11-5


 ヒュウマさんの友達は、掃除当番や係の仕事を押し付けられていた。他の人がサボりたいから、面倒ごとを全部やらせていた。それなのに押し付けた人達は感謝もせず、仕事をしたのは自分達だとウソをついていた。

 気弱な友達は本当のことを言えなかった。担任の先生もそのことに気付かないまま、要求はどんどんエスカレートしていった。

 ヒュウマさんは何度も「大人に相談しよう」と言い続けた。でも友達は「迷惑をかけたくない」と言って、ずっと黙ったままだった。


「そして親友は……学校に来なくなった」


 遂に我慢の限界が来たヒュウマさんは、学級会の場で全部打ち明けた。どうして友達が不登校になったのか、みんなに知ってもらうために。


「だが、にされた」

「それって……」

「そのままの意味だ」


 友達を利用していた連中は、言葉巧みにウソを並べた。「遊びの罰ゲームだった」「友達同士の悪ふざけ」と、適当な言い訳をした。もちろんヒュウマさんは反論した。けれど、他のクラスの子は誰も、ヒュウマさんの味方をしてくれなかった。余計なことを言って、面倒事に巻き込まれたくなかったからだ。

 結局、話は何も進展しなかった。担任の先生も、ヒュウマさんが混乱しているだけ、ということにしてこの一件を終わらせてしまった。


「中学三年……受験を控えているクラスで、問題を起こしたくなかったんだろうな」

「でも、先生がそんなことするなんて……」

「教師も人間、大人なんてそんなものだ」


 その後は最悪だった。先生に告げ口をしようとした、ということで裏切り者扱い。ヒュウマさんはクラスのみんなから、毎日ひどい目に遭わされた。殴られたり蹴られたり、自分の物を壊されたり。

 誰も助けてくれなかった。担任の先生も見て見ぬ振り。正しいことをしようとしたのに、正直者がバカを見る結果になってしまったのだ。


「分かったか?人間なんて、みんな悪意の塊なんだ。大人も子供も関係ない。……神の力を得て、つくづくそう思ったよ」

「だから、人間を滅ぼすの?」

「ああ、そうだ。貴様もそう思わんか?」


 なんて悲しい話なんだ。周りの大人、子供……みんなが悪意にまみれていた。だからヒュウマさんは、こんな考えを持ってしまったんだ。

 そんなのおかしい……なんて、軽々と言えない。

 もしオレがヒュウマさんだったら、きっと同じことをしていた。ギンガがいじめられて、誰にも助けてもらえず、なかったことにされるなんて。絶対に耐えられない。

 全て滅ぼしたい、その気持ちは痛いほど分かる。でも、


「その友達のことも……滅ぼしちゃうの?」

「え……」


 ヒュウマさんは、大事なことを見失っている。

 友達のことを思って声を上げたのに、いつの間にか目的が人類滅亡にすり替わっている。

 何もかもが嫌になって、全部終わりにしようとしているんだ。


「オレ、バカだから。難しいことはよく分からないけど……。友達も一緒に滅ぼしてまで、するようなことじゃないと思う」

「な、な……何を言って……我は、我は……」

「ヒュウマさんは……友達を助けたかった。間違いを正したかった。本当はそれだけだったはずだよね?」

「う、うるさいうるさいうるさいっ!我に意見するなっ……!」


 頭を抱えてもだえ苦しむヒュウマさん。どうやら混乱しているようだ。

 神の力を得たから、その力で誰もいない、誰も苦しまない世界を作ろうとした。だけどそれは、すごく極端な考えで、最初の思いからかけ離れていった。


「これしかないんだ……真の平和のためにはこれしか……」

「そんなことないよ」


 オレはもう一度、苦しむヒュウマさんに手を差し伸べる。


「確かに人それぞれ色んな考えがあって、気持ちがうまく合わなくって、ぶつかり合うことだってあった。でも人間は……オレ達は、みんなで力を合わせることだって出来るんだ」


 ヒュウマさんを止めたい。その気持ちを一つにしたことで、オレの神の力は復活した。こうしてヒュウマさんの心の中に入れたのだって、みんなの思いが力をくれたからだ。自分だけの力じゃあ、こうはならなかった。


「争ったり傷つけたり……これからもきっと、いっぱい間違うことだってある。でも、諦めちゃダメだと思う」

「でも……我のことを助けてくれる者など……」

「いるさ、ここに」


 オレはどんっと胸を張る。




 

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