11-4


「マダ我ニ刃向カウツモリカ……!」


 巨人になったヒュウマさんが、何度も特大の拳を振るう。オレを叩き落とす気なんだ。でもオレはブースターを操り、その全てを華麗に避けきる!


「何ッ……!?」

「どうだ、これがみんなの思いの力だ!」


 虹色の力が、オレに勇気を与えてくれる。

 絶望に立ち向かう、思いを貫き通す力が溢れ出す!


「我ノ邪魔ハサセン……人間ハ必ズ滅ボス……!」

「いいや。そんなこと、オレが絶対止めてやる!」


 ヒュウマさんの目線に合わせて、その正面でオレは宣言する。


「ハハハハッ!貴様ニ我ガ止メラレルトデモ……?ドウヤッテダ?」

「ああ、もちろん。こうするんだ!『ジャンク組成ダー・レインボー』!」


 オレは右手に、グーパンチ型の鋼鉄のグローブを作り出す。虹色に輝いていて、隙間もない。とても硬そうで、美しい形だ。


「フン……ヤハリ貴様モ、暴力デシカ解決出来ナイトイウコトカ」

「それは……」


 このグーパンチは、初めての戦いの時に作った物と同じだ。自分も対抗しようとして作った、殴るための武器だ。

 それにヒュウマさんとの戦いで、オレは工具を凶器にしてしまった。やられたらやり返す、その思いに支配されていた。

 ヒュウマさんが言われた通り、オレも暴力に訴えてしまう、おろかな人間なのかもしれない。

 でも――


「ドウシタ?ヤハリ図星デアッタ――」

「それでも、オレは自分が信じる道を行くだけだっ!」


 ――人間は話し合って、分かり合って、解決出来るってことを信じたい。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 オレはブースターを点火。拳を振り上げて、ヒュウマさんへと突っ込む。文字通りのロケットパンチだ!


「結局、暴力デハナイカ!」


 迎え撃つヒュウマさん。巨大な拳が迫り来る。


「いいや、違う!」

「何ガ違ウト言ウノカ!?」

「オレは……!」


 拳を紙一重でかわして、オレは巨人の左胸へ突っ込む!


「オレの手は……!」


 右手のグーパンチを開く。その形はパー……いや、差し伸べる手だ。


「心を繋ぐための手だっ!」





 真っ暗闇だ。

 周りは全然見えなくて、足元には紫色のもやが溜まっている。

 まるで闇そのものの中にいるみたいだ。


「なぜ……貴様がここに」


 そんな闇の中に、ぽつんとたたずむ人の姿だけが見える。

 フードを深く被ってうつむいたままの、独りぼっちのヒュウマさんがそこにいた。


「ヒュウマさんを……助けに来たんだ」


 オレは右手――何も装備していない、そのままの手を差し伸べる。

 だけどそれは拒まれて、ぱしっとはたかれてしまう。


「……我は、助けなど求めていない」

「そんなことない!」

「貴様に何が分かる!?」


 ヒュウマさんは心を開いてくれない。

 ずっとこの闇の中で、一人でいる気なんだ。


「……じゃあ、どうして人間を滅ぼそうとするの?」

「争いをやめない、おろかな人間を消し去るためだと言っただろう」

「なんで……なんでそう思うようになったの?」

「それは……」


 ヒュウマさんが語ったことは、みんな心のどこかで思っていることだ。

 戦国時代も世界中で起きた戦争も、人の物を奪い合って壊してきた。それなのに、今も争いは終わらない。神様候補同士の争いだってそうだ。自分が神様になるために、みんな他人のことを蹴落とそうとした。

 どんなに悪いことをしても、人間は全然学ばない。同じことを繰り返す。だから一度滅んだ方がいい。そうすれば誰も悲しまずに済む。

 だけどその考え方からは、ヒュウマさん自身が見えない。過激な考えを、ただ実行しているだけだ。

 ヒュウマさんがどうして、人間の全てを終わらせたくなったのか。そのきっかけが分からなかった。


「貴様は……大人の汚さを知っているか?」

「うん……一応」


 メブキさんの村が潰された話。偉い人達が勝手に話を進めて、弱い者いじめをしたことは知っている。

 大人が完璧だなんて、そんなこと全然ないんだ。


「なら、子供は?」

「こ、子供って……オレ達のこと?」

「そうだ。我々子供の場合はどうだ?」


 ヒュウマさんの問いかけに、オレは言葉が詰まってしまう。

 神様候補同士の争いで、みにくく争う姿をいっぱい見てきた。オレだって戦いを止めたいと言っていたけど、自分の気持ちを抑えきれないことだってあった。

 それにオレ達だって、いつかは大人になる。その時、汚い大人にならないなんて言い切れない。


「答えられないか……」


 残念そうに、ヒュウマさんは溜息をつくと、


「我の昔話を一つ、貴様に話してやろう」


 重い口を開いてくれた。


「我の友人に、気は弱いが優しい心の持ち主がいた。いつも誰かのことを思って、自分のことを後回しにする。どんな頼み事も断らず、懸命に取り組んでいる、オレの最高の親友だった。……だが、他の連中にとってはただ『都合のいいヤツ』でしかなかったんだ」

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