第4話 新型ウイルスは、言った。「我慢して、晴れるまで耐えろ」(←こら!我慢していたら死んでしまうことだって、あるでしょ!)

 神は、吠えた。

 「良いかい、小学生?そういう考え方で生きると、汚れるよ?社会ではねえ、必ずしも、客ばかりが神なんかじゃないんじゃからな。というよりも、神は死んだのじゃ。おお、ニーチェ」

 子どもの頃の思い出から覚めるのが、もどかしかった。

 「今どき世代の子たちがかわいそう、か」

 ヒビキにつきまとう暗闇の雲は、しつこかった。

 タイミングの悪さから、予告無しに社会に放り出される若者たちが増加したのは事実。 

 運の良いときもあれば、悪いときもあったわけで…。

 「それでも、かわいそうとまでは、思えないがな」

 新型ウイルスがプレゼントしてきたのは、大いに制限がかけられた巣立ち色だった。進学進級どころか、学校に通えなくなったり、職場にいけなくなってしまった人が増加。

 「僕たち私たちって、かわいそうだよね?」

 何て、言い方!

 まるで、自分たちを、悲劇のヒーローやヒロインとして、かまってもらいたいようではないか。

 社会に出れば、悲劇のヒーローやヒロインとしてかわいがられるばかりではないのに!

 駄菓子屋の神なら、何と言っただろう?

 世代間の生き方、考え方の行き違いは激しく、かわいそう問題を、いつまでも、メチャクチャにしていたのだった。

 今夜のヒビキの心と、同じように…。

 ちぐはぐと、してばかり…。

 まさに、駄菓子屋の神と小学生との、考え方の違う会話のようなちぐはぐさ。  

 今どき世代の子たちなら、神に、こう言っただろうか?彼らの世代は、強かった。この強さが活かせれば、良かったのに。

 「あのう…、駄菓子の人ですか?あの…、僕たち私たちって、いつも、怒られちゃうんですよね?意味、わかんないんですけど。君たちは、就職氷河期の人たちに感謝もできないのかって、いわれるんですよね?就職氷河期世代?誰、その人?何で、知らない人たちに感謝しなくっちゃならないの?就職に、氷河期があるわけ?だから、何?僕たち私たちには、関係ないんですけれど。僕たち私たちが、社会の中心なんだよ?社会に出られなくて、泣いた?あっ、そう。僕たち私たちの犠牲になってくれただけ、でしょう?ははは。僕たち私たちは、世界に1つだけの存在なんだよ?あー、やだ、やだ…。知らない人にまで関わらなくっちゃならない僕たち私たちは、本当に、かわいそうだよなあ」

 社会は、かわいそう続きの渦中だったのか?

 新型ウイルス社会は、今どきの世代の生活を傷付けたというよりも、社会人として正常と考えられる判断力や思いやりをこそ、傷付けたのではなかったのだろうか?

 「まだ、夜は、開けないのか…?暗闇の雲よ、いい加減に、消えてくれ!」

 ヒビキは、今年で、40歳となった。

 いわゆる、就職氷河期の後ろを生かされた世代ということだ。

 就職先もなく、学校を卒業したくはなかった。が、立ち止まっているのも、嫌だった。 

 「納得、できないなあ…」

 そんなこんなで、卒業していた。

 何人かの友人と、肩を落としあった。

 「俺たち、卒業しちゃうのかあ。明日からは、どこにいったら、良いんだろう?良い世代は、良いよなあ。俺たちも、あと何年か遅く生まれていたなら、楽々人生だったのかもしれないのにな。そんなに努力しなくても、泣かなくても、予習復習をしなくても、良いんだものな。入社したら、会社の人が、手取り足取り教えてくれるらしいぜ?優しく、褒めてくれるんだってさ」

 「ヒビキ?どう、褒めてくれるんだ?」

 「いいね!ってさ」

 「いいね、か…」

 「うらやましいよなあ。俺たちなんか、怒鳴られても蹴り入れられても、我慢する日々だったのにな」

 「しかも、自己責任」

 「…耐えなくっちゃ、ならなかった」

 「耐える?今の子は、耐えなくても良いらしいよ?」

 「そうなのか?」

 「ヒビキ?我慢する生活は、いらなくなったんだよ。自分自身の好む道を進めば、良いんだ。耐えるのは、格好の悪いことなんだってさ」

 「そうなのか?」

 「これが、今どき新社会の真相なんだな」

 「今どきの子は、強い」

 「効率的なんだよ」

 「俺たち就職氷河期世代とは、違うんだ」

 「絶対に、うらやましいよなあ」

 「それで、何が、かわいそうなんだ?本当に、かわいそうなのは…」

 「もう、やめようぜ」

 「わかったよ…」

 「今どき世代の子は、かわいそうなんかじゃない。それで、良いじゃないか」

 「だよな」

 「…もう、努力したり戦ったりする時代じゃあ、なくなったんだ。誰かがやってくれるまで、待っていれば良いわけだ」

 「今どき世代って、強いよなあ」

 「俺たちも、あともう少し、遅く生まれたらかったのにな」

 「…それか、30年早く生まれていれば、バブリー生活だったよな」

 「うん…」

 「泣くなよ…」

 「泣いてないよ…」

 「泣いているじゃないか」

 「…そっちだって」

 巡り巡って、うらやましい限りだった。

 たとえば、こういう言葉で歌を歌う人もいたと記憶していたけれど、その感覚っていうの、どうだろう?

 「いつだって、心は、雨のち晴れ」

 きれいな歌詞、だ。

 うらやましい感覚だった、かも?ずいぶん前の歌というのが、ポイントか。

 良い社会に生まれた歌、だった。

 ファンタジックな、理想郷の歌?雨のあとには必ず晴れがくると信じられた社会だったからこそ、生まれた歌だったんじゃないのか?

 …ちょっと、意地悪意見だ。

 定年退職世代のおじさんたちも、そうだ。おじさんたちは、こう言ってきたものだ。

 「今の若い奴らは、我慢が足りないんだ。絶対に、晴れる。晴れるまで待てないのは、忍耐力のない証拠だ。我慢して、待て!絶対に、晴れる!」

 いや、だから…。

 我慢して耐えても、晴れないことがあるのだ!晴れるまで我慢していたら死んでしまうことだって、あったのに。

 就職氷河期世代の人たちは、それを知っていただろう。ヒビキは、無念だった。

 「今の社会を生きる俺なら、こう歌うのにな。~心は、雨のち晴れ。そうして信じて生きても、良いんじゃない?たとえ、泣かされちゃってもさ…ってな」

 不気味なハミングに、なっていた。

 「つい、歌っちゃったよ。謎だ…。楽しく生きて、終身雇用で安定していて、妖精のようにフワフワ生きられて勝ち逃げの許される定年退職世代のおじさんたちには、俺の歌なんて、合わないんだろうなあ。今どき世代の子たちなら、どう歌うんだろうなあ?」

 何だか、震えてきていた。

 就職氷河期世代の子たちは、ずっと、晴れを信じた。信じて信じて、ずっと、我慢をしたものだ。






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