正体はこいつだったのか?)


 アンジは立ち上がり、黒焦げになったマグベシノの元へと足を運ぼうとしたその時、急に視界が霞み目眩を起こした。


(な、なんだ急に?)


 足に違和感を感じたので見てみると切り傷が出来ていた、そして自分が転げた方向を見ると目眩の原因を理解した。


(あ、あれは、毒を持っているアクルド草……さっき獣の攻撃を避けた時にあいつに触れてしまったのか……は、早くテントに戻って毒消し草を食べなくては……)


 フラフラになりながらもテントに戻ろうとしたその時、後ろかさらにらもう一回り大きなマグベシノが襲いかかってきた。


「ぐわっあ!!」


 鋭い爪がアンジの左腕を裂いた。アンジは横に飛ばされ、左腕からは血が流れ出している。


(な、なんてこった……もう一体いたのか……さっきの奴よりももう一回り大きい、さっきの奴の親か……? まずい……毒の上にこの出血……)


「グオオオオオオオー!!」


 親のマグベシノはひどく興奮状態にあり、アンジに向かい咆哮している。


(どうすれば!? もう火薬はテントに戻らなければ無いし、生半可な攻撃も通用しない!)


 マグベシノはついに牙を剥きアンジに襲いかかってきた。


「くっそおぉ!!」 


 アンジは咄嗟に地面に右手を置き、手の平から風を起こした。


「グヲアァァアァァ!!」


 すると大量の土埃が上がり、マグベシノへと降りかかった。マグベシノは大量の土埃を被り狼狽している。アンジはその隙に茂みへと転がり身を潜めた。


「はぁはぁ……」 


(まずこの出血を止めなくては……!)


 ポケットからなにか練り物を出し、傷口に当てると、次に着ていた上着を破り左腕に巻きつけた。


(よし、傷はこれで良いとして、あとはこの毒をなんとかしなくては……毒消しはテントの中……)


 チラッとテントの方を見ると、近くにはマグベシノがまだいる。


(兎にも角にもあいつをどうにかしないとだな……)


 マグベシノは落ち着きを取り戻し、アンジを探し辺りを嗅ぎ回っている。


(このままでは見つかるのも時間の問題だ……よし……)


 アンジは近くに転がっていた石を取り、マグベシノのいる近くの茂みに投げ込んだ。


「グヲアァァアァァ!!」


 マグベシノは石が投げこまれた茂みへと向かい猛然と突進していった。そして大きな樹木へぶち当たり、その樹木をなぎ倒した。


(思った通り結構単純な獣だ、意外に鼻が利くようでもないし、どちらかというと音の方に敏感だ……そうと分かれば)


 アンジはまた石を取り、テントから離れた場所へと投げ込んだ、するとマグベシノはまた、石が投げこまれた方へと突進していった。 


(よしっ! 今のうちに!)


 アンジは残る力を振り絞り、テントの方に走り出し転げこんだ。そしてなんとかテントにたどり着くと大きなリュックを漁った。


「あった! 」


 リュックの中から毒消し草を取り出し、口に頬張った。


(よし……これで大丈夫だ……)


 その瞬間、アンジは急に後ろから衝撃を受け、テントもろとも吹き飛ばされた。


「ぐはっ!!」


 マグベシノが体当たりしてきたのであった、テントの布や枠組みが多少クッションになり致命傷はまぬがれたが、アンジは大きなダメージを受けた。


「うぐぐぅ……がはぁっ!!」


(くっ……な、なんてこった、き、切り返しがこんなに早いとは……)


 マグベシノは歯ぎしりをし、喉を鳴らしながらゆっくりとアンジに近付いてくる。そしてアンジの目の前に着くと立ち上がり、大きな声で咆哮した。


「ガァァァアアア!!」


「くっ!」


 アンジは手を開き前に出すと力を集中させた。しかし一瞬かすかに輝くも、すぐに消えてしまった。


「くそっ!! もうアークが!!」


【アーク】

魔法を使う為に必要な人間の生命エネルギー、魔法を使用する度に消費され、無理して使い過ぎると命をも落とす。


「ゴアアァァア!!」


 マグベシノはものすごく大きく口を空け牙を剥き襲いかかってきた!!


(やばい!!)


 真っ赤な鮮血がアンジに降りかかった!!


「――くはっ……ん?」


 アンジが目を開けるとそこには、頭の無くなったマグベシノの姿があった。


 そして、大きな音をたて、胴体が倒れた。


「はぁはぁ……な、なんで……??」


 ……ポタッポタッ。


 アークも体力も限界に達していたアンジは、朦朧とする意識の中でポタポタと血の垂れる音のする方を見上げた。


 するとそこにはなんと、マグベシノの頭部を片手で鷲掴みにして持つ少年の姿があった。


「こ、こども……?」


 アンジはその場に倒れ込み気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る