第2話 かわいそうだねえとかばってもらえなければ、気が済まなかったの?

 「むしゃくしゃ、してきたな。俺は、かわいそうな男だよ」

 今どき世代の子は、強くなった。

 ちやほやされて育てられた社会は、ハイスペックに近付いた。

 便利さ、二刀流。

 今どき世代の子たちなら、疑問に思えたことも、ちょこっと検索をしさえすれば良くなった。

 「社会の矛盾を、明らかにしていくぞ!勉強だ!本を、広げよう!」

 一昔前の学生はそう言ったものだが、今でなら、こう言われるようになった。

 「そんなの、スマホで検索すれば、一発じゃないか。考える時間が、無駄」

 何という、変化!

 進化して進化して、挫折して泣いちゃったりしなくても、良くなった。待っていれば、誰かが何かをしてくれるようになったのだ。

 「そんな今どき世代の子たちの、どこが、かわいそうだっていうんだ?俺たちは、なぜ、走らなければならなかったんだ?って、今も走り続ける俺は、何者?」

 無念で、ならなくなってきた。

 「ああ…。何だろう、この気持ち…」

 いつまでもまとわりつく疑問を、今どき世代の子当人たちに聞いてみれば、どうだろう?

 答えられないんじゃ、ないだろうか?

 まず、自分自身の力で何かを考え抜くことが、難しくなっていたからだ。

 日本社会は、どうなっていくのだろうか?

 夜道を駆けたヒビキは、いつまでも、無残だった。

 暗闇の雲の出す波動に押されて、不満だらけだった。

 「今は、新型ウイルス社会。他人とは、会いにくくなった。けど、それって、かわいそうなことなのか?今どきの若い世代の子たちって、そんなにも、誰かと直接顔をつきあわせてまで会いたかったのか?どう考えても、わからん。あの子たち…、普段からほぼほぼ、メールの付き合いばかりだったじゃないか。こういう社会状況になったことを良いことにはじめた、今どき流の言い訳にすぎないんじゃないのか?」

 今どき世代の子たちなら、こう、言ってしまうのだろうか?

 「僕たち、私たちは、世界に1つだけの存在なんですよ?何で、他の人の意見を聞かなくっちゃいけないの?僕たち、私たちが、どんなにかわいそうか、皆、わからないんですか?」

 うわあ、言いがちだ。

 教育の果たすべき役割が、ガタガタ、ミシミシ。社会的な柱を、支えきれなくなっていたのだろうか?

 そもそも、教育の果たすべき役割は、何なのだろう?

 「頭が、痛いよなあ」

 今どき世代の子たちなら、何らかの疑問に面しても、慌てず。

 「慌てない、慌てない。ポクポクポク、チーン…。一発、検索なんだろうな」

 瞬時に、答えを知ることができるようになった。

 「だからさあ…。考え抜いて、時間をかけてまで答えを導くことより、効率的」

 知識を貯めこみたいということだけなら、オンライン付き合いで、充分。その先で焦っても、問題なし。新卒という肩書きのある人たちなら、入社先で、手取り足取り、教えてもらえるようだしね。

 うらやましい、限り。

 「かわいそうなのは、この、日本社会全体なのかもな。こんな状況じゃあ、日本社会は、つぶれるぞ?今どき世代の子たちは、文句を、いうなよ。優秀な世代を押しのけてきた身分を、生かしてみろよ!…そんなにかわいそうには見えないのに、僕たち私たちはかわいそうだって自己弁護していくばかりじゃあ、つらいぜ?俺たちも、つらいよ。俺たちは、今どき世代の思うつらさを理解してあげたくても、なかなか、できないんだからな。つらさの感覚とレベルに、差がありすぎだ。理解してあげられないし、理解してあげたくもないと強がる心が、同居だな…。つらいことだ」

 夜道は、まだ、終わりそうになかった。

 暗闇の雲は、ずっと、まとわりついてきた。

 「僕たち私たちは、かわいそう!」

 そうなのか…?

 このままだと、今どき世代の子たちは、こう言われてしまうんじゃないのか?

 「あの子たちは、過保護でわがままな、新型ウイルス世代だ」

 そう言われずに生きるには、最低限、強い主張をもてなくっちゃ。

 「俺たちは、新型ウイルス世代。それが、何か?友達だけと付き合って、何かを創造したって、良いじゃないか。人間関係は限定されるけれども、それだって、新しい社会の生活様式だ!異論、ある?」

 そこまで言い切れる強さをもてたなら、良いのにね。

 「迷うな、お前たち!って、夜道に迷う俺が言っても、説得力がないのか?参ったなあ…。嫌な、気持ちだ。無意識のうちに押さえ込まれて忘れかけていた何かの思い出が、葛藤を、起こしているんだろうか?」

 ヒビキならではの哲学が、どこまでも、広がっていた。

 暗闇の雲が晴れることは、なかった。

 とてつもなく長い長い夜に、なっていた。

 「かわいそうという尺度でいって、許されるのなら…。本当にかわいそうなのは、今どき世代の子たちじゃあ、ないだろ!」

 ヒビキ流の尺度で、ヒビキを含めて、今どき世代よりもはるかにかわいそうな世代と考えられたのは、こう呼ばれる人たちだった。

 「就職氷河期世代」

 ヒビキを含めて、就職氷河期世代の人は、変な神と戦い続けてきた。

 たとえば、駄菓子屋での戦いが、名高かった。

 努力して小遣いを貯め、自分自身の足で駄菓子屋に走り、神と遭遇。

 「おや。今日も、きたね。生意気な、小学生め」

 「何だと、ばばあ!」

 「…こら!いつも、言っているだろ?そういう口のきき方をするんじゃ、ない!」

 「また、怒るのかよ!」

 「今日も、あたしと、戦うのかい?…よし。良いだろう、開戦だ」

 神とはもちちん、駄菓子屋店主のばあさんのことだ。

 その戦いによって、就職氷河期世代は、強くなれた。が、今どき世代の子は、その戦いを、ほとんどしてこなかった。

 ここに、不可思議なレベル差が生まれたものだ。

 それでも社会は、鍛えられ強くなった就職氷河期世代を、蹴った。

 「今どき世代の子たちは、ばばあにうるさく言われることもなく、ぬくぬく育てられた。楽々、社会デビュー。でも、かわいそうなんだってさ。どう考えたって、納得がいかないよな」

 今どき世代の子は、これにたいして、こう返すのだろうか?

 「だってえ…。僕たち私たちの子どもの頃は、駄菓子屋なんてなかったんだから、仕方がないじゃないか」

 何とも言えない答え方、だ。駄菓子屋の少なくなった社会で生活してきたのは、本当なのだから。

 でもねえ…。

 こんな泣き言と、大差なしだよ…?

 「だってえ…。僕たち私たちは、あの教育で育てられただけなんでえ。物心ついたときから、国が決めたあの教育で育ったんだから、仕方がないじゃないかあ。僕たち私たちは、あの教育の被害者なんでえ」

 自分たちの世代がかわいそうだと知ってもらい、かわいそうだねえとかばってもらえなければ、気が済まなかったのだろう。

 駄菓子屋の神なら、一刀両断に、怒るところだ。

 今、もしも、駄菓子屋の神が生きていたなら、こう言ったんじゃないだろうか?

 「おい!今どきの、世代!あんたがたが、かわいそうだっていうのかい?バカを言ってるんじゃ、ないよ!じゃあ、聞くよ?あんたがたは、誰に、金をもらっていたんだい?」

 神の小言は、ハイスペックだった。





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