第3話 「子ども手当なんて、知らないんだろ?修正してやる!」「ふざけんな」「言ったね?じいさんにも、言われたことないのに!」

 「こら、小学生!買いたい物は、決まったのかい?」

 神の口は、フガフガとした怒りに、包まれた!

 時代を超え、神曲が奏でられたとき、神である駄菓子屋ばばあなら、こう言ったはずだ。

 今どき世代の子たちは、おとなしく、聞けるだろうか?

 「…今どき世代よ。よーっく、聞くんだね?あんたがたは、就職氷河期世代なんていう言葉も、知らないんじゃないのかい?その世代は、泣きながら、あんたがた今どき世代に、金を貢がされたんだ。子ども手当って、いうんだ。あんたがたは、知らないんだろう?就職氷河期世代の子たちは、正社員として受け入れてもらえずに、社会に放り出された。泣きながら、アルバイトを続けたんだ。そうして、やっとのことでもらえた給与を、あんたがた今どき世代の子に、吸い取られちゃったんだよ?あんたがたは、それでも、僕たち私たちはかわいそうだって、言い張るのかい?就職氷河期世代の子たちのことを、どう考えてるんだい?」

 今どき世代は、そんなことを言われても、ちんぷんかんぷん。

 「何だよ、シユウ…ヒョウガ?知らない人なんだろ?」

 こういう子が、会社のデスクにかかってきた知らない人からの電話に対応できないのは、そりゃあ、当然ってものじゃないの?

 かつて、リアルタイムで駄菓子屋に通っていた世代の子たちは、神と、どうでもよさそうな戦いを、繰り広げたものだ。

 「きたぞー!」

 「おや、また、きたんだね」

 「駄菓子、ある?」

 「駄菓子屋なんだから、あるに、決まってるだろ。ほれ、小学生よ。金を、出しな。取引だ」

 「そういう言い方、するなよな」

 「小学生は、生意気だねえ。学校の宿題は、終わったのかい?」

 「帰ったら、やるさ」

 「じゃあ、早く買って、帰りな」

 「客に、そういうことを言うのかよ」

 「…こら、小学生!いつだって、生意気なんだねえ」

 「ばばあは、うるせえなあ」

 「何だと?ばばあとか、そういう言い方しているんじゃない!」

 「ちぇっ。わかったよう」

 「本当に、わかったのかい?」

 「…ねえ、おばあちゃん?」

 「よし。…それで良いんだ」

 「なあ?」

 「何だい、小学生?」

 「この国は、変だよね」

 「変なのかい?」

 「楽しすぎるから、変なんだよ」

 「ほう…?」

 「お父さんが、言ってたんだけれど、さあ」

 「何だい?」

 「今は、バブルとかいうんだってさ」

 「バブル?…ああ、そうだったねえ。うちの子も、そう言っていたねえ。孫も、小学校で言われてるのかも、しれんがねえ」

 「そうか。ばばあには、子どもがいて、孫もいたのか」

 「…だから、小学生が、そういう口を利いているんじゃないよ!」

 「わかったよう」

 「本当だね?」

 「俺たちのクラス担任、新卒っていうらしいんだけれど、弱すぎ。お父さんが、うらやましがってたよ」

 「そうかい」

 「今は、楽々、先生になれるんだって。だから、弱いんだって。お父さんたちには、信じられないとか何とか」

 「…ああ。あんたのお父さんたちは、就職難の時代に当たっちゃったからねえ」

 「ふうん。良く、わかんないな」

 「あんたも、いずれわかるというか、苦しめられるかもしれないよ?」

 当時の、駄菓子屋を駆けた小学生には、難しすぎた問答となった。

 「いいか、小学生?おばあちゃんたち神は、クジを引けないんだ。ただ見守るのみだ、…ってね」

 「良く、わかんないよ」

 「社会は、当たりくじとはずれクジだ。良いときもあれば、悪いときもある。子どもは知らないだろうけれど、新卒一括採用っていう、謎のシステムがあってねえ」

 「ふうん」

 「駄菓子屋のクジじゃないけれど、そのシステムで当たりを引き当てられなければ、ずっと、つらい思いをすることになる」

 「…ふうん。良く、わかんないや」

 「あんたの先生は、当たりくじを引けた、ヒヨコちゃんだったわけかい」

 「ヒヨコちゃん?」

 「日本社会の、病気だね」

 「ふうん」

 「うらやましい話じゃ、のう。自分自身の力で考えたり努力しなくても、天から、はつらつとした便りが、下りてくるんじゃ」

 「ふうん」

 「ただし、その良い社会に疲れ良すぎていれば、オーバーヒートじゃ。漬け物だって、キムチだって、漬かりすぎてしまえば、不都合な味になりかねん。駄菓子屋の練り梅も、漬かりすぎれば、どうなることやら。お前さんたちの先生の世代は、もしかしたら、漬かりすぎて、働かないのに金をもらう人たちになってしまうかもな。ひゃははは」

 …ほぼほぼ、当たり。

 神の言う通りになったとわかったのは、それから、30年が過ぎた頃だった。駄菓子屋の神を侮っては、ならなかったのだ!

 「じゃあね、ばばあ。もう、帰る」

 「こら、小学生!待ちな!」

 「何だよう」

 「おばあちゃんが、修正してやる!」

 「…あ、痛いな。叩くなよ」

 「この、小学生めが!修正、してやる!」

 当時の小学生らは、鍛えられた。

 今こんなことが起これば、警察に通報されるかも。

 こうした戦いで鍛えられた就職氷河期世代の子たちは、強く、成長していった。ただ、何度もいうように、社会は、彼らを選ばなかったのだが…。 

 そこにきて、今どき世代の子たちの登場だ。

 ゲームバランスは、崩された。新卒一括採用コースにより、楽ルートで、エンディングに進んでいけるようになったのだ。

 何という、ことか! 

 今どき世代の子たちは、こう返してきた。

 「わかっているよ。今は、多様性を重んじる時代なんでしょ?じゃあ、本当に多様性を重く捉えたいのなら、僕たち私たちをもっともっとかわいそうに受け止めてほしいな。そして、褒めてほしいよ。僕たち私たちは、多様性ある、最後のファンタジーなんだからね!」

 暗闇の雲は、いつまでも、消えそうになくなった。

 「結局、社会は、多様性を重んじると言って、泣かされた世代を無視して、今の若い世代のほうをかわいそうだとするのか?神は、どこへ消えた?多様性って、何なんだろうなあ?」

 夜に、腹が減って、コンビニ帰りのヒビキ。

 道に迷い、生き方に迷い…。

 思うようにいかない、日常。

 まるで、ほしい駄菓子が目の前にあって買いたいのに、神の言葉によって、制限をかけられたように。

 「おばあちゃん、これ、ちょうだい!」

 「おお、おばあちゃんって、言えるようになったんだねえ」

 「どうだ、ばばあ。俺も、成長しただろ」

 「ほら、戻った!」

 「いいじゃないか」

 「良く、ないんだよ!」

 「うるせえなあ」

 「あんたは、また、そういうことを言うのかい!」

 「…悪かったよ。これ、ちょうだい」

 「やめな、やめな?小学生が、そんな物を買うんじゃないよ」

 「ええ?だって、これ、学校で流行っているんだよ?」

 「だめだね。そういう、他人に流されることを言うようじゃあ、トップに立てないね。そのうち、日本の経済的繁栄も、外国に抜かれるようになっちゃうんじゃないのかね」

 30年が過ぎ、神の言葉は、またも、当たっていたとわかった。

 神、スゲえ…。

 「ほら。買うのは、こっちにしな」

 「あ!何でだよ、ばばあ!」

 「何?おばあちゃんは、神なんだよ?小学生のくせに、神を、なめてんのかい?」

 「うるせえなあ」

 「まただ!修正、してやる!」

 「ふざけんな」

 「言ったね?」

 「ああ、言ったよ?」

 「言ったね?じいさんにも、言われたことがないのに!この、小学生めが!」

 「神は、そっちじゃないだろ。神は、俺たち、客のほうだろ」

 「何?」

 「客は、神様なんだろう?」

 「おや。誰が、そんなことを言っていたんだい?」

 「学校の先生が、言ってた」

 「あんたは、先生に騙されたんだね」

 「何、それ?」





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