駄菓子屋教室の教え~ばばあと戦って、バルバリシアと融合(←Hな意味ではない)~

@maetaka

第1話 駄菓子屋でばばあと戦った世代には、この言葉が、????→「今どき世代の子たちは、かわいそう」

 夢少なくして、夜道を駆ける自身の心が、暗闇の雲に襲われていた気がした。どうしようもなく、うらやましいくらいに、かわいそうだった。

 「俺って、何で、走っているんだっけ?」

 ヒビキは、夜道を駆けた。

 追い込まれた世代には、余裕などなかった。どの宝箱を開けても、はずれ。自己責任だと、言われるだけだった。

 「俺たち世代なら、自己責任。しかし、今どきの世代なら、かわいそうだねと言ってもらえる。この差は、何だろう?」

 気味が、悪かった。

 「まるで、理不尽な神曲だ。子どものころも、そうだったよなあ」

 かわいそうにも、いろいろだ。

 高齢者などは、こんなことを言っていた。

 「…若者は、かわいそうじゃ。夢が、ないんじゃよ。夢を、もてないのか?」

 これは、言いすぎでしょ。

 よくも、平気で、言ってくれたものだ。

 今どき世代の子の中には、ヤングケアラーと呼ばれる人たちのように、高齢者を支えるため、必死で、泣く余裕もなく動き回らなければならない子が出ていたというのに。

 高齢者は、今どき世代の子たちが、なぜ夢をもてないのかを、わかっていたのだろうか?

 わかろうとしてあげて、いたのだろうか?

 高齢者は、現役時代には、夢をもって、生きがいをもって働けていただろう。がんがん金を使って、がんがん、生活圏を広げていただろう。

 うらやましい、限り。

 その行動で、かわいそうなくらい、大きなカウンターパンチが返ってきた。がんがん使われたコストの収容キャパは崩壊し、大いなる負債が、次世代に押し付けられた。

 わがまま負債を、わけもわからずに、返済させられる世代…。泣く余裕も、ないのだ。

 それをわかっていて、高齢者は、こう言うっていうのか?

 「…今どきの若者は、かわいそうじゃ。夢が、ないんじゃよ。夢を、もてないのか?」

 よくも、言えたものだ。

 誰のせいで、走らなければならない人が出てしまったのか、本当の本当に、わかっていたのだろうか?

 「…うっせえわ!うっせえわ!」

 すべてが、かわいそうでならなかった。

 「かわいそうというのなら、もっともっとかわいそうな世代も、いたじゃないか!今どき世代のほうが、ましだ。俺たちの世代のほうが、ずっと、悲劇だったよな。すべてが、自己責任の名で、片付けられた。かわいそうだねと言ってもらえる今どき世代の子たちは、まだ、良い方だ」

 比較論ばかりで弱ってきたヒビキの心の波動は、暗闇の雲によって、確実に、突き続けられていた。

 新社会は、かわいそうなピンチばかり。

 まず、新型ウイルスによるピンチだ。世界中が、死滅の刃を味わうこととなった。

 「学校にいきたくても、いけない」

 「友達に、会えない」

 それはもう、ピンチだった。

 …かも、しれない。

 でも、本当に、そうだったのだろうか?

 どうしても、ヒビキには、納得がいかなかった。

 「今どき世代の子たちのほうが、俺たちよりも、絶対に、優遇生活じゃないか!」

 今は、就職氷河期という言葉も知らない子も、出ていたわけで…。

 そんな現実でも、今どき世代の子たちは、かわいそうだねって、言ってもらえるのか?何だろう、この、うらやましい不平等感!

 「若者には夢がないよなんて言えるあの世代のように、充分、わがままだ!」

 ヒビキには、子ども時代のある試練の思い出が、心に蘇ってくるばかりだった。

 「駄菓子屋の、思い出。自己責任物語…」

 ただ、苦しかった。

 「駄菓子屋…。歯の抜けた神との、戦い。懐かしいよな。今どき世代の子たちは、あの試練に理不尽な戦いを、知らないんだろうがな。良い、身分だぜ。うらやましい」

 思い出そう、駄菓子屋での戦い!

 あの神との理不尽な交渉を思い出せば、今の社会のピンチも、乗り越えられるさ!

 …え、そんなのは、たわごとじゃないのかって?だったら、この言葉だって、思いっきりたわごとで、変じゃなかったか?

 「今どき世代の子が、かわいそう」

 うーん…。

 やっぱりそれって、どうなのか?

 「今どき世代の子は、本当に、かわいそうなのか?俺哲学」

 夜道を駆け続けなければならなくなっていたヒビキには、疑問だらけだった。努力しても、泣いちゃっても良い便りを勝ちとれなかった世代には、特に!

 そんな、世代間比較で沈むヒビキたちにたいしては、こんな批判があった。

 「君は、世代間で比較しようとするから、納得いかなくなるんだよ。被害妄想で、こだわってしまうだけなんじゃないのか?」

 ごもっとも、だろう。

 けれどもヒビキは、比較で生きるのも悪くないんじゃないのかと、プンプンしていた。 

 個人の尺度をもって生きられるのは、尊いことだ。ただそれって、悪く言えば、オンリーワンであるということ。…わがままだ!

 そう思えたからこそヒビキは、無意識に、比べる生き方のほうを選択していたのだろう。

 「今どき世代のどこが、かわいそうなんだよ?過保護だとしか、思えない」

 今どき世代の子はかわいそうなのか否か論については、こんな意見も出ていた。

 「今どき世代の子が、なぜ、かわいそうだなのか?学校に、いけないからか?友達と、会えないからか?哲学だ。それって、友達社会の中で生きることに慣れすぎているから、そう思っちゃうだけなんじゃないのか?今どき世代は、就職氷河期世代のような競争はなし。就職も、楽。努力して、泣かなくても、OK。どこが、かわいそうなんだよ?友達文化は、良い。毎朝、小学校にいくときに、知らないおじさんに怒られながら登校するという理不尽な戦いも、経験しなかったろう。友達文化は、良い。もっとも、就職先の会社デスクの電話には、出にくくなるけれど。なぜって、電話の相手は、あなたの知らない人ばかりなのだから。あなたの知らない人とは関わってはなりませんなどという、過保護教育を受けてきた弊害が出た。それでも、今どき世代の子は、かわいそうなのか?かわいそうなのは、がんばっても沈められた世代のほうじゃないか」

 今どき世代の子は、つらかったというけれど、かわいそうとまでいえたのだろうか?

 「…俺は、どこまで走れば良かったんだ?今どき世代の子なら、走らなくても、良いんだろうがなあ。ちっとも、かわいそうじゃないじゃないか。わがままなんだよ!」

 社会は、闇夜。

 暗闇の雲に追われる夜が、続いた。

 「こんな夜よりも、駄菓子屋の夜のほうが貴重で、懐かしいよ」

 なんだか泣きそうにもなってきて、この夜は、簡単には、開けそうになかった。いつまでも、考えさせられそうだった。





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